第34話 告白②

「――――――ん、それは……、一般的に言う『告白』として捉えてもいいのよね?」

「ええ。よくカップル達が言う『好き』とはちょっと違うと思いますけど……、とにかく先輩の事が『特別』であることには変わりないんです。だから……」

「ふふ、そうね。言いたいことはなんとなくわかるわ。でも……、どうして?」


 どうして、というのは、どうしてそのような気持ちを持つに至ったのか、ということだろう。


 ――――――そういえば、先輩のことを「好き」だと自覚したのは、つい先日のことだけど。

 そう思ったのはいつからだろう? そう思うきっかけはなんだったんだろう?

 そう考えて記憶を辿ってみるけど、詳しいことは覚えてない。おそらく、自然と湧き上がったものだから気付かなかったのかもしれない。


 自然と、いつの間にか。この気持ちは自分の隣にあったようなものだから。


 でも、多分この気持ちは、先輩にしか持ち得ないものだったことは、はっきりとわかる。


「どうして――――――って言われても、先輩といるうちに自然とそう思うようになった……、としか言えないです。でも、この気持ちは先輩にしか感じ得なかったものだと思いますよ?」


 だから俺は先輩に、今思ったことをそのまま、正直に伝える。上手く要約された、簡潔な言葉でうまく言えれば一番いいんだろう。

 けど、今心の中で感じた以外の言葉が思いつかないのだから仕方がない、と思う。


「先輩と一緒にあの日、2人でセッションした時から感じてたものですから。あの日、ずっと誰とも語り合えなかったことを、貴女と共有できた日からずっと……ね」


 ふと、先輩がどんな顔をしてるのか気になって、彼女の表情に意識を向ける。

 

 彼女は相変わらず優しい表情でこちらを見ているけれど。

 頬はどこかほんのりと紅い。そこからどんな心持ちをしているのか、細かくはわからない。


 でも、悪くは思っていないんだろうな、なんて思う。そう思うと、まだ返事なんてもらってないにも関わらずどこか嬉しい気持ちが生まれてくる。


「それだけ、俺にとっては特別なんです。何せ––––––」


 次の言葉を思い浮かべて、ふと、唐突に小っ恥ずかしくなる。ちょっとポエミーでクサイかもしれない。でも、それは今までも一緒か。

 そう心の中で呟き、ちょっと勇気を出して、言葉を続ける。


「俺の音楽はずっと、洋楽と共にありましたから」


 小さい頃からソレはずっと親しんできたものだった。でも、当然ながらそんな奴らは周りにいるわけなくて。

 でも、先輩は俺と似た境遇だった。

 しかも、女性。そんな人とはあの時、本当に初めて会った。だからこそ強く興味を惹かれたし、一緒に過ごすうちに、特別な存在になっていったんだと思う。


「……そう。ふふ、やっぱり純粋ね、貴方。少し詩的だけど、全く飾ってない感じが、本当に貴方らしいわ」


 先輩は俺の言葉を聞ききって、暖かな笑みを向けて、そう言葉を溢す。ありがとうございます先輩。でもその言葉、なんか照れ臭いや。

 そして、「さてと」、と少し気持ちを整えるように呟く。


「貴方が正直に気持ちを伝えてくれたのなら、私もそれに応えなくちゃね。じゃあ、音無くん。聞いてくれるかしら?」

「はい。もちろん」


 そう言うと先輩は、少し話に間をおく。ゆっくり、自分の思考を整理するように。

 その時間が、通常の何倍にも感じられる。けど、不思議ともどかしくはない。


 この時間に、いつまでも浸っていたい––––––。そう思える程、心地よい雰囲気がこの場を埋めている。


「音無くん。私は––––––」


 そしてその雰囲気を大切に守るように、先輩は囁いた。


「私も貴方のことが、『好き』よ」


 気恥ずかしそうに笑うその姿は、今までで一番綺麗に写った。

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