第12話 料理 ~side柚葵~

 大学が終わると私はまっすぐ家に帰宅する。用事があれば別だけど、用がないなら迷わず帰宅。


 今までに友達は居ない。大学にも居ない。ネットにも友達は当然居なくて、無い無いづくしの私。それでも特に気にしなかった。それでいいと思っているし。 


 講義は二限まで。学食みたいにコスパが良いのか悪いのかわからない場所で昼食を摂る気にもなれなかったので、私は家にあった蕎麦を茹でた。


 具はない。素蕎麦。でも、それでいい。それなりに美味しいから。


 昼食を食べ終わると一気に眠たくなる。でも、寝たら夜寝られなくなるから寝ない。思いっきり寝てみたいけど、後で後悔するのが目に見えているから止める。


 それから直ぐに料理を始めた。作るのは弟たちの遅めのデザート。多分時間的に凝ったスイーツは間に合わないので、簡単なサイダー寒にすることにした。


 材料はそれとなくあって、何とかなりそう。二時間もあれば弟たちが冷たい状態で食べられると思うので、作業を進める。


 着けていたヘッドホンからはゲームのBGMが流れていた。単純作業とBGMは相性がいい。ずっとこの時間が続けば良いと思った。


 続けること一時間でなんとか形にはなった。急いで冷やして支度を始める。そうこうしているうちに、妹のあかねが帰って来た。


 お姉ちゃんただいまーっと私に全力で抱きつく。私も茜を受け止めてぎゅーっと抱きしめ返す。


 私は茜にサイダー寒がある事を伝えると、体全体を使い喜んでいた。


 弟の伊月いつきが帰ってくるまで私は茜の小学校の宿題を手伝う。


 うーん、と唸りながら一生懸命考える姿を見るだけで、私はほっとする。その純粋さが何より嬉しい。


 弟の伊月が帰ってきた。時刻は午後の四時半を回ったところ。伊月も帰ってくるなり私に抱きついてただいまのハグをした。私も当然それに応えた。


 伊月が帰ってくると、茜はサイダー寒を強請った。そして伊月もある事を知り宿題よりも先に食べたいと懇願する。


 私はちゃんと宿題をやる事を条件に二人におやつを出すことにした。そして二人は笑顔で美味しいと言って食べ始めた。


 夕方頃、スマホに通知が来た。


 お母さんは今日も仕事で遅くなるという事を。


 私は了解とだけ返事をして冷蔵庫の中身を見る。


 残念ながら大したものは入っておらず買い足しに行かないと食べるものが無さそうだ。


 二人にスーパーに行くことを告げると二人はついて行くと言う。宿題もしっかり終わらせたことを確認した私はそれを承諾。そして三人でスーパーに向かった。


 夕方の時間になるとお惣菜も少しずつだけど値段が下がりお値打ち価格になる。


 うちの家はそんなに貧乏ではない。というより寧ろ良い方。だからちょっとぐらい贅沢をしたい。でも、したら私が怒られる。だから止める。


 お姉ちゃん、これが食べたい。


 そう言った二人の視線の先には少し高そうなお寿司があった。


 野菜だけはもうカゴの中に入れていたし、お寿司にしたら正直準備をしなくて済むのでとても助かる。でもお寿司なんて買ったら絶対二人に怒られる。だから、止める?


 二人にダメだよというのは簡単だ。きっと納得もしてくれるし。でも、そんなに贅沢する事はいけないことなのかな?


 私は家様に渡されていた財布ではなくて、自分用の財布の中身を確認した。ちょうど給料も入ったし、来月は少しだけ多くもらえることも加味して、私は二人にお寿司を買ってあげることにした。




 自室で勉強をしていた時、帰ってきたお母さんに呼び出されてリビングへと向かった。


 何?と言って直ぐに頬を平手打ちされた。


 良い音がしたな、なんて他人事のように思った。


 お母さんはゴミ袋を漁りお寿司が入っていたプラスチックの容器を持ってきて私を詰問した。


 私はありのままを説明した。それは家のお金じゃないし、それ以外は何も買っていない事を伝えるとやっぱり平手打ちされた。今のは鈍い音だったのでちょっと痛い。


「贅沢は甘えよ?」


 また始まった母の口癖。


「贅沢を覚えてしまったら将来貪るような人間になってしまったらどうするの?」


 知らないよ、そんな事。


「貴方の事を思って言ってるの」


 私の事?いつ頼んだの?


「お願いちゃんと二人には真っ当な人生を送らせてあげて」


 だったら私は?


 溜息だけが溢れてしまう。もうこの人は壊れてしまったのだ。そうとしか思えない。私は再び自室へと戻って鍵を閉めた。


 部屋の外からお母さんが呼ぶ声がしたが、もうどうでもいいや。


 私は再びヘッドホンをつけてBGMを流す。単純作業じゃないけれど、心に染みるし響き渡る。


 私はゲームの音楽で思い出し、棚にある一本のソフトを取り出す。


 そして、そのままベッドに横たわる。


 今週の土曜日早速貸そう。いきなりすぎて迷惑がられないだろうか?


 通話アプリに初めて登録した家族以外の人。変な感覚が私を支配していく。でも、なんだか嫌じゃない。


 気をつけて。


 自分に向けてくれるその言葉が自分だけのものだとわかったとき、ほんの少しだけ嬉しかった。


 この嬉しさの正体は一体なんだろう。

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