第7話

 暇つぶしにフラムの誘いに乗ったら、メルセン騎士団団長アインから戦いを申し込まれたエクレール。

「戦いってのは模擬試合ってことでいいんだよね?」

「もちろんだ。エシリア様の恩人となんの理由もなく死合などする気はない。」

 これって遠回しに理由があれば死合も辞さないって言ってるようなものだよね。

 エシリアはいい騎士に恵まれているな。命を賭ける=忠義って訳ではないけれどそれなりの覚悟がなければ出来ない発言だ。

「うーん…まあいいよ。見てるだけってのもつまらないしね」

「そうこなくちゃな!…武器は持ってないようだが、素手で戦うのか?」

「うん。基本は格闘術と魔法を使うスタイルだね。単純に武器を取り出すのが面倒だからって理由だけどね。あ、そうだ、せっかくだし久々にあれ使おうかな」

 そういってエクレールは空間収納から一振りの刀を取り出した。漆黒の鞘に収まり、鍔は龍の蹄の様な形をしている。その刀は鞘に収まっているにも関わらず、見るものを強烈に引き付ける何かがある。

「……ハッ!エクレール殿!そ、それはなんなのですか?」

 刀に魅入っていたアインは思わず問いかける。

「これはね、龍刀アルテマって言って先だ…じゃなくて師匠が使ってた刀でね。私が持ってる武器の中でも特によく使う武器だよ。」

 私が龍神になる前に私を鍛えてくれた(ボッコボコにされた)先代の龍神アルテマが自身の名をつけるほどの刀だ。龍神の座を継ぐときに一緒に渡された私にとっては龍神の証とも言えるものだ。

 渡された時は四六時中、身に着けていたが数千年たった頃には空間収納の肥やしとなっていた。戦神達との訓練の時に使ったりもしたがそれくらいだ。

「刀に魅入ってしまってスルーしそうになったが、エクレール殿は空間魔法まで使えるのかよ!?」

 アインと同じく刀に魅入っていたフラムが我に返るなり驚いている。

「あれ?言ってなかったけ?」

「言われてないですよ!」

 思い返してみればフラム達と出会ってから空間収納からものを取り出していないか。

「特に隠すつもりもなかったんだけどね。見たことある魔法だったら大抵は使えるよ。氷以外にも炎とか雷なんかも、同じくらいには使えるし」

「氷の魔法だけでもとんでも無いのに、他の魔法もあのレベルで扱えるとか反則だろ…」

「使えるものは使えるんだから仕方ないよね。」

 そう、使えるんだから使わなければ勿体ないというものだ。

「コホン、ではその刀を使うということで?」

「そうだね。そっちはその腰の剣を?」

「うむ。この魔剣ノートゥングにてお相手させてもらう。ではそろそろ始めようか。」

 アインはそろそろ始めようという。

「あ、ちょっと待ってね」

 そういうとエクレールはその場でくるりと回る。すると体がピカッと光り、着てるものが着物と袴になっていた。

「な!?」

「空間魔法の応用だね。あの格好だと鞘挿しとくとこ無いし、刀使うときは大体これ着てたからね。」

「エクレール殿といると退屈することはなさそうだな…」

 エクレールが普通にやってみせた空間魔法での早着替えは超がつくほど繊細な魔法操作が要求される高度なテクニックだ。失敗すれば裸になってしまうし、なにより空間魔法によって体がちぎれ飛ぶ可能性すらあるのだが、本人が気にした様子はない。

「ごめんごめん、さてやろうか!」

 気を取り直してそういうと、アインとエクレールは得物を構える。

「フラム、審判を頼む」

 アインがそう言うとフラムは不承不承と両者の間に立つ。

「では、メルセン騎士団団長アイン・シュベルツと旅人エクレールの模擬試合を始める!両者準備は?」

 アインとエクレールは互いに頷く。

「では、始め!」

 ここにアインとエクレールの模擬試合が始まるのだった。




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