第4話
「助けてっ!!!」
僅かに聞こえたその声にエクレールは驚く。
龍種であるが故、当然5感もずば抜けて鋭く、エクレールでなければ聞き逃していた様な遠い距離からの悲鳴。
遠いと言ってもエクレールの速力であれば、取るに足らない様な距離であり、人に会う事が目的の今助けない理由はない。
「助けてやるか。」
ビュンッ、と
エクレールは空を切るような速度で走り出す。ものの10秒程で声の主の元へたどり着くと、そこには馬車を背にした高貴そうな金髪の女性と、それを守る赤髪の騎士。それを取り囲むように、盗賊だと思われる奴らが20人程。
あと馬車の周りに御者らしき人と盗賊が数人倒れている。
「そろそろ観念したらどうなんだ?この人数差相手に良くやったもんだよ。抵抗しなきゃ悪いようにはしないからよ。クククッ」
とリーダーらしき人物が言うと、ケラケラと周りと盗賊達もつられて笑っている。
「私はエシリア様の剣!どんな逆境だろうと私が諦めることは無い!」
と騎士が咆える。この人数差でなかなか見上げた根性だ。戦いは基本は数が物を言う。質より量と言う訳だ。質が量を凌駕する事は稀だ。その数少ない例がエクレールなのだが。
盗賊のリーダーが剣を振り上げたのを見て、見ている場合じゃないと判断し、木陰から飛び出す。
「じゃあな!騎士さグェっ!」
なにか言っていた様だが、気にせず懐まで間合いを詰め顎を蹴り上げる。
盗賊たちがわけも分からず怯んでいる中、赤髪の騎士はいち早くこの状況に気づいていたようで、私の奇襲に合わせて攻勢にでたので、私も負けじと殲滅を始める。
といっても、ひとりひとり相手にしていると面倒なので、魔法を使うことにした。
「結霜せよ」
エクレールが1言呟くと周りにいた盗賊の体がどこからともなく凍りついてゆく。
「な!?」「うわっ!」「魔法!?」
為す術もなく凍りついてゆく盗賊を眺めながら騎士の方を見る。目の前の敵が急に凍りついたのに驚いているようだ。
「エシリア様!お怪我はありませんか!?」
我を取り戻した騎士が女性に駆け寄る。
「フラム!まずはこの御方に礼をするのが先でしょう!私は大丈夫ですから。」
女性と騎士が此方に向き直り口を開く。
「この度は助けていただきありがとう御座います。私はエシリア・メルセン、こちらの騎士はフラム・カイゼル。私の護衛騎士です。」
「エシリア様の護衛騎士フラム・カイゼルと申します。此度は助太刀感謝します。」
女性の方はエシリア、騎士の方はフラムというらしい。
「別にいいよ。通りかかっただけだし。あんな不利な状況で見捨てる人のほうがすくないでしょ」
「なんと器の大きい御方!お名前をお聞きしても宜しいですか?」
エシリアが名前を求めてきた。真名を教えるのは不味いだろうか。なにかいい名前は…面倒だからいいか!
「…私はエクレール。ざっくり言えば旅人だね」
「エクレール様!なにか御礼をさせてください!この場では何もできませんが、街へ帰れば相応の対価をお支払いできると思います」
「分かった。私も街へ行きたかったんだよね。とその前にそこに倒れてる人そのままでいいの?」
「お気遣いなく。起きなさい!レイムズ!」
「………ハッ!いつの間に気を失ってしまったようですな。おっと、そちらの美しい女性は?」
「旅人のエクレール様、私達の命の恩人ですよ」
「それはそれは。改めまして助けていただき誠にありがとう御座います、私はエシリア様の執事を務めておりますレイムズと申します。以後お見知りおきを」
「う、うんよろしく」
このレイムズとかいうおじいさんはなかなか個性的みたいだ。最後にウインクしてきた。
「そ、そうだ、この盗賊の氷像はどうする?砕いとく?」
「そうですね。それでもいいですが、街まで連れて帰って犯罪奴隷とする方が利益になりますが、いかがなさいますか?というか生きてるんですか?」
「うん。魔法解けば生きてると思うよ。でも持って帰るのも面倒だから砕いちゃおうか」
パチンッ
エクレールが指を鳴らすと盗賊の氷像達は粉々に砕け散った。
「さっきも思ったが凄まじい魔法だな。1言つぶやいただけで、盗賊共が凍りついた時は目を疑ったぜ。」
フラムの喋り方が柔くなったな。素はこっちなのか。
「そう?やっぱり剣や拳で戦ったほうが楽だよ?」
「あのリーダー格をやった蹴りと確かに凄かったな。一瞬で木陰から飛び出してきたのもそうだし、魔法も格闘もできるとか反則だな、てか剣も使えるのかよ」
「ある程度ね、知り合いが鍛錬に付き合えって言うから付き合ってたらいつの間に覚えてたって感じだけど」
「皆様、出発の準備が整いましたぞ」
どうやらレイムズが出発の準備を進めていたらしい。仕事はなかなかできるようだ。
「では行きましょうか」
エシリアとフラムが馬車に乗り込んだので後を追う。
「では出発しますぞ」
エクレールが乗り込んだのを確認してレイムズが馬車を動かす。
念願の下界の街に向けて出発するのであった。
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