第2話 鍾乳洞へ
2. 鍾乳洞へ
駐車場で車を降りると、蝉の鳴き声が耳に飛び込んで来た。
地面からむっという熱気が上がり、更に暑さを感じさせた。
シンは改めて夏の暑さを思い起こした。務めていた時は、いつもエアコンの効いた店でにいたし、それ以外は大抵、車か、部屋の中だ。思い起こしてみれば、これまで暑さを感じることがなかったことに、今さらながら気づかされた。
スマホで時間を確認した。もう少しすれば目指して来た鍾乳洞に入場できる時間になる。シンは、車の後ろ座席から用意しておいたバックパックを降ろし、登山用の靴に履き替えた。
「いやぁ、あてがはずれたなぁ。こんなに人が来ているとは思わなかった」
車の荷物を降ろしながらつぶやいた。
「ちょっとこれはやりすぎたかなぁ」
独り言を言いながら、アウトドアショップで買い込んだ冒険探索風の色が気に入って買ったカーキ色の登山用ヘルメットを被った。
「周りから見ると浮いて見えるかもしれいけど、まぁせっかく買ったしなぁ」
おちついて周りを見渡すと、他にも同じことを考えているのか、ヘルメットを手に、まわりをキョロキョロ確かめている人たちが数人目に飛び込んで来た。
「同じことを考えている人がけっこういるみたいだし、まあいいか」
シンはその登山用ヘルメットに、ヘッドライトを装着した。トレッキングポールを持ち、ベストをはおり、買い込んだピッケルをバックパックに装着した。
今、足場を固めているこのトレッキングシューズも全部、昨日買ったばかりの品で、合計するとこの時点で4万円ほど使ったことになる。いかにも初心者という雰囲気に見えるかもしれない。
仕事がなくなったんだから、もっと慎重にお金を使うべきだとも考えたが、どうせ気分転換でやっているのだから、やるならとことんやれとばかりに、なけなしのお金をつぎ込んだ。
別に彼女がいるわけでもない。ついでに言うと、モテキというのも経験したことはない。普段はケータイゲームに月1万円程度課金するのが精いっぱいの贅沢で、車も親のおさがりだった。
今は真新しい水筒にも、買い込んだミネラルウォーターが入っているし、バックパックにも2本ペットボトルが入っている。
どんな準備したらいいかもわからないまま、思い付くままに衝動買いをしてここに来てしまったという気がする。
まるで、登山にでも行くかのようないで立ちだが、シンは鍾乳洞の受付で会計を済ませた。やはり、周りからは少し浮いて見えるかもしれない。そんなことを思いながら、シンは鍾乳洞の入り口に進んで行った。
鍾乳洞の入り口まで来ると一枚の張り紙がしてあった。
“注意 観光ルート以外のコースには行けません”
「わぁぁしまった!!」
思わず、シンの口から言葉が漏れ出てしまっていた。
目の前の張り紙を見ながら、そんな大事なことは、料金所に書いておいてくれればいいのにと思い、怒りが湧きあがって来た。けれど、冷静になって考えれば、鍾乳洞としてはニュースになって有名になった今はかき入れ時なわけで、わざわざ見学に来てくれている客がお金を払う前に追い返すようなことはしないのはあたり前のことなのだろう。
鍾乳洞の入り口には職員がいて、お互いに前後の客と距離が近くなりすぎないように入る客の人数整理をしている。確かに、見知らぬ人たちとザワザワしながら、前のグループの人と一緒に暗い鍾乳洞に入るのは鍾乳洞の楽しみも半減するので、悪い判断ではないのかもしれれない。けれども、そのおかげで、鍾乳洞の入り口付近ではすでに渋滞が起きてしまっている。
「それにしてもすごい人気だなぁ・・・」
まさかこんなにもたくさんの人が、こんな山奥の鍾乳洞を訪れるとは思わなかったので、この人の列にはさすがに驚きを隠せなかった。
すると、目の前に綺麗なブロンドの髪をした若い男性の姿が目に飛び込んできた。日本人ではないようだ。同じくらいの年だろうか。しかし、こんなイケメンの外国の人が、鍾乳洞に、鉱石を探しにきたのだろうか。シンは少し興味を覚えた。
前に並んでいるブロンドの髪の男性を見ていると、その人が急に振り向いて話しかけてきた。しかし、シンは外国の人の会話は、分からないものと決めつけていたので、あまり気にしないで聞き流していた。けれども、どうも自分に向かって話しかけていたようで、言葉の最後の部分だけが耳に入ってきた。
「・・・・あなたは・・・どうして?」
「あっ日本語でしたね・・・すみません。聞こえてなくて・・・。マイ、ネームイズ、シン・・・」
「シン?それがあなたの名前ですか?今私が質問したのは、どうしてここに?と質問したんですが」
流ちょうな日本語だった。
「ああ、すみません。ぼーっとして。綺麗な日本語ですね。ネットニュースで、ここの記事が出ていて、それで興味本位で来てみたのです」
「へえ、どんなニュースが出ていたんですか?」
「ああ、この鍾乳洞から今まで発見されたことのない鉱石が見つかったっていう記事です。見てないですか?」
「そんな知らせが出てたんだ・・・へぇ・・・」
金髪の男性は、意外そうな顔をしている。
そんな会話をしている間に、入り口で係の人から2人で来たと思われたのか、2人そろって中に入るように案内された。
ブロンドの青年は、何か気になることがあるのか、その後もしばらく考え事をしている。
シンはその顔が気になったが、探検仲間ができた気がして声をかけた。
「さあ、一緒にいきましょう」
するとその男性は晴れやかな笑顔で嬉しそうな顔をしてくれた。
こうして2人は鍾乳洞の中に入っていった。
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