人のせかい
バブみ道日丿宮組
お題:冬の電話 制限時間:15分
人のせかい
昔の電話というのはお金がかかったらしい。
今ではボタン一つでどこにもで無料でかけられる。服の装飾品になった今じゃありがたい機能とはいえないかもしれない。
けれど、
「今から帰るからね」
『気をつけてね』
短い会話。
それだけでも自然と顔が緩んだ。
幸せだった。
ちょっとしたことかもしれないけど、暖かった。
『晩ごはん作ってあるからね』
「うん」
『外寒い?』
「ぼちぼち」
『そか』
歩くたびにシャキシャキと凍った雑草が音を奏でる。
「今日は上司に怒られなかったよ」
『成長してるんだね』
「うん」
雪が振り続ける景色は幻想的だ。雑草の音と車の音。ひょっとすると昔の人はそれでサンタクロースがいるのだと思ったのかもしれない。
「明日はね、ちょっとむずかしいことをしてもらうんだって」
『出世してるね』
「違うよ」
笑い声。
近くにいるようで遠くにいる。
それが電話。
お金持ちはもっといい機能だそうだ。
私は……私たちはこれで十分かな。これ以上近くに感じられたら何もできなくなりそうでちょっと怖い。
『大丈夫?』
「平気。冬の寒さより春の寒さのほうが辛いから」
『そっか』
雪が舞うように私たちも人生という花びらを舞わせる。
親は一向に許してくれないけど、諦めるつもりはない。
私たちの幸せは私たちが決める。親の感情なんて雨のように流してしまえってね。
「ちなみに料理はどんなの?」
『それは着いてからのお楽しみかな。そっちのほうがきっと美味しくなるよ』
「うーん。わかった」
すれ違う人はそれぞれが別の電話で通話をしてる。
姿が見えるものもあれば、音が機械的なものもある。
人は人以外とでも生きていける。
孤独というのはなくなった。
……そのぶん繋がりというのも減ってきた。
人という種族は新しい世界へシフトした。
私は……まだ決心がつかない。
『友だちが電子化したんだ』
「そう。またなんだね」
命ある身体は世界から減りつつある。
そのかわりに電子の世界の人工は加速的に増えてる。
死なず、欲望の限りを尽くせる世界。
確かにそれだけ見ればいいことだらけかもしれない。
けれど……それはもう人なのかわからない。
「私たちは私たちの世界で生きよう」
『そうだね』
家のつくまでの数十分を景色を堪能しながら今日も歩き続ける。
いつか【彼女】がいってしまうまではーー。
人のせかい バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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