第10話 ヴォルフガングとイリスとの出会い

10. ヴォルフガングとイリスとの出会い



「この子は砂竜サンドドラゴンのカイルです。驚かせてしまってすみません」

 シンが改めてカイルと呼ばれたドラゴンを見ると、全長は5メートルくらいあるだろうか。色は象のような灰色、たしかにサンドドラゴンというだけあって、砂のような色をしている。恐竜が目の前に現れたらこんな感じなのだろうか。そんなことを思いながら、砂竜と言われたカイルの姿をしばらく眺めた。


「この子はあなたに危害を加えるようなことはありませんので安心してください。それより、兄が・・・」

 女の人にそう言われて、シンは改めて倒れている男の人に目を移した。

 年齢は40位だろうか。短く刈り込まれた髪に、顎やほおのあたりまで髭をのばしていて、ところどころ年齢を思わせる白い髭も混じっている。髪の色は焦げ茶色だろうか。堀りは深く、鼻筋の通った精鍛な顔つきをしている。その精鍛な顔が頭から今も流れ出ている血のために赤く染まっている。

 

 自分のバックパックにタオルが入れてあったことを思い出し、シンはタオルを取り出した。そのタオルで、倒れている男の額の血の出ている所をふき取った。傷口を見てみると、綺麗に切れているが5センチ程度の切り傷があり、そこから血があふれるように流れ出していた。傷口が頭なのでかなりの血が出ているのだろう。

「このタオルを額に当ててください」

 タオルを女の人に渡すと、バックパックからまだ封を開けていないミネラルウォーターの入ったペットボトルを出し、傷を洗い流そうと水を頭に注いだ。

 すると、流れている血が綺麗に流されて、傷口は額の一か所だけで他にはないことが分かった。しかし、すぐに血が流れ出てくる。傷口はかなり大きく、切れたところの内側の肉まで見えていて、そこから血がどんどん溢れ出してきている。

 怪我をした時のために救急セットを入れて来ていたので、ガーゼを傷口に当て、テープで止め、包帯で何とか傷口を塞ぐことはできた。これで血はしばらくすればとりあえず止まるだろう。失礼とは思ったが、余った水を顔に注いでこびりついた血を、タオルで綺麗にふき取った。そのタオルはすぐに血で真っ赤になった。


 そこで、男が目を覚ました。


「兄さん。良かった!」

 女はそう言うなり、安心したのだろう、そのまま兄に抱きついた。

 男は起き上がるなり、妹に尋ねた。

「何があった?」

 すると、妹は兄に丁寧に説明し始めた。

「急に地震が起こったのは覚えていますか?あの地震でカイルが驚いて立ち上がったのです。そのまま竜車が横に倒れて、兄さんは外に投げ飛ばされてしまったのです。それで、この木に頭をぶつけてしまって意識を失ってしまったのです」

「イリス。お前は大丈夫だったのか?」

「ええ、私の方は問題ありません。ですが、積み荷の油がすべて割れてしまいました」

「何?」

「それにまだ竜車は横になったままで、ひょっとすると中には大丈夫なものもあるかもしれませんが、恐らくはほとんどダメだと思います」

「そうか・・・まだ3日あるから何とかなるかもしれんが・・・それでこの人は?」

 よくやくシンのことに気が付いたのか、男は尋ねた。


「この人はシンさんとおっしゃるようです。私も今お会いしたばかりで詳しいことは分りませんが、近くの洞窟を出た時に、私の声を聞きつけて、助けて下さったの。兄さんのケガの手当てをしてくれたのは、この方です」

「それは、まことにかたじけない。私はラインハルトで行商人をしているヴォルフガングと言います。こちらは妹のイリス。助けてくれたようで礼を言う。ありがとう」

「いえいえ、実は私もお二人に助けていただきたくて・・・」



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