14



ふとその気配が、すぐ正面へと移動したような気がして、閉じていた瞼をうっすらと開く。


目の前には、ベッドに両手をかけて私を囲うようにして見下ろす佐藤がいて……え、何?


グッと近付く佐藤に頭が少し覚醒すると、その顔が私の横に……耳元へと移って、小さな緊張が生まれる。




「のどかが支度できねーなら、風呂も着替えも俺がさせてやるけど」




低く、耳一杯に響く擦れたその声に、体全体がビクッと跳ねた。


くすくすと笑っている佐藤を、信じられないという目で私は見るけれど、佐藤はそれでも楽しそうに肩を震わせて顔を合わせると小首を傾げた。




「起きたっしょ?」


「それ、心臓に悪い」




急に男を出されてしまったら、いくら相手が佐藤だからといっても体が勝手に構えてしまう。


まさか眠気覚ましに使われるとは思わなかったけれど。


遅れて、言葉の内容が頭の中に届く。


風呂も着替えもさせてやるとか言ったかコイツ。




「ヘンタイ」


「介護でしょ」


「病気でもなんでもないから。自分でする」


「ざんね~ん」




今日はとりあえず佐藤のせいでこうなってるんだから、眠るギリギリまで佐藤のことを使い倒してから家に帰そう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る