第26話 激白

「こんな時間にどしたの?」


 瑠璃は朱雀の病室にやって来た。


「ちょっと頼みがあってね」

「病弱の弟に屈強な姉が頼みぃ?」

「はぁ?」


 瑠璃はひと睨みで朱雀を沈黙させた。


「あんたさ、あの高校生の事、どう思ってんの?」

「あのって誰?」

「高倉翠」

「あー翠ちゃんねえ。感謝しかないよ、もう。チャッチャっと世話してくれてさ、家事能力は姉ちゃんの100倍位あるぜ」

「うるさいわね。どう思ってんのか聞いてんのよ」

「なんだ怖いなあ。どうって有難いって思ってるよ」

「恋愛感情は無しね」

「うーん。正直言ってさ、翠ちゃんはオレのことちょびっと想ってくれてるかも知れんのよ。向こうの病院退院するちょっと前にさ、意味深なこと言ってたから、だからオレも傷つけちゃいけないって気ぃ遣ったさぁ」

「ほぉ。で、どうすんの?告られたら」

「いやー、美人だし勿体ないわなあ振るのって。でもなあ、モテ男は困っちゃうなあ」

「じゃ、困らなくなるような秘密を教えてあげる」

「はい?」


「高倉翠は私たちの妹よ」

「? 何、言ってんの?」


 朱雀は呆気にとられた。


「事実よ。父さんはまだ認めてないけど母さんには確認済み。いわゆる腹違いの子ってやつ」


「それ・・・ホントなの?」


「うん。優秀で美人な妹で良かったねえ」

「そんな呑気な話じゃないでしょ?それでこの前姉ちゃん、妹がいるかもとか言ってたの?」

「そう。あの時さ、父さんも朱雀がどうして高倉翠と出会ったか聞いてたでしょ?それに私の言ったタカクラミドリさんに反応変だったでしょ?」

「そう言われればそうだった…」

「そもそもさ、初めて父さんと私があっちの病室で彼女に会った時、彼女の自己紹介聞いて父さん変だったでしょ?」

「それは全然気づかんかった…」

「父さん、ずっと前からあっちへ行ってたんだ。多分タカクラミドリさんに会うために」


「母さんも知ってたの?」

「うん。実は翠ちゃんに援助してあげてたみたい。タカクラミドリさんって結構いい人だって母さん言ってた」

「マジ? 浮気相手なんでしょ?」

「そうなんだけど、それほど深くなかったってことかなあ」

「だって翠ちゃんが出来たんでしょ?」

「まあね。でもタカクラミドリさんが一人で育てたみたい。だからウチに要求があったとかは一切ないって」

「ふうん」


「この話はここだけでね。本人は勿論知らないし、私も言う気もないし」

「うん…」

「だから、朱雀とくっつく訳にいかないのよ。翠ちゃんの方はシスコンで留めときな」

「あ、ああ… あーびっくりだ、なんてこった。出来過ぎの偶然だ」

「それで、もう一人の話」


 朱雀は黙り込んだ。瑠璃は弟が可笑しくなった。


「聞いてあげるよ。イロハのことは?」


 朱雀は憂鬱そうに顔を上げる。朱雀にしてはロウテンションだ。


「可愛いよ。横断歩道で滑ってからさ」

「なにそれ?」

「あれ?言ってなかったっけ? オレが初めてハイツ見に行く時さ、目の前の横断歩道を渡ろうとした彩葉ちゃん、尻もちついちゃってさ、オレ助けたの」

「へぇ」

「んで、ついでにハイツの所まで案内してもらったんだよ」


 朱雀は頭を掻いた。一人で照れている。


「その後でまた偶然会っちゃってさ、その時に聞いたんだよ、色が見えないって」

「ふうん。イロハその話は言ってなかったな」


「言わないっしょ姉ちゃんには。それでオレ、この子となんか縁があるのかなぁって勝手に思ってさ、ほいで北原先生の代わりに講師で行ったら彼女がいたでしょ。もうびっくりなんてもんじゃないよ。偶然の三乗だよ。これって凄くね?絶対イトあるでしょ?」


 朱雀はベッドの上で正座する。


「でさ、彼女、色のはなししてもかたくなに『色が見えないのは平気』とか言ってるけど、多分本心はそうじゃないと思うんだな。人と違うって辛いよ。オレ指失くしてから痛感したもんな。指は代わりに何とかなるけど色が見えないって、そもそも色を知らないって、もう他に手立てないじゃん。それでもフルート上手いんだぜ。色のはなししてからぐーっとフルートも良くなったしさ、あの子にはもっと幸せになって欲しいんだよ。いろんな色を見てさ、感動させてあげたいんだよ。そしたらもっといい音出せるし、もっとこう音楽だけじゃなくて人生全体がさ、ぱぁーっと拡がって、ぐーぅっと深くなってさ、普通のJKみたいにはしゃぎ回れるんだよ。そうさせてあげたいんだよなオレ」


 朱雀はベッドの上で格段にシフトアップした。


「好きなんだイロハのこと」

「よく判んねぇな」

「好きなんだよきっと。向い合ってる時はピンと来てないけど、いなくなって初めてじわーって解るものよ」

「それ、経験談?」

「そうかも知れない。私のことはいいんだよ。そう、イロハのことで、もひとつ秘密を聞かせてあげる」

「またサプライズ?」

「まあね」

「バストがサイズアップしたとか?」

「バカ、未成年に何ちゅうこと言うのよ」


 瑠璃は朱雀のおでこをピンと弾いた。


「あの子ね、赤色だけ見えるようになったんだ」

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