第8話 かすかな明かり

8. かすかな明かり



 今、自分が訳の分からない世界にいる。

 シンは冒険心を覚えながらも、不安の方が大きくなって来ていた。

 

 この鍾乳洞から無事に抜け出すことができるのか。とにかく、今はここを抜け出すことに集中しようと思いなおし、気持ちを切り替えて部屋を後にすることにした。


 とりあえず、この部屋にあるもので、持って行けるものはすべて持って行こうと思った。うまくいけばひと財産築くことができるのだ。

 30枚ほどの金貨、大きなメダルの入った小箱、それに本、この辺りの地図と思われるものを全部バックパックに詰め込み、手には竜の紋章の入った剣と槍を手にしている。

 武器として使っていたピッケルもとりあえずバックパックにいつでも取り外せるようにして引っ掛けておくことにした。

 見た感じは腰に剣を帯び、手には槍、頭には登山用ヘルメット、そして、背中にバックパック。格好としてはアンバランスだと自分でも思うし、もし、今の状態を人に見られたらかなり痛い人に見られるに違いなかった。しかし、まずは生き延びることが先決。ここを無事に出るためには格好など気にせず、このまま行こうと決めた。


 部屋の扉を出た所で、まず手に持っている槍で、来た方向を示す傷を壁に残しておくことにした。そうすれば、何かのしるしになるかもしれない。

 部屋から出ると、進むべき方向を確認した。相変わらず真っ暗なままだが、気持ちを切り替えてその先へと進むことにした。


 部屋を出てから、かなり進んだ。

 どのくらい進んだだろう。一時間くらいは歩き続けた。

 しかし、その間、特に変わったことは起こらなかった。ひょっとするとそれ以上時間が経っているかもしれない。何となく、時間を確認したいと思い、腕時計をして来ていないことを思い出し、ポケットのスマホの電源を入れてみた。しかし、スマホの画面は真っ暗なままだった。


「あれ?充電きれたかなぁ、車で充電しながらきたし、そんなことはないはずなんだけど」

 何度かスイッチを入れなおしてみたが、電源は入らない。充電はあるはずなのだが電源がつかないのだからどうしようもない。

 シンは、電源のはいらないスマホを持っていても邪魔になると思い、バックパックの中にしまいこみ、代わりに水筒の水を取り出して飲むことにした。


 その場で立ち止まって水筒の水をごくごくと飲む。意外に喉がかわいていたのだと、気が付いた。水を飲みながら、これからどうするかいろいろ考えるのだが、考えてもこれからどうしたらいいか何もアイデアが浮かんでこなかった。

 水を飲んで一息つくと、もう一度周りを見渡した。あいかわらず真っ暗なままだ。


「はぁ・・・」

 大きなため息がる。

「しかし、一体ここはどこなんだろうなぁ・・・」

 

 シンは水を荷物に戻すと、洞窟の中を再び歩き始めた。

 最初に来たときは狭い通路だったのに、この辺りにくるとかなり広い空間になってきている。

 天井もかなり高く、かなり広い広間のようになっているところもあるのがライトの明かりで分かる。今いるところは、これまで進んできた洞窟にできた空洞の道という感じとはかなり変わって、自然が造り上げた大きな洞窟の中を進んでいるのだということが分かる。

不思議とシン心の中の冒険心がくすぐられるのだった。


 ただ、あまりにも大きな空間ということはライトの明かりで分かるのだが、その真ん中を進む気にはなれず、できるだけ壁際を歩くことにした。

 

 しばらくすると、一つの大きな変化が起こったこと。どこから来るのかははっきりしないが、多少の光が感じられるようになったのだ。明かりとはいっても、決して明るい光というわけではなく、真っ暗な暗闇が、多少和らぐ程度の明かりだ。だが、それでも、真っ暗な闇の中を進むよりはかなりましと思えた。

 その明かりのおかげで少し気分が明るくなった気がした。


「頭のライトだけでなくて、ランタンも持ってくればよかった」

 そんな小言が口から漏れていた。

 洞窟に少し光を感じられるようになってから、さらに30分は進んだだろうか。

 この状況に多少は慣れて来たのか、今では心臓のドキドキは無くなっている。

「あれ?前の方がもう少し明るくなってきている気がする」

 明るい光ではないが、明らかに前の方から明かりが入ってきているのだ。

 自然に足取りが早くなった。

 この暗闇の中から抜け出すことができると思うと、足が自然に早くなるのだ。

 いつの間にか、シンは駆け出していた。

 出口の明かりを求めてシンはそのまましばらく走ると、外から新鮮な空気が入って来ているのが分かった。

 出口に近づいていることは間違いない。しかし、それと同時に不安も出てくる。というのも、陽の光を感じないのだ。

 

 不安を抱えながら進み続けると、ついに出口が見えてきた。


「はぁはぁ」

シンは出口を前にして立ち止まって呼吸を整えた。

「やっと出口にたどり着いた・・・」


 出口は自分が入って来た鍾乳洞の入り口と雰囲気が似ている。

 かなり大きな洞窟の出口になっているのだ。


 その出口を見た時、一瞬シンは良かったこれで無事に帰れるかもしれないと期待を抱いた。

 だが、その期待はわずか数秒で砕かれることになってしまった。

 シンは洞窟を出たその景色を見て愕然としたのだ。


「どうして・・・・」





【後書き】

読んでくださりありがとうございます。

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