第4話 地震


4. 地震



 今まで話していた金髪の青年は、きっとこの暗闇に乗じて、もう裏の石段の方に行ったに違いない。

自分も行くなら今しかチャンスはない。そんな思いがシンの心の中に浮かんでいた。しかし、躊躇する思いも同時に浮かんでくる。もし周りの人がスマホのライトを突ければ、すぐに下の水場に降りたことは見つかってしまうかもしれない。そう思うと、決心が揺らぐ。

 でも行きたいという気持ちも自分の中でどんどん大きくなってきている。


 どうする? 行くか、やめるか? 


 行くならなら決断は早い方がいい。そんな葛藤が頭の中で起こっている。


 心臓がバクバク音を立て始める。

 決めた!

「行こう!」

 決めたとたん、シンは暗闇の中、自分の手で握っていたその手すりを飛び越えて、下の水場に飛び降りた。できるだけ静かに降りようと思ったのだが、残念ながら「バシャーン」と、かなり大きな音がたってしまった。


「まずい、すぐに移動しないと」


 遠くで声が聞こえて来た。


「おい、誰か落ちたんじゃないの?」

「えー怖い!怖い!」

 そんな声がどこからともなく聞こえて来る。


 こうなっては出来るだけ素早く動かないと、すぐに見つかってしまう。

 前後にいる人とは少し距離があるとは言え、見つけられるのは時間の問題という気がする。


 降りた水の中は幸いにそれほど深くはなかった。靴の中に水は入って来るし、膝くらいまで水の深さがある。動くには足を取られるが何とか動けそうだ。

 それで、急いで右の鍾乳石の奥にあるという石段の方に進んで行くことにした。幸い、明かりがなくても、じっくりと見ていたおかげで、手探りで何とかその裏側に「石段がある」と言っていたところまで到着することが出来た。


 暗闇でよく周りが見えないので、トレッキングポールを足元や前に突き出して、その感触を手掛かりにした。すると、確かに岩が自然な階段のようになっていることがなんとなく分かった。ライトを付けたい衝動に駆られたが、まだここからでは見えてしまうと思い、明かりをつけるのは思い留まった。

 真っ暗な中、手で石段があると思われるあたりを確かめ、何とかごつごつした石段を登り始めた。と言っても、その石段は、人工的に作られた階段ではなく、かろうじて人が上れるような段差があるというだけのことで、足を大きく上げないと登ることはできない。ずり落ちてしまえば大きな音がしてしまうかもしれない。だが、まずはこのチャンスを生かして、水の中から上がることを優先することにした。

 石段を手探り状態で確認し、確実に一段ずつ登る。そんなことをしながらシンは、この洞窟の別の道というのを探検できることに期待が膨らんでいった。見つかるかもしれないというのも、このドキドキ感も冒険の楽しさの大きな要素だ。

 この暗がりの中、素手で探りながら岩壁をよじ登っていくというのが、今できる最善の方法なのだということも少しずつ分かってきた。


 何とか、5メートルほど登っただろうか。恐らく、この位置であれば下の鍾乳洞の通路からは見えないだろうと予想して、ヘッドライトの明かりを着けてみることにした。もし、下から見えてしまったとしても、この高さから踏み外して落ちるよりはましだ・・・。

 ライトをつけてみると、確かに、今いるのが鍾乳石の裏側だということが分かった。興味深いことに、ライトの前には鍾乳石はなく、ただのごつごつした岩壁があるだけだ。ここからは、自分が今よじ登って来た岩壁以外にも、鍾乳石は少ししか見えない。それで、今あがって来た下の通路の方からは、今自分のいるところがすっかり隠れているということも分かって安心することができた。

 とりあえず、登れるところまで登りきることにした。何とか、ライトの明かりを頼りに一番上まで来ると、その先にはトンネルのような空洞が続いていることが分かった。


 まだまだ冒険は続けられそうだと、少し嬉しい気持ちになっていた。

 それで改めて、ライトの明かりでこれから進んでいく空洞をのぞき込むと、その奥はまだ少し先まで真っすぐの道があるように見えた。


「!!!」

 

 一瞬、その細い空洞の先に、先ほどのブロンドの青年の姿が見えた気がした。


「いや、間違いない。今あそこにいた!」


 思わず、声を出そうと思ったのだが、ここで声をあげるのは良くない。それで、そのまま速足で、前の方に進んで行くことにした。その空洞の通路はそれほど高さはない。そのためシンはかがんで進まなければならなかった。


「せまいなぁここは・・・」

 頭が何度も岩にぶつかったので、冷や冷やしながらヘルメットをしてきてよかったと、シンは思った。


「確か、この辺りで見たと思ったんだけど・・・」

 シンは、先ほどブロンドの青年を見た場所の近くまで進んで来たのが、そこにはすでに誰もいなかった。けれども、ここまで来てみて分かったのは、この先は広い空洞になっていて、腰を伸ばして普通に立つことが出来る場所があるということだ。その、少し広くなったところまで来ると、シンは思わず、伸びをして、腰を伸ばした。


「ああ、こんな暗闇のか中で体が伸ばせるってありがたいことかも」

 そんなことを言いながら、この先がどうなっているのかを見ようと周りを見渡した。すると、通路が右側の方に折れているようで、まだ続いているのが分かった。


「まるでダンジョンみたいだな・・・」


 そうつぶやいたとたん、突然、どこからともなくゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという不気味な音がして、今自分が進んで来た道の天井が突然けたたましい音と共に崩れ落ちて来た。


「わぁぁぁぁぁ 地、地震だぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 シンはそのまま頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ・・・・




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る