第16話

「始め!」


 始まりの合図とともにマッドは詠唱を開始する。


「大地よ!我が意に従い彼の敵を刺し穿て!ブレイクランス!」


 マッドの左右から一本ずつ槍のように地面が伸びる。


 アルトは右からの土槍を避け、そのまま左からの土槍を切る。そしてそのまま、一気に踏み込み間合いを詰める。


「くっ、大地よ!我が身を守る盾となれ!グランドウォール!」


 マッドは咄嗟に自分とアルトの間に土の壁を作り距離を取ろうとする。

 だがアルトはその壁を両断し、切断した土の壁だった破片を蹴りマッドへ飛ばす。

 マッドは咄嗟に腕で防御したものの、次の魔法を唱えようとした時には、既にアルトの剣が首筋で止められていた。


「勝負ありだな?」


「ま、参りました」


「では次!」


 次に指名されたのは茶髪の少年ゾイル。やたら自信に満ちているが、果たしてどうなるか。




 カキィン


「勝負ありだ」


「クッ……」

 結果なかなか善戦したが剣を弾かれ詰みだ。この年にしてはできる方だと思う。数年後に期待といったところか。


 その次は赤髪の少女アリナ。これはなかなか見ごたえがあった。


 彼女はレイピアのような剣による接近戦を主に、火と風の魔法を織り交ぜた私に似たような戦い方をする子だった。


 序盤はアリナが押し気味だったが、アルトが様子見をやめた辺りから押し返され、あと一歩及ばず敗北といった感じだ。


「じゃあ最後はエクレールだ」


「まだ休んでなくていいの?負けた時に連続で戦って疲れてたからは無しだよ?」


「そんなことは言わんさ。さぁ始めよう。アリナ、合図を」


 エクレールとアルトは互いに構える。


「それでは、はじめ!」


 合図と同時にエクレールはアルトへ突っ込み上段から切り下ろす。

 アルトはそれを紙一重で避けカウンターを放とうとするが、エクレールは切り下ろした刃を地面スレスレで止め、返す刃を切り上げる。

 俗に言う燕返しだ。

 アルトは対処が一瞬遅れたが、なんとか刃を受けることに成功する。

 しかし、それによってアルトは思いっきり体勢が崩れる。

 それをエクレールが見逃す筈も無く、切り上げたあと更に踏み込み横薙ぎの一閃を放つ。

 アルトはこれを防げ無かったが、エクレールが首筋で刃を寸止する。


「参った」


 アルトは剣を手放し両手を上げる。

 まだ始まってから10秒も経っていないにも関わらず決着がついた。


「いやはや、まさかこんなにも一瞬でやられるとはな。思ってた以上に化け物だったみたいだな」


「人のこと化け物呼ばわりするのはあんまり良くないと思うよ?それより合格ってことでいいの?」


「そうだな。今回の試験全員合格だ。最低限モンスターを相手にできる実力があるかを測る試験だからな。皆、このまま研鑽をつめば高ランクにいけると思うぞ。」


 エクレールはアルトに勝利したので当然といった表情。他の3者はホッとしたような様子だ。


「ホッとしてる場合じゃないぞ?これからはモンスター相手に戦っていくんだ。この試験は始まりに過ぎないって事を覚えておけよ。じゃあ俺は試験結果を伝えてくるから、受付で新しいギルドカードを受け取ってくれ」


「私はギルドカード?ってのもってないけど?」


「そうだったな。その辺も受付でどうにかしてくれると思うぜ。これからの活躍を期待してる」


「分かった。いつでもリベンジ待ってるよ」


「ああ、何度挑んでも勝てる気がしないけどな」


 こうしてエクレールは冒険者試験に無事合格したのだった。

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