第4話

「羽滝様、お待たせいたしました。お席へとご案内させていただきます」

「あ、海真珠さん呼ばれましたよ~はーい!」

「こら、そんな元気に返事すんなよ。雰囲気ぶち壊すなって」


そう言いながらついていく。周りはまあ、予想通りというかカップルが多くて子連れがくるようなレストランみたいな感じではないな。

水中にいるようなレストラン、そのコンセプトが売りなのがよく分かる。壁は深海のようにほんのりと石が光っていて、大きな水槽の明かりとテーブルの上にあるチョウチンアンコウのランプみたいな明かりや、床のほのかな光しかない。幻想的だ。深海が苦手な人は少し入るのは難しいレストランかもしれない。

席に案内され、ゆっくりと座る。席も深海イメージか光が反射するとキラキラと光るが、影は深海の影の部分によく見える。


「へへ、綺麗っすね~端っこの席だからお魚はあんまり見れないけれど」

「魚見ながら魚の飯食うなんてできなかったろうし一番いい席じゃねえの」

「ふふ~確かに、隣の人との距離もまあまああるし…これならあーん、許可もらえますね!するっす!」


えへんと宣言をする天使に笑ってしまう、宣言せずにやりゃいいのに。


「あ、笑ったすか、今!もう、怒っちゃうんすからね!」


ぷくりと頬を膨らませた天使を横目にそういえばメニューは予約したと言っていた、ということを思い出す。しっかりとしたレストランなのだろうか。


「なあ、ここテーブルマナーとか気にしないといけないところか?」

「そんなに気にしなくてよかったとは思うっすけど…なんでです?」

「前菜とか出てくる所だったらしゃんとして食わないとなって思ってな…」

「しゃんとして食べるところだったら服装しゃんとしてきてって言いますよ~!そんなヤクザみたいな服装の許可、朝しないですよ」

「あ?」

「あ!スーツでもヤクザみたいだったかも…」


そう言われて足元が見えないことをいいことに足を足蹴にしておく。

いたあいとぴよぴよ泣く天使のヤクザいじり、まあまあ気に入らない。

お前がほめてくれた髪型と顔と体格の相性が悪い方にピッタリすぎるのはわかるがいちいちうるさいのだ。んなこと言ったらお前は服装と髪型、身長と顔、髪色が相まってファンタジー世界の白タイツ履いた王子様みたいなやつだからな。出会ったとき白馬になんで乗ってなかったんだよ。


「ヤクザと飯食ってるみたいな感じにしてやろうか」

「うええ~ごめんなさい……冗談…冗談です……ぴええ……」

「なあ、最近ぴえんとかぴええとか言うけどどういう……」


そう言いかけていると店員が料理を運んできた。ああ、そういえばメニューは予約してたんだっけか…どんなメニューを予約したのだろうか。


「へえ、美味そうだな」

「海真珠さんが好きそうな和物の方にしたっす!ほかにも洋の…なんだっけ?ムニエル?」

「ふーん、ムニエルもあったのか。やっぱ魚が中心だったのか?」

「お肉もあったけど、デザートにあんことか、ごまとか…和物系はこのメニューだけだったんすよね~」


煮つけのようでやわらかそうで美味そうだ、完璧に俺の好みだな。

……俺を思ってメニューを選んでくれたようだ、肉の方がよかったろうに。


「ありがとよ、別によかったのに。お前肉の方が好きだろ」

「夜お肉食べる予定なんで!気にしなんで欲しいっす!」


ぱあと暗いレストランなのに花が舞うのがわかる、若々しいな。

そういえば夜は焼肉だったか。明日胃もたれが心配だ…


「それに何だっけ、サラダ?も美味しそうだったんすよ~って、そういえばデザート以外は一気に出して欲しいって予約したはずなんすけど…出ないのかな?」

「そんなことまで決められるのな。い―レストランだこと」

「ね~!あと野菜とスープ…っていうかお吸い物?と何があったかな…」

「完璧に和食なんだな」


そう話していると続々と物が運ばれてくる、話せば来ると言うのはほんとなんだな。


「揃ったし食べましょ!」

「おう…」


よくよく見るとすごい量だ。

カリカリの揚げ魚が乗ったサラダ一皿に白身魚の吸い物、魚の煮つけに茶碗蒸しや軽めの刺身など、普通にフルコース分ありそうだ。

やっぱり夜ご飯食えないかもしれないな…


「おいしそうっすね~さっきちらっと予約メニュー見たんすけどお魚の出汁を楽しむメニューですって~そのお刺身はお茶漬けにするみたいっす。その……やかん?には出汁が入ってるらしいっす!」

「……これは急須な」


ジェネレーションギャップなのだろうか…急須をやかんと間違えるやつ、初めて見た。確かに今の子は電子ポットとかなのだろうか…


「きゅ、きゅうす……それには出汁が入ってるらしいっす…」

「ん、教えてくれてありがと」


説明はなかった、のて覚えている限りのメニューの説明をしてくれているのだろう。


「えーと、茶わん蒸しもお魚の出汁で溶いた卵液とか…サラダのドレッシングも出汁が入ってるとか…」

「ほんとに至るものに出汁が入ってるのな、美味そうだ」

「そうですね!説明面倒なので食べますか」

「はは、食べるって言ったの2回目だぞ」

「え!?そ、そんな言ってたっすか…?楽しみすぎて……」


えへへと照れる天使がおずおずと手を合わせる、食べようとしているのだろう。俺も食べたいから手を合わせよう。


「じゃ、いただきます」

「いただきます!」

「大きな声ださねえの」


少し笑ってしまうと天使が顔を真っ赤にして照れていた、照れている理由はよく分からんが、それを言うとうるさいし無視しておくか。

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