第2話

__水族館


「お~!入口がサメさんのお口ですよ!写真撮りましょ~海真珠さんそこ!そこ立ってくださいっす!僕が腕によりをかけて撮るっす!」

「写真で腕によりをかけるってなんだよ…ほら、邪魔にならないうちに早く撮れよ」

「海真珠さん~!なんでそんなヤクザみたいな立ち方なんすか…もっとこう…お姫様みたいな立ち方とかできないっすか…子供が怖がっちゃうっす!」

「んだそれ!おら、早く撮れって」


ぶつくさ言ってくる天使を黙らせて写真を撮ってもらう。

……俺に可愛いポーズが似合わないのは知っているし、一人で写真を撮るなんて恥ずかしくて良いポーズをできない。


「えへへ、可愛いポーズじゃなかったけれどかっこいい海真珠さんも可愛いので大切にしちゃお」

「なんだそりゃ…お前は撮らんでいいのか?」

「ん?僕はいいっす。そんないい歳なので…」

「お前!俺に撮らせたのはどこのどいつだ!」


ばんと背中を叩くと泣き言を言う。お前な、俺はお前の10以上、上なんだぞ。


「おら、中はいるぞ」

「うう~痛い……あ、手つないで入ってもいいっすか?中暗いですし!ね?」

「無し。いくら暗くても人がいすぎるわ」

「ぴえん…じゃあ腕組は?」

「腕組…まあいいぞ。お前となら父親と子供にしか見られんわ」

「うええ~恋人として見られたいっす…」


ぴいぴいと言う天使なんて知るか、と腕を伸ばす。

腕組をする際は俺が手を絡める側なので早く腕の形を作ってくれないと俺がただ手を伸ばしてる不自然な奴になってしまう、はよしろ。


「…へへ、でも腕組ませてくれるのは嬉しいっす!はい、どーぞ!」

「ん、いちいち言わずにやれ。恥ずかしい奴だな…」


そう言って天使がぐっと腕を組んでくれる。

……恋人に見られたいか。世間からしたら男同士のカップルは白い目の対象だろうから俺は嫌なのだが。考え過ぎなのだろうか…


「あ、見てください!サメさん!サメさんっすよ!入口のとそっくり!おっきい!小魚さんもいるっす!……なんで小魚さん達が一緒に入ってるのに食べないんすか?」

「ああ~なんか理由があったと思うが…何だったかなぁ…小魚が大量に居たり他の魚がいたら食わないんだっけ?」

「へぇ、面白いなぁ…って、それほんとっすか?」

「知らん、あんま覚えとらんな」


えぇ~と不満そうな声を上げる天使を無視してサメを眺める。いろんな魚と共同生活を強いられてるサメ、なんか可愛そうだな。いや他の魚も可愛そうだけど。


「ま、そんな詳しい訳じゃないからそんな信じるなよ」

「ふふ、海真珠さん物知りだから知ってるかと思ったっす。了解っす!」


大きな声を出すもんだから前の母親であろう人にガン見される。まぁ水族館で大きな声…しかもなかなか聞けない高音の声、ちらりと気になってしまう人もいるだろうし、なんなら俺は声が壊滅的に低いので何話してるんだ?と見られることだって少なくない。腕組むのやめといたほうが良かったかもな。

俺らは年齢、見た目、声、性格…色々と対比なのだ。


「大きい声出すなよ。ほら行くぞ」

「うえ~はーい…あ、次はイルカさんっすよ!イルカさんかわいい~」

「イルカ可愛いか……?意外とざらざらしてて肌触りは良くないぞ」

「そういう海真珠さんみたいなクッションの肌触りを求めるみたいな感じじゃないんで…ほら、つぶらなお目目!海真珠さんにそっくりっす~!」


似てねえ、世間的に考えてイルカの方が可愛いだろ。なんて思いながらそろりと見る。

あまりイルカは好きじゃない、昔触った時にざらざらしていたからか分からないがショックがひどくてそれ以来あまり好ましくない。


「イルカさん可愛いっすね…えへへ、かわいい」


……少しだけジェラシーのようなものを感じるが動物、それも魚、イルカ。に対抗心なんて燃やしていられない。というか燃やすもんじゃないし俺の事が好きなのは知ってるし……いや、なんもない。


「海真珠さんももちろん可愛いっすよ!イルカさんよりかわいいっすよ~」


そう言ってぎゅうと抱きしめてくる。見透かしやがって……!


「おあ!?海真珠さんお顔真っ赤~!?大丈夫っすか?お熱…?」

「うるせえ!んなわけあるか!ほら、イルカ見ろよ、俺の事は見るな!」


そうぎゃあぎゃあ騒いだせいで余計注目を浴びてしまった。お前らこっちのこと見てくんな!

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