第54話 今までで1番ハードな曲
そんな事を思ってる間に、飛猿が「1、2、3、4」とスティックを鳴らす。そして先輩の気持ちの乗った、だけど洗練されたギターの音が響く。
激しく、だけどどこまでも澄み渡るような先輩らしい音。そんな音が、1番の存在感をもって奏でられる。
凄い。今の先輩のギター、今まで聞いてきた中で一番のパワーを感じる。The oceanの特徴的なリフの魅力を思い切り轟かせてやる――――――、そんな気持ちが込められているかのような、力強い音だ。
高垣さんのベース、飛猿のドラムも、その音に負けることなく大きく響く。
高垣さんもそうだけど、飛猿もすごいな。あいつの場合、ジョン・ボーナムみたいなヘヴィなプレイスタイルではない。どっちかって言うとフィル・コリンズみたいな手数が多く、軽快に引っ叩くスタイルだ。
つまり得意としているスタイルとは全く違うもの。だけど違和感なんて全く感じさせない。ほんとドラムに関しちゃなんでも出来るのなアイツ。
負けてらんないなぁ。こりゃ。
そう闘志を燃やして、思い切り声を出して歌う。
……うんやっぱり高ぇ。The ocean……ってかロバート・プラントの声そのものが高ぇ。
切るような、楽器のような声。音の取り方も独特。ロバート・プラントのボーカルを初めて聴いた時、そんな印象を抱いた記憶がある。
何度歌ったって、聴いたって新鮮に感じる、そんなボーカル。The oceanは特にそう感じる。正直言って歌うのはめちゃくちゃにムズい。
だけど、やってやる。だってこの曲めっちゃ好きだし。この曲のボーカルの魅力を全力で表現してやるんだ。そう思って自分を歌いながら奮い立たせた。
この曲は中間部分に少し音が控えめになる瞬間がある。数十秒ほどギターも、ドラムも鳴らないところがある。そこを俺と先輩は呟くようにハモる。
ひとしきり歌い終わって、そして。
楽器の音が、再度思い切り弾けた。
やっぱり、いい。この緩急がこの曲の魅力だ。
静かな瞬間があるからこそ、その後の音がより激しく、鮮烈に感じる。やっぱり
そして観客にもそれは、十二分に伝わったみたいで。
歓声と鳴り響く手拍子は更に大きく熱く、力が籠っていた。
そして曲はエンディングに入る。ちょっとお祭り騒ぎのような雰囲気で楽しげに、楽器隊とボーカルが騒ぎ立てる。夏の海で思い切り楽しむような雰囲気だ。
そんな音を聞いて、俺達も観客も、みんな笑って歌い、弾き、聞く。あぁもうめっちゃ楽しいな……!
そして引き終わって、大きな拍手に包まれた。
よし、前半は終わり。ここから後半。
ここまで本当に順調だ。上手く行きすぎて怖いくらいだ。
このまま上手くいってくれよ。そう、心の中で願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます