第9話

 ハースが呼びに来たので、エクレールはアインたちと別れハースについていく。

「よく私が騎士団のところにいるって分かったね」

「お部屋に伺ったのですがいらっしゃらなかったので、フラム様と話していた事を思い出して見にきたらいらっしゃったという運びです」

「なるほどね~」

 などと話しているとハースが扉の前で止まる。ハースはその扉をノックすると

「ハザード様、エクレール様をお連れしました」

 と声をかける。すると

「ご苦労。入れてくれ」

 中から男の人の声がする。

「失礼致します。エクレール様こちらです」

 エクレールが部屋に入ると、そこにはエシリアといかにも仕事が出来そうな中年の男が座っていた。ハースは部屋には入らずお辞儀をして何処かへ行ってしまった。エクレールがエシリア達と向かいのソファまでくると、男が口を開く。

「この度は妻を助けてくれて有難う。本当に感謝している。」

 と開幕感謝の言葉を口にする。

「あまり気にしなくていいですよ。たまたま近くにいただけですから、エシリアがラッキーだったってだけですよ」

「それでもだ。貴方が居なければ妻とこうして会うことは無かったかもしれない。それに妻の命の恩人をタダで返すような真似をすれば、メルセンの名に傷がつく。こちらを救うと思って礼をさせてくれ」

「わ、わかったよ」

 貴族のメンツを保つみたいな話だろうか。私にはどうにもわからない

「そうか!それは良かった。コホン自己紹介がまだだったな。私はハザード・メルセン。オルグの領主をしている。改めてこの度は本当に有難う。」

「私はエクレール。旅人だよ」

「妻から聞いている。それで報酬の件だが、まずはこれを受け取って欲しい。」

 そういって取りだされたのは白金の小判のような物が10枚程だ。どれぐらいの価値があるのか分からないので戸惑っていると

「この量では不満かね?」

 と聞かれてしまった。

「いや、実の所生まれてこの方、師匠と共に俗世から離れて生きてきたから、これがどれ位の価値があるのかピンとこなくて。」

 実際神界にいて下界のことを何も知らないからという理由なのだが、それを言えば私は神ですと言ってるようなものだ。

 そもそもいきなりそんなことを言われても信じないだろう。なので常識や物の価値が分からない時のための言い訳として、設定を考えていた。

 それが、俗世から離れた隠れ里で師匠と共に生きてきたというものだ。修行はもう十分だと師匠の空間魔法で適当な場所に飛ばされたが、里から出たことがないから里の位置は分からず、師匠と連絡を取ることは出来ないし帰れもしない。完璧だ。あの森に居たこともこれで説明がつく訳だ。

「師匠は物の価値については何も教えてくれなかったのかい?」

「修行と関係ないことはほとんどなにも。私も外の世界にあまり興味が無かったので聞くこともなかったしね。」

「ふむ…ではまずは貨幣の価値を教えようか。」

 そこからハザードが詳しく教えてくれた。

 まず貨幣には銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順に価値があり、それぞれ100枚で次の貨幣1枚になる。

 銅貨100枚で銀貨1枚

 銀貨100枚で金貨1枚

 金貨100枚で白金貨1枚

 というわけだ。因みにパン屋でパンを買うのに銅貨2枚、普通の宿に3泊ほどするのに銀貨1枚ほど程らしい。

 そして机の上には白金貨10枚。銀貨換算10000枚だ。贅沢しなければ余裕で数年生きていけるだけの大金だ。

「そう聞くと凄い額だね。ほんとにいいの?」

「妻の命の値段と言い換えるとまだまだ足りないがな。今渡せる額としてはこれが限界でな。これで納得してほしい」

「十分だよ。こっちがやったことといえば通りすがりに盗賊倒しただけだからね。感謝はすれど文句は言わないよ」

「すまないな」

 こうしてエクレールは報酬として、白金貨10枚をてにいれたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る