第18話 希望

 姉さんの家に一泊した次の日、会社から召喚がかかり急いで姉さんは出勤していった。


 家から出ていく際にものすごい勢いで平謝りしてきたので、今度スイーツを奢ることでその場は決着。特に食べたいというわけでもなかったけど、形にした方が姉さんも納得しやすいかなっと思って。


 僕も夜にはアルバイトがあったので姉さんと同じく早めに家を出た。


「じゃあ、今度ちゃんと埋め合わせするから!」


 そう言ってヒールの靴で駅構内を走っていった。


 アルバイトの時間まで僕はやる事が無かった。都内で行きたいところも無かった。しかし選ばれたのは自分の下宿先。家でのんびりすることを決めた。


 これがぼっちの悲しい現実。家でゴロゴロぼっーっとするのが吉だ。


「土曜日出勤、嫌だなぁ」


 勤め先にもよるだろうけど、極力土日は休みであってほしい。どうしてもの場合は仕方ないが。電車のアナウンスを聴きながら僕は贅沢な我儘を言う。


 着いた時には十二時。今日は茹だる様な暑さで体がついていかない。こう言う時は家でゴロゴロに限る。


 駅の南口から近くのコンビニに寄って昼食を買った。今日のお昼はとろろ蕎麦。


「ねぇ!あの人めっちゃ綺麗じゃなかったー?」


 僕の目の前を歩く若い女性たちの話が聞こえてくる。


「めっちゃ歌上手いじゃん。ヤバくね?」


 どうやら前の男性もとある人物について話している様だ。


 何のことだと耳をすましていると、遠くの方から微かに聴こえる歌声。なるほど、ストリートミュージシャンの事を言っていたのか。


 先に言っておくと僕は正直こういう芸能についてはてんで疎く、知っているのはアニソン歌手の人たちぐらいで、善し悪しが全くわからない。


 とは言え綺麗だ上手いだと言われているのを聞くと無性に見に行きたくなるし、聴きたくもなるもんだ。


 時間がたっぷり余っていた僕はほんの軽い気持ちでその人がいるところに足を運んだ。ほんと軽い気持ちで。


 音が走っている。


 そんな変な感覚が僕の全身を揺さぶった。


 彼女が発する歌声が全身にぶつかり、浴びせられる。全身が総毛立ち震える。はじめての感覚だ。歌っている、その声の持ち主はいったい。


「レイ」

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