流れ行く時の中で

私はベンチから立ち上がると、新しくできた銀杏並木の先の小さな公園の方を向いてぺこりと頭を下げた。


初恋と言う物の存在感は大きい。


それでもここまでの人生、私を愛し支えてくれたのも、私が今愛しているのも妻の米子である。


私は再び、川辺の方へと戻っていく。



夕方の日差しに照らされて、すれ違う子供達が笑いながら一列に帰っていく。


まるであの日の私たちのようだ。




川に着くと、私は胸ポケットから一枚の色褪せた写真を出すと、

じっくりと眺めた。


痩せこけた美女と若い頃の私が笑っている。


私はポトリとその写真を水の中に落とした。


さらりと自分の中で何かが解れていく感覚がする。





もう桃色の物もそれを隠すススキすらない川原で私は目を瞑って深呼吸をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る