第6話 形になって見えた「壁」
「いや、決して先輩達の腕が悪いって言ってるわけではないんすよ。でも、まだ「楽曲のコピー」の域を抜けられてないな、と思いまして」
飛猿の言いたいことは、なんとなくだけどわかる気がする。ただ、それはものすごく感覚的なものなのだと思う。
現に本人もどう話したもんか、みたいな顔をしてるし。
「……もしかして、よくある奏者の「クセ」とか「味」みたいなもんが足りてない、的な感じか?」
「うん……。そだな。そんな感じだな。ほら、君らの好きなアーティストとかっていい意味でその人独特の弾き方があるだろ? あれが欲しいな、と」
きっとそれは、小手先のテクニックとはまた違うものなんだろうな、と思う。
例を挙げるとするなら、ジョン・レノンやポール・マッカートニーが挙げられるか。
ジョン・レノンのギター、ポール・マッカートニーのベースはいくら技術をコピーしても、音までその通りにはならない、とよく聞く。
ジョンのあの特徴的なギターサウンド然り、
ポールの唸りあげるようなベース然りだ。
そんな自分なりの「音」を持っていたということが、あそこまでBeatlesを人気にした一因なのかも、なんて思える。
「それがあるだけで、音の締まりとか、厚みが全然違うんよ。楽曲の音をなぞらえるだけじゃない、その音の鳴り方を意識するっつーか……」
それは中々にハードルの高いことだ、とは、思うけど。
でも、なんとなく今まで自分が感じていた「壁」を言葉にしてもらえたようでもあって、そこまでネガティブには捉えられなかった。
「……なるほど、ね。小手先の技術じゃない、音の鳴り方、か。言われてみればなんとなく腑に落ちるわ。よく録音した音を聞くとどこか違うような気がしたのは、それね……」
「まぁ、他にも運指とか、強弱の付け方とかもありますけどね。でも、一番気になったのはそこなんで」
明星先輩は彼女自身で自分の演奏に元から思うところがあったのか、飛猿の言葉をうまく飲み込めている様子だった。
そして、少し考える仕草を見せた後、何かを決心したかのように、うん、とひとつ頷く。
「ねぇ、平手くん。暫くの間だけ、待ってもらえないかしら? その間に、あなたの求める水準に近づけるよう努力するから。そして、あなたが私達と一緒にやってもいいって思えたその時に――――――」
「バンドに入ってくれ、ですね。いいっすよ。でも、それならそんじょそこらじゃOK出しませんぜ?」
「ふふ、いいのよ。そっちの方が燃えてくるから。そうでしょう? 音無くん」
急に意見を求められて少し困惑する。
飛猿の言う事はハードルが高いし、かなり感覚的なものだから時間もかかるだろう。
けど、自分の中で漠然と壁に感じていたことが、形になって見えてきた。それを乗り越えるまたとないチャンスだ。
そう思うと、なんでだろうか。
急に意見を求められて困惑した気持ちとか、不安な気持ちよりも、まず、
「そう、ですね。やってやりましょう。先輩」
「あら、笑ってるじゃない。頼りにしてるわ」
ワクワクとした感情の方が、優った。
こう思ってしまう俺って、本当に変わったヤツなんだろうな、と、思うよ。
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