第18話 彼女達の実力
定刻になり、顧問、副顧問の簡単な挨拶の後、発表会は始まった。顧問の先生があまり長めの話が好きではないらしいから、手短に終わったけれど。
発表会に参加するバンドは12組。殆どが2、3年生中心に組まれたグループのバンドだ。
まぁ、それも当たり前、なのかな。一年生はまだ入学して半年弱。グループを組めたとしてもまだ公の場で演奏、とまではいかないのかもしれない。
そして、機材のセッティングに多少の時間をかけた後、演奏が始まる。
演奏される曲目は……、まぁ前も話したかもしれないけど、流行りのロックバンドの曲、アニソン、あとヒップホップが中心だ。
こんな中、大勢の前で往年の名曲たちを披露するのか。ちょっと緊張するけど、なんかワクワクもしてくる。
どんな反応するんだろう。そう思うだけで、体に力がこもってくるのがわかる。
うん。これ、武者震いってやつかな。体全身から鳥肌が泡立つ。自分たちの番が近づくにつれてそれは、刻一刻と大きなものになっていく。
あと余談だけれど、うちの軽音部、意外とガールズバンドが多い。まぁ学校全体の男女比が女子多めっていうものもあるけど、意外と珍しいんじゃなかろうかと思う。
……なんて考えてるうちに、朝倉さんたちのバンドの出番が回ってきていた。
ちなみに俺たちのバンドの出番は、この直後だ。
「それじゃあ、まずは彼女たちの方で演奏してくるわ。その間に心の準備、済ませておいてね?」
「はい、そのつもりです。けど……、言いたいことが一つだけ。いいですか?」
「ええ。何かしら?」
俺がこれから言うことは、少しわがままかもしれないし、彼女からしたら「当たり前」の事かもしれないけれど。
それでもどこか改めて、言葉にしておきたい気分。だから、言う。
「どちらかに肩入れする……なんて真似、しないでくださいね。朝倉さんの方にも、勿論俺たちの方にも。じゃなきゃ勝負になんてなんないですから」
まぁ、これ、やっぱり我が儘、だよね。彼女にしてみたら、こちらの勝負に付き合わされてる体だろうし。
でも、彼女はそんな俺の我儘みたいな言葉にも、
「ふふ、当たり前じゃない。音を出す以上、どちらにも手を抜くなんて真似––––––、できるはずがないわ」
そう、笑いながら返してくれた。
やっぱり要らぬ心配だったみたいだな。
それから暫くして、明星先輩を含めた朝倉さんたち4人がステージ袖から出てくる。
しばらくの音出しの後、朝倉さんがマイクの前に立つ。
「こんにちは! 毎度お馴染み『the Force』です! よろしくっ!」
ペコッ、と朝倉さんが元気よくお辞儀をすると、それまでそこそこ活気のあった場が一段と盛り上がる。
やっぱり、学校内でもトップの人気を持つバンドは違う……と言う事だろうか。
あと 「Force」という英語は「
「今回は私たちの十八番のコピー曲から二曲、演奏します。今日は特に––––––今までで一番、全力で演奏するつもりで、行きます。負けたくない人達が、ここにいますから、ね?」
そう言うと朝倉さんは俺たちの方を見た––––––、気がした。
「気がした」としたのは、決めつけてしまうとどこか自意識過剰な気がしたからだ。
でも、彼女が挑戦的な笑みでその言葉を放った事だけは確か。まぁどこかそれが可愛いな、と思ったのは別の話だけど。
「じゃあ一曲目!「ディープ・ダイバー」の「7つの幸運の髪飾り」です!」
ワン、ツー、スリー、フォー、と語尾強めでそう叫ぶと、演奏が始まる。
初めて聞いた時も思ったけど、中々に音が纏っているし、音もはっきりとしていて、迫力も出せている。
簡単に言えば、「かなり上手い」。彼女たちが自分の腕にしっかりとした自信を持っているのも頷ける。
七音さんのドラム、香澄さんのベースも上手くバンドの底を支えるようにしっかりとしたリズムを刻んでいるし、朝倉さんのギターもその曲のリードギターのラインをしっかりとした音で奏でている。
それに加えて、彼女のハツラツとした声が、アップテンポでハートフルに展開される曲を更に明るくノリのいいものにしている。
でも、その中でも―――、
「リズムギター、やっぱりすごいや……」
「そりゃそうでしょうな。あんなに君と練習したんだから」
飛猿の言葉は何か含みがあったけど、どうせいつものからかいだろうと思って聞き流す。
やっぱり、明星先輩がリズムギターを弾いてたんだ。バンド全体の演奏を際立たせるように鳴らされるあのギターの音色が、明星先輩が俺たちの前で奏でる音と、前々からどこか似ているような気がしていた。
4人とも全力で一曲を思い切り弾き切る。弾き終わった直後、大きな歓声と拍手が上がった。
彼女達はお辞儀をした後、次の曲の題目を紹介し、間髪入れずに弾き始める。
今度は少しスロウなバラード曲。少女の恋心について甘い音色に乗せて朝倉さんが歌い上げる。
やっぱり、上手いな。彼女たち。
相手にとって不足はない。なんてそんな烏滸がましいことを考えるくらいには、俺の心は昂っている。
それと同時に、負けてられないなんて気持ちが程よい緊張とともに湧き上がってきた。
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