竜の巣窟 〜鍾乳洞に入ったはずなのにドラゴンが出てきました！〜

第３話 停電

３．　停電

　鍾乳洞の中に入ると、そこは外の暑さとはうって変わって、程よい湿度とひんやりする快適な涼しさだった。中に入ると先ほどまでの蝉の鳴き声も聞こえなくなっていた。

「それにしても、たくさんの人が来ていますね」

　金髪の外国人にまた突然話しかけられた。

「そうですね・・・」

　とりあえず適当にあいずちをついた。だが、本当にたくさんの人が来ている。

　自分でもこんな田舎の鍾乳洞に、人がたくさん来ているとは思わなかった。以前この鍾乳洞に来たときは、もう何年も前のことだが、駐車場には車もほとんどなく、勝手にコースを離れても、まったく問題ないと思っていた。けれども、開店の時間になって窓口で受け付けが始まったばかりだというのに、すでにかなりの人が入っている。この様子だと、鉱石を探そうと別のルートを行こうとすれば、きっとすぐに他の人に見つけられてしまう。そうなれば、今回の計画はすべて無駄になってしまう。

　そう考えると、シンはなんだか悲しくなってしまい、会話するどころではなくなってしまった。

　すると、鍾乳洞の所々に設置されている誘導灯が、一瞬すべて消え、真っ暗になった。

　すぐにまた電気がついたのだが、誘導灯が消えると、本当に真っ暗になってしまうのだとぼんやりと考えた。　

（このまま、もし停電が起こって電気が消えたらどうなるんだろう？）

　シンはぼんやりとそんなことを考えはじめ、更に沈黙の時が流れてしまうのだった。

　でも、黙ったままで返事をしないのは悪いかなと思いなおして、口を開いた。

「もし、ここで停電になったら、けっこう怖いですねぇ」

「停電？」

（良かった。返事してくれた。気を悪くをしてなさそうだ）

「あっ、停電というのは電気が消えるっていう意味です」

　外国の人に、さすがに停電は分からないかと思ってそう答えた。

「そうですね。なんだか、ところどころに見張りの人が立っているみたいですね。これだと、他のルートに行きたくても行けそうにありませんね。でも、電気が消えたら、見張りの人に見つからずに、どこにでも自由に行けると思いませんか？」

　それを聞いて、なかなか大胆な発言をする人だとシンは思った。

「でも、真っ暗な中でライトつけたら、すぐばれちゃいますよ？」

「それもそうだね。ハハハ・・・」

　その後も、とりとめのない話をしながら、二人で鍾乳洞を進んで行くと、ところどころに、見事な鍾乳石があった。象牙色の鍾乳石は、太さにもよるが１ｃｍできるのにも、何十年と言う時間が必要なのだと、入り口で持たされたパンフレットに書かれていた。

　そのパンフレットにはもう少し進んだところに、最初の見どころポイントがあると書かれていた。そのポイントにたどり着くと、そこには、天井からかなり見ごたえのある大きな鍾乳石が上から下に氷柱（つらら）のように垂れ下がっている。パンフレットに書かれている通りの大きな鍾乳石を眺めながら、なんだか急にむなしい気持ちになるのだった。

　パンフレットに書かれているのを、そのまま答え合わせをするように進んで何が楽しいんだろう。ふと、そんなことを考えている自分に気が付いた。

　そのまま次のその見どころポイントに来ると、そこは足場が鉄板で作られていて、そのすぐ下は綺麗な泉のようになっていた。ここも、まさにパンフレットに書かれた通りだった。この周りは青や緑のライトで周りの鍾乳石を照らしてあって、何とも幻想的な雰囲気ではあった。

　気を取り直して、真上を見上げると、かなり高い所から、見事な鍾乳石が氷柱のように垂れ下がっているのが分かる。長さは５メートルはあるだろうか。太さも相当なものだ。

　そして、鉄板の下の方に目を移した。この鉄板で作られた手すりの下の水たまりはどのくらいの深さがあるのだろうと気になったので、目を凝らして見下ろしてみると、それほど深くないように見える。

　そんなことを考えていろいろ眺めているうちに、いつの間にか自分がここから降りたらどこに進めるだろうかと考えていることに気が付いた。

　そう考えた方がよっぽど楽しめるのだ。

　金髪の青年が振り向いて話しかけて来た。

「知っていますか？実は、この上の奥の方に、別の道があって、そこからさらに奥の方に進んで行けるんですよ」

　まるで、自分が考えていることを読まれているのかと少し驚きながら、「えっ、そうなんですか？」とシンはとりあえず返事をした。

　すると彼はさらに詳しく教えてくれた。

「あの右の方にある大きな鍾乳石が見えるでしょ。あのちょうど上のほうにみえる鍾乳石の影になっているところに行くと、更に上の方に行ける石段のようなところがあって、そこから登っていくと、あの鍾乳石の裏側に入っていけるんですよ。しかもかなり奥の方まで繋がっているんです。ひょっとすると、見つかったっていう鉱石は、そこから見つかったのかもしれませんよ」

　どうしてそんなことまで知っているんだろうと、シンは気になったので質問してみることにした。

「よく知ってますね。以前にも来たことがあるんですか？」

「ええ、以前にも来たことがあります。その時は連れられてきたんです。この裏にある奥の道をどんどん進んで行くと外に出られる道もあるみたいですよ」

「へぇ、あの大きな鍾乳石の裏側がそんな風になってるんですか。ここからだとそうは見えないけどねぇ」

　そんなことを言いながら、もし自分が行くとしたら、ここからどう降りたら、その右側の隠れた階段のところまでたどり着けるのか、しばらくそのことばかりを考えて、鍾乳石の裏側のことばかりに気を取られるようになった。

　ただ、そうするとなんだかワクワクしてきて、嫌なことも忘れられるような気持ちになってくるのだ。

　すると、突然また、電気が消えた。

　一瞬ドキッとした。

「また停電ですね」

　シンは声をかけたが、しばらく待っても返事は返ってこなかった。

　自分たちの１０メートルほど前に確か家族連れがいたはずで、後ろにも同じくらい離れたところにはカップルがいたはずだ。急に停電になったので、怖いのだろう、前からも後ろからも何やら騒がしい声が聞こえて来る。

　しばらく待ってみたが今度はなかなか電気がつかないようだ。

　今、チャンスなのでは？　そんな思いがシンの頭に浮かび上がって来た。

※　前回書いたものを再編集して公開していきます。ブックマークをよろしくお願いします。