第28話 花びらの舞い散る中で

 激戦の夜が明けて、迎えた昼。アルフレッドは恭しい声と共に現れた鎧の神と向き合っている。今度は兵士だけでなく、綺羅びやかな衣装に身を包む女官も大勢伴っていた。赤に白にという装いが寝ぼけ眼に突き刺さる。


「おはようございます、アルフ殿。昨夜はよう眠れましたかな?」


「鎧のオッサン……何の騒ぎだよこれは」


 室内は睡魔の色が濃い。覚醒してるのは子供たちだけ。大人組は寝ぼけ眼を浮かべており、朝食も手つかずという有様だった。


「紆余曲折ございましたが、ようやく整いましたぞ。調印の儀が!」


「あぁ、そうか。完全に忘れてた」


「馬車も用意してございます。ささ、どうぞこちらへ」


「待てよ、朝飯くらい食わせろ」


「もうじき昼でございますが……。あちらで酒食の用意もございます。ひとまずはお移りいただけませぬか?」


「お前……こちとら街を救ったヒーローだぞ」


 鎧の神が粘り強さを見せたので、魔王一行も渋々折れた。寝癖もそのままに宿屋を出ると、数両の馬車の前後で文武百官が列を作っていた。

 呆気にとられて足が止まる。すると馬車の方から「御簾を」という声がした。すぐにスダレが持ち上がり、車内の少女と視線が重なった。


「ゲツメイ……」


「なんじゃその間抜け面は。手桶を用意させる故、中で身支度を整えよ。とても見れたものでは無いわ」


 そこでスダレが閉じた。せめて一言くらい言い返そうとしたのだが、鎧の神が背を押すので、それも叶わない。

 そのまま馬車に押し込められた。4頭立て、広々とした車内は、全員が乗り込んでもゆとりがある。ゲツメイと違う馬車である事も快適さに拍車をかけた。


「では参りますぞ」


 御者は鎧の神。馬のヒヅメをかっぽかっぽと響かせながら、ゆるりと移動を開始した。空を飛ばず、大手通りを進む手筈だ。

 何でわざわざ地上の道を。そう疑問に思うと、周囲から歓声が沸き上がったことに驚かされた。


「レジスタリア王、バンザイ!」


「すげぇじゃねぇか! あのバケモンをぶっ倒すだなんて!」


 口々に叫び、手を打ち鳴らすのは都人だ。彼らはこぞって集まり、救世主を思い思いの言葉で称賛した。それは長い通りを進む間、絶え間なく続けられた。

 だから飛ばないのか。アルフレッドは顔を赤くしながらも、スダレを落としたままで馬車に揺られていく。手桶の水で顔を洗っても、頬の火照りまでは流せそうになかった。


「そろそろ到着致しますぞ」


 鎧の継ぎ目を鳴らしながら言う。そして言葉通りに、馬は止められた。スダレをまくって馬車から降り立った地面は柔らかく、そして鼻を包む芳醇な香りが、気分を新たに塗り替えてくれた。見渡す限り草原地帯だ。実家と似た光景だが、こちらの方が土地の隆起は激しい。


「へぇ、ここでやんのか」


 アルフレッドがぽつりと溢したのを皮切りに、子供たちが素直な心情を述べた。


「お花とチョウチョさんと、くさと、木と山と。それからえっと!」


「都も良いけど、僕はこういう所のほうが好きだなぁ」


「素晴らしいです。ここで血しぶきが飛び散れば、草花の栄養になるのです」


「ミレイア。今ばかりはそういう言葉は控えておくれよ」


「どうしてですか、兄様?」


「少しでも回りを見れば分かるんじゃないかな」


「回りを……」


 やんわりと叱られたことで、ミレイアは少し見渡した。そこでは着々と儀式の準備が進められていた。陣幕は調印式の為、青空の下に並ぶ食卓は会食の為であり、多くの下働きが東奔西走して場を整えていた。火の神にカマドの神、木椀の神に包丁の神などなど、地元の神様が勢ぞろいだ。他にも人間の政務官やら、カラスやキツネの妖かしと種族の垣根なしに大忙しだった。


(なるほどです。こんな場所で贄(にえ)に逃げられては面倒なのです。うっかり口を滑らせない様にしないとです)


 ミレイアは妙に大人びた笑みを浮かべつつ、オモチャの脇差しを手に取った。それは祭りでグレンが射落とした物だ。刀身が竹で出来ているので、うっかり振り回しても危険ではない。ただ雰囲気が飛び抜けて妖しくなるだけだ。

 それからは魔王一行も大人しく待つ。ただボンヤリと時間をつぶすのだが、準備が終わる気配は見えない。やがて鎧の神が滑り込む様に平伏し、詫びが入ることで事態が動き出す。


「申し訳ございませぬ! 今しばらく、今しばらく猶予を!」


「おいおい。それだったら寝かせてくれりゃ良かったろ」


「なにぶん、式を決定したのが朝方でして。ゲツメイ様が国の威信をかけて執り行うと、おっしゃいまして……」


「ふぅん、アイツがねぇ」


「されどご安心を! ここには歓待におあつらえむきな神が控えてございます。御子の皆様もきっとお気に召していただけるかと!」


「別に良いよ、出歩くの面倒だし。そこらで遊ばせとけば十分だって」


「いやいや、すぐそこですので。ここはどうか、どうか!」


 アルフレッドは苦笑いと共に立ち上がった。それから鎧の神に連れられたのは、丘をひとつ越えた所だった。そこはまさしく華の楽園。色とりどりに咲き乱れる華は生き生きとしつつも調和を保ち、あらゆる草花が日差しを受けて、力強く育っていた。

 花畑の真中では1人の女性が佇んでいた。微笑みは軽く、かしげた首が緑に映える髪を揺らす。頭上には大小の花で彩られる冠。ただし着物ではなく、ワンピース姿である事から、現地の神とは思えなかった。


「おぅい、花の神よぉ〜〜い」


「あらぁ鎧の神様。今日はお客様をお連れで?」


「国賓であるぞ。失礼の無いよう、もてなしたくてな。協力して貰えぬか?」


「それはそれは、うふふ。ようこそ安寧の園へ〜〜」


 花の神は立ち上がると、軽やかな足取りで歩き出した。横に開いた両腕を仰ぐ仕草は、風に舞う綿毛を思い出させる。そのまま笑顔を絶やす事無く、歓迎の意を述べようとした。


「どうぞ異国の皆様。ひとときの安らぎを、心から楽しんでぇぇええ〜〜〜」


 しかし次の瞬間には姿が消えた。


「花の神ィ!?」


「あぁ〜〜らぁ〜〜」


「おい、今何が起きた?」


「落とし穴……のようでございますな」


 鎧の神が腰縄を降ろすと、花の神は無事生還した。イタズラでやったにしては深すぎる穴だ。


「すみませぇん。ご面倒をおかけしましたぁ」


「おい、花の神様とやらよ。ここは安寧の場所なんじゃねぇのか?」


「はいぃ。お花を見ると、心が安らぎます〜〜」


「いやいや安らげねぇよ。落とし穴があるような場所だぞ」


「そうですかぁ? でも、お花は無事ですので〜〜」


「何か調子狂うなコイツ」


「まぁまぁアルフ殿。今のは悪たれ小僧の仕業でして。別に穴だらけという訳ではござらん」


「……怪我の無いよう気をつけるか」


 実際、穴は1つしか無かった。それも花の神の能力、草編みの橋によって塞がれた。そんな一幕も子供たちにとっては関係ない。特にシルヴィアなどは好奇心を全開にし、目につくまま質問を投げかけた。


「ねぇねぇ、あのお花は何て名前?」


「その子はですねぇ、赤くてキレイな子ですよ〜〜」


「そんじゃあ、このお花は?」


「その子はですねぇ、スフィッと伸びやかで健気な子ですよ〜〜」


「お名前はなんていうの?」


「赤くてキレイな子と、スフィッと伸びやかで健気な子ですよ〜〜」


「おい鎧のオッサン。あいつは本当に神様か?」


「腕前は確かですので……」


 しばらくして。腹の虫がグゥと鳴れば、茶菓子が振る舞われた。笹の葉に乗せられた草団子だ。きな粉がまぶされており、大豆の香りも芳醇だったのだが、ここでアシュリーがくしゃみ。

 舞い上がるきな粉、怒鳴るアルフレッド。その一方で大勢が声をあげて笑い、和やかな時間は保たれた。


「ん、何の音だ?」


 ドン、ドンドン。規則正しく鳴らされた陣太鼓。それを耳にするなり鎧の神は居住まいを正し、平伏して告げた。ようやく時、至れりと。

 戻る時は様相が異なった。迎える列は陣幕までズラリと伸び、武官文官が拝礼して促す。


「レジスタリアよりアルフレッド王。中へ」


 調印の場に行けるのは王1人だけだ。皆とは食卓で別れ、アルフレッドは垂れ下がる布を避け、足を踏み入れた。迎える側も供をつけず、1人だけだった。


「や、やぁ、魔王ちゃん。お元気ぃ?」


「誰だお前!?」


「やだなぁ。オイラみたいな美青年、忘れないでよ」


「いや、美青年っつうよりか、余生すら怪しい青年って感じだが……」


 例えるなら良く出来た漬物。シワッシワの顔に生気は無く、土気色だ。しきりに震える様子にも活力を見いだせない。彼を国王ヨウコウと認めたくとも、昨晩の記憶が邪魔だ。そう感じる程度には別人だった。


「ちょっとゲツメイにね、コッテリと絞られてねぇ。お陰でこのザマさ」


「それは比喩か? それとも物理的にか?」


「夜通しで吊るされてのお説教さ。いやぁ、カラス娘ちゃんに見られたのが1番辛かったなぁ。ゲツメイってば昔の事までほじくり返して、そりゃもう長々と……」


「兄上。ゴチャゴチャと喋り倒す気力があるのなら、今晩も吊るしてやろうか」


「さ、さぁ調印だよ! 印鑑あるかい? ちゃんと王の印でお願いね!」


 薄絹の向こうから漂う殺気に、ヨウコウは飛び上がって叫んだ。慌てて台座に広げられた紙は、両国が結ぶ協定について記されている。左右に二ヶ国語あるのは、それぞれの母国語で明文化されたからだ。


「この折目にお願いだよ」


「こうか……?」


 上下に2つの印。その紙を折り目に沿って千切り、自国語の方を受け取れば、儀式は終わりだ。この瞬間をもってして、両国は正式なる友好国として手を取り合う事になる。


「さぁ皆の者、堅苦しい時は終いぞ。これより宴じゃ、無礼講じゃ!」


 ゲツメイの音頭により、厳粛とした空気は様変わりし、飯に酒にという騒ぎとなった。魔王達、特に大人組にしてみれば、本日初のまともな食事だ。喉を通らないはずが無いのだ。


「おぉ、これはチュートロちゃん。ウマウマのチュートロちゃん……じゃない!?」


「わっはっは。それは赤身でございますぞ」


「んん〜〜、どうしてヤポーネの食事って、独特な美味しさがあるのかしら。どうも再現出来なそうなのよね」


「我が国は旨味を大切にしておりますからな。汁ひとつ取っても、たゆまず同様に」


「済まないが塩を貰えないか。天ぷらはつけ汁ではなく、塩を振りかけたい」


「おっと女傑殿よ、そこまでご存知とは。なかなかの美食家とお見受け致しましたぞ」


 今ではスッカリ顔なじみとなった鎧の神が、細々と講釈を垂れつつ、酒を注いで回った。ちなみに子供たちには摘みたてハーブティ。なぜか泥だらけで再登場した花の神が、丹精込めて淹れた珠玉の1杯である。


「さてと。興が乗った。ここらで一曲奏でてみるかのう」


「おぉ、皆の衆! ゲツメイ様の琴が始まるぞ!」


 宙が光ると琴が姿を現し、ゲツメイの足元に降りた。弦を弾く音は鋭く、それが彼女の唄う声とが重なり混ざる。調和する互いの音は、輪郭を滲ませつつも、より心地よい響きとなって辺りを潤した。


「深き深き夜。分かたれた指、虚空に踊る爪の先」


 そんな言葉で始まった曲は、美しくも物悲しい。透明な響きと、普遍の情熱は耳にする者をハッとさせ、馬鹿笑いする酒飲みですら瞳を閉じていた。

 最後は琴を乱雑にかき鳴らす。それは咲き誇る華を現すのか、満開の華が風に舞い散るかのよう。多くは語らず、しかし凄まじい熱量をもって、曲は締めくくられた。

 もちろん、終われば拍手喝采だ。さすがのアルフレッドも、この腕前は讃えるしかなかった。


「へぇ、やるじゃん。歌詞はよく分かんなかったけど」


「ゲツメイ様……なぜこの場で恋歌を……」


「どうした、鎧のオッサン?」


「あ、いや、なんでもござらん! いやぁ相変わらずの美声には脱毛する想いになり申す」


「脱帽だろ。ムダ毛を抜いてどうすんだ」


 鎧の神は誤魔化す様に酒をついだ。米の味が濃い澄酒だ。小さな器でグイと飲めば、なおさら美味く感じられ、この日は特に酒が進んだ。

 そうして迎えた宴もたけなわ。大勢が腹を膨らませ、あるいは酔いつぶれるかして、終焉の気配を漂わせた。アルフレッドも程よく酒が抜けている。冷水を椀で呷りつつ、草原を駆け回る娘たちを見ていた。

 ヨウコウが声をかけてきたのは、そんな折の事だ。


「ねぇ、ちょっと散歩でもしない?」


「良いぞ。お前には聞きたいことがある」


「奇遇だね、オイラもさ」


 2人が向かったのは林の方。人目を避けるのに丁度よい案配だった。

 

「魔王ちゃん。ゲツメイの事、どう思う?」


「どうって、まぁ、頑張ってんじゃねぇの。お前がヌケてる分だけ余計にな」


「あはは、手厳しいな。ちなみに女性としては?」


「なんでそんな事を聞くんだ」


「……この反応、きっと茨の道だろうなぁ」


「聞きたいことはそれだけか?」


「もう一個あるんだけど、交代だ。魔王ちゃんどうぞ」


 主導権を譲られたアルフレッドは、一旦口を閉じた。胸の内に去来する一連の出来事。心に引っかかる違和感。それらを集約すれば、疑念は確信めいた色を帯びるようになる。


「わざとだろ、お前」


「何がだい?」


「姿をくらませた事。それと、百蛇を地上に追いやった事もだ」


「人聞き悪いなぁ。席を外したのは呼ばれたからだし……」


「それなら一筆残す事も出来たよな。だが何もせず、ゲツメイに会うよう仕込んだ。アイツの反発心も織り込み済みだった。そして狙い通りケンカ別れをした訳だ」


「オイラは両国の友好と繁栄を願ってるんだよ。どうしてそんな真似をしなきゃならない。百蛇だって、偶然に逃しちゃって、後は流れさ。本当に他意は無かったよ」


 それは当然の反論だった。物的証拠は一つとしてない。失念や失態と言われてしまえばそれまでだ。

 だがアルフレッドは追求の手を緩めなかった。


「オレの出方を見ようとしただろ。反感を抱いたオレが、窮地に陥るヤポーネ人を助けるかどうか。そこで手を組むべき相手かを見極めようとした」


「たまたまだって。オイラは真っ直ぐな性質ででね、腹黒な策謀とは折り合いが悪いんだ」


「夜通しで戦った割にはキレイな格好してたよな。泥も返り血もない。それは刀も一緒だ」


「なるほど。それが罪の証拠だってのかい?」


「勘違いするな。オレは別に、断罪を目的にしちゃいない。違和感の答えを知りたかっただけだ」


「そうかい……大雑把な男だと聞いてたけどさ、意外と繊細な眼を持ってるんだねぇ」


 ヨウコウは微かに微笑むと、その気配を変えた。薄らと漂う闘気でさえ、アルフレッドの腹を絞るかのような圧迫感がある。


「魔王ちゃんの読みは8割正解。残り2割は、そうだね、オイラが聞きたかったもう1つの質問に通じるんだけどさ」


「そうか。言ってみろ」


「オイラと魔王ちゃん、どっちが強いかな」


「何だと?」


「自分で言うのも何だけど、オイラはこの国でダントツに強くってね。ゲツメイや鎧の神もそこそこだけど、防御型だ。ガツガツ攻めて勝つようなキャラじゃないんだよ」


「じゃあ百蛇をけしかけたのも、力量を測るためか?」


「そんなとこ。どうよ、怒った?」


「別に。割とどうでも良い」


「懐が深いねぇ。そんで、どっちだと思う?」


「何がだよ」


「オイラと魔王ちゃん、どっちが強いかって話」


 ヨウコウの気配が更に強まる。アルフレッドも、自身の瞳が鋭くなっていくのを感じた。


「んなもん、真っ向勝負するしかねぇだろ」


「それはちょっとなぁ。国賓に乱暴したと知られたら、今夜もゲツメイに叱られちゃうよ」


「オレだってゴメンだ。何かっつうと乱暴者扱いされてんだぞ。意味もなく暴れてられっか」


「お互い立場ってもんがあるし、無闇に殴ったり出来ないよね。あっはっは」


「同感だ。何かとうるさくて仕方ねぇわ」


 笑顔を交換する2人の元へ、一迅の風が吹いた。舞い散る花びらが両者の間を割って入り、ほんの一瞬だけ、視線を遮った。

 その刹那。ヨウコウは鋭く蹴りを浴びせかけた。アルフレッドも同じく蹴りを見舞う。それらの不意打ちは、両者ともに腕で防ぐことで、直撃を免れた。


「やるじゃん。本気で蹴ったのにさ」


 ヨウコウの掌には薄い切り傷が出来た。


「お前は今晩も説教確定だな」


 アルフレッドの腕には微かにアザが刻まれた。


「平気さ。魔王ちゃんが黙っててくれれば問題なし」


「あぁどうすっかな。ちょっと口がなめらかになりそうだぞ」


「そんなイジワル言わないでよ。可愛い子紹介するからさ。こう見えても顔は広いんだよね」


「要らねぇし。唐突すぎだし」


「あぁ、やっぱお仲間の誰かがお気に入りなの? 狐の子は優しそうだし、翼の子はすっごい美人。あの剣士の子も、格好良くてステキだよねぇ」


「違うぞ、アイツらはそんなんじゃねぇ」


「そこにゲツメイも加えてあげてよ。意外と尽くすタイプでさ、可愛いとこもあるんだよ?」


「だから、何でその名前を出すんだよ! もういい、話はお終いだからな」


 ヨウコウは、肩を怒らせて立ち去る背中を眺めた。初めて見つけた対等の存在。どこか気の合う気質で、ぶっきらぼうだが基本的には善人。それが今、友好国の指導者として並び立とうとしていた。


「できれば、良き友人として接して欲しいなぁ」

 

 呟きは誰にも届かず、木々の枝葉に吸い込まれた。

 それから迎えた夜。ヨウコウは二晩連続で吊るされるハメになった。もちろんゲツメイの説教付きだ。


「魔王ちゃん、そこは黙っておくところでしょ……」


「何じゃ兄上。もう弱音を吐くとは気が早い」


 どうやら、アルフレッドとヨウコウで、思い描く友情に違いがあるらしい。そこには確かに、文化の壁というものが存在していた。しかしヨウコウは漬物然とした顔になりつつも、遂にはアルフレッドを恨むことは無かった。

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