第8話 鞘を求める剣
豊穣の森に朝日が昇る。形式的には戦時であり、最前線にして唯一の戦地なのだが、穏やかな風景が広がる。そのため、魔王軍の面々も普段どおりに過ごすのだ。
「ふぁぁ。おはようアルフ」
「おはよう。リタが寝坊なんて珍しいな」
「ちょっと眠れなくてね、すぐにゴハンを用意するわ」
「お姉ちゃん遅い、シルヴィのが早いの!」
「そうね。ちゃんと起きられてエライわよ」
気だるい朝に不似合いな華やかさがある。それは大いにはしゃぐ声のお陰か、あるいは柔和な笑みの効果か、もしくはその両方か。
しかし居合わせる者たちは特に考えようとしない。モコはテーブルの端で丸くなり、アルフレッドも身体を投げ出して椅子に浅く座り、何もない天井を眺めるばかり。そこではペコタンがフヨフヨと浮遊し、当て所もなく宙をさまよっている。いつもの朝と大差のない光景だった。
「あら、そういえばアシュリーは? まだ寝てるのかしら」
「アイツなら飯も食わずに出ていったぞ。なんでも、やんごとなき重大なる私的な些事につき、とか言ってたな」
「そう……全く分からないわ。大きいのか小さいのかさえも」
「同感だ」
噂をすれば影。遠慮げに開かれた玄関からはアシュリーが顔を覗かせた。それから一歩一歩確かめるようにして足を踏み入れる様は、他人行儀の域すら飛び越している。誰がどう見ても違和感の塊なのだが、当の本人は真剣だった。
「アシュリー。朝ご飯は食べるのよね?」
「えぇもちろん! ただし冷まし気味で、量は大盛りにしてくださいな」
「大盛りですって? アナタが?」
「それから、ご飯は部屋で食いますんで。ドアの近くに置いといて貰えればオッケーです」
「急にどうしたのよ、唐突過ぎるわよ」
仕草が不自然なら態度も不自然。アシュリーはダイニングキッチンを横切り、2階へ続く階段を目指した。しかし、その行く手は魔王によって遮られる。
「おい、何を隠してんだお前」
「ウヒィ! そんなもん、ある理由ないですよぉ。いやだなぁ旦那ったらエヘヘェ」
「じゃあ上を脱いでみろ」
「えぇっ、まさかの求愛ですか? 性欲満開の破廉恥カーニバルですか? それならちょっとだけ準備の時間をほしいですね、そしたらもう理性が吹っ飛ぶくらい妖艶な格好でお出迎え……」
「ゴチャゴチャうっせぇわ」
「ちょっと、急なお触りは禁止ですよ!」
アルフレッドはアシュリーの膨らみを突付いた。ただしそれは、豊満すぎる胸とコルセットの間に居座る、不可思議な塊を。すると刺激を受けた異物は服の中でモゾモゾとうごめき、やがて胸元から顔を出した。
「ミンミャーーァ」
「やっぱりか。野良猫を拾ってくるんじゃないよ。うちにはもう小憎らしい先客が居るだろ」
「酷いなぁアルフ。僕はれっきとした愛玩動物なんだよ?」
「だったら、一度くらい無邪気にニャアと鳴いてみせろ」
話は横に逸れたが、ペットの家族入りは滑らかに却下された。皆が皆仕事を持っているので、暇ではないのだ。
「もと居た場所に戻してこい、早く」
「うぅ……さようならキャサリン。誰か優しい人と巡り合うんですよ……」
「もう名前付けてんのか、情がうつるだけだぞ」
「まったくもう、アシュリーったら仕方ないわね」
「いや、お前もだろうが!」
鋭く指さされた先、リタの肩周りでモコッとうごめく影がある。それは声に応じるかのように、ヒクヒクと動く鼻を袖口から晒した。
「何だそれ、ネズミか?」
「違うわよ。これはシンナリヤン・ハムスターよ。しっとりした毛並みが可愛いのよね」
「いつからだ、捨ててこいよ」
「今朝方、布団の傍をうろついてたの。でもこの子はペットじゃないわ、使い魔よ」
「ほぉ、だったら何かしら役に立つんだよな?」
「もちろん。可愛くってお茶目で、見る者に元気と安らぎを与えてくれるわ」
「おっそうか、そりゃペットだな」
「それから、野菜クズを食べてくれるわ。優秀よね」
「おっそうだな。捨ててこい」
「ごめんなさいシメリン。森の中で雄々しく生きていくのよ」
「だから名前を付けんなって」
眼前の仕事を終えたアルフレッドは一同と向かい合い、断言した。
「良いかお前ら。ただでさえモコとペコリンっつうペットが居るんだ。これ以上無闇に増やすのは禁止だからな」
「ペコタンよ、間違えないであげて」
「どっちでも良いだろ。とにかくペットを増やすゆとりなんかねぇから。分かったな」
「そんな事言って、アルフこそ何か拾ってきそうですよ」
「んな訳あるか。オレには可愛い可愛いシルヴィが居る。ペットごときが付け入る隙なんかある訳ねぇだろ」
「はいはい、話は分かったからご飯を食べちゃって。用意なら終わってるから」
こうして普段とは毛並みの違う朝食を迎えたのだが、やがて日常を取り戻していく。モコは地脈管理、アシュリーは森の点検。掃除と洗濯はリタが片付け、アルフレッド親子は、じきに始める家庭菜園の為の開墾作業に出かけるのだ。
「さてと。邪魔くせぇ岩をどけますかねっと」
「シルヴィも頑張るの。石を遠くにどけるの」
愛娘は自身の足元に転がる小砂利を拾っては投げる事を繰り返した。仕草といい腕力といい、全てが父にとって愛苦しく映る。
「すごいなぁ。おとさん、助かっちゃうぞ」
「えいえーーい。あっちいっちゃえ!」
小鳥のさえずりより好ましい掛け声が、アルフレッドの耳を豊かに染める。そのため、彼もいつになく熱心になった。見上げる程の巨岩を押し退け、伐採時に作った切り株も足裏で蹴って掘り返す。
その日のうちに、辺り一面の全てが拓かれるという偉業を、実質1人で成し遂げてみせた。百人規模でも数ヶ月を要する成果を、たった数日で手にしたのだ。やはりこの男、精を出すと規格外の結果をもたらしてくれる。
「ふぅ。大分拓けたな。つってもまだまだ農地には程遠いが」
「えいえーーい!」
太陽は既に高い。そろそろ昼時だろうと、アルフレッドは引き揚げようとしたのだが。
「おとさん、わんちゃん!」
「わんちゃんって……あぁ、アイツか」
アルフレッドは、シルヴィアの指差す方を見ては溜め息を溢した。最近になって、やたらと魔狼族がうろつく様になったのだ。手下はまだ良いにしても群れの主は図体がやたらとデカい。アルフレッドにすれば過去の軋轢も手伝って、体つき以上の鬱陶しさを感じるのだ。
「何だよワン公。周りをウロチョロすんな、うざってぇ」
「我が主に申し上げます。珍しき者を森で見かけましたので、その報告を」
「主人じゃねぇし、報告もいちいち要らねぇし」
「御名を口にしましたので、念の為にと連れて参りました」
原初の魔狼が背中を揺さぶると、ドサリと重たいものが落ちた。人型、鎧姿の女剣士。燃えるような赤い髪色には、アルフレッドにも見覚えがあった。
「コイツはもしかして、いつぞやのプリニシア騎士か?」
「やはり顔見知りでございましたか。敵対する者でしょうか?」
アルフレッドはおぼろげな記憶を辿った。国境付近の高原、ドラゴンを成り行きで退治したところ、グランニア騎士団から攻撃を受けた。しかし、この女騎士はどうだったか。比較的まともだった印象がある。
「たぶん敵じゃねぇ。一応は丁重に運べ」
「承知。魔王城までお連れします」
「あの小屋を城とか言うな。名前負けした感がヤバいだろが」
アルフレッドは小屋まで運ばせると、魔狼を門前払いで追い返し、騎士を肩に担いで帰宅した。
「おかえりアルフ、シルヴィ」
料理中のリタが声をかけた。がら空きのテーブルには既にアシュリーの姿もある。
「うわっ。何ですかその女は。それってまさか!?」
「誤解すんなよ、別にオレが襲いかかった訳じゃない。コイツは森の中で行き倒れに……」
「アタシ達にはペット禁止にしておいて、自分はニンゲンの女を飼おうってんですか!」
「まぁ酷い話ね。私達には指1本触れないのに、別の子を囲うだなんて」
「行き倒れを助けたんだよ! 良いからサッサと水を持って来い!」
アルフの弁明にリタが水の用意を始める。しかしアシュリーは悪ふざけが盛り上がり、「どうせ夜のペットですよね」と言ってはゲス顔を晒した。その額に懲罰デコピンが炸裂する事でけじめがつき、本題も無事守られた。
「ホラお水よ、ゆっくり飲みなさい」
リタの介抱によって清水が与えられた。口に少量を含ませる事2回。それでじきに眼を覚まし、身を起こすまでに復調した。
「かたじけない。よもやこの私が遭難するとは、不覚だ……」
「お腹空いてるでしょう。良かったら私達と一緒にどうかしら?」
「待てリタ。それは尋問が終わってからだ」
「尋問? 何か気になる事でも?」
「コイツはプリニシアの騎士だぞ。そんなヤツがなぜここに居る。しかもたった1人でとか、怪しすぎるだろ」
「気にしすぎじゃないかしら。ひとまずは元気を取り戻してからだって……」
反発する2つの意見に割り込んだのは、他ならぬ、疑惑を向けられた当人だった。
「私ならもう平気だ。懸念も当然のものだと思う」
騎士は膝が笑うのに構わず立ち上がった。さすがのアルフレッドも見るに見かねて、椅子を差し出して座らせた。
「改めて助けてくれた事に感謝する。私はエレナ・ナイト・プリニシア。先程触れられた通りプリニシア騎士団に所属していた」
「エレナ、ナイト……どっかで聞いたことありますね。なんでしたっけねぇ」
「恐らく父の名と一緒に聞いたのではないか。あれも一応はプリニシア騎士団の長だ」
それを聞いたアルフレッドは警戒を強めた。かの国は大陸南東に位置し、広大な領地を有する大国で、グランニア帝国に次ぐ影響力がある。多くの国々が帝国に臣従を迫られる中、独立を許される数少ない国だ。その意味ではレジスタリアも同格なのだが、国力や兵力は段違いである。
その背景から、謀略を警戒するのも当然の事と言えた。
「へぇ、つう事はだ。お前さんは重鎮のご息女って訳か。なおさら怪しいな。国元から離れて森の中をうろつくのは」
「正確には元騎士だ。国なら忠義心とともに捨てた。もはや国籍を保たぬ流浪の身だと言える」
「そう簡単に辞められるもんかよ。親父の顔だってあるだろうに」
「そうだ。だから夜逃げという手段に訴えた」
「話が見えてこねぇな。貴族の娘で親父は騎士団長。普通に生きてりゃ上々の人生だったのに、それを捨てたってのか?」
エレナは真剣な面持ちで頷いた。誰かがなぜと問いかける前に、彼女は進んで答えた。
「全ては貴殿に会うためだ」
「お……オレに!?」
これにはアルフレッドも困惑した。あの手この手の謀略を想定はしたが、返答は完全に予想の外にあった。リタからは白い目を、アシュリーからはじっとり粘りつく視線を浴びつつも、話の続きを促す。
「あの失態を忘れる事はない。貴殿に救われたドラゴン退治の件だ。まともに戦ったのは私と配下くらいのもので、多数を占めるグランニア軍は矢の1本すら射掛けず、延々と逃げ回ったのだ」
「びっくりするくらい弱かったよな。貴族が実績の為にやる、いわゆる名誉騎士ってやつか?」
「恐らくはそうだ。連中は悪びれもせず言い放った。ドラゴンが暴れ回っても、田舎村が滅ぼされるだけだと」
「そんなもんだろ。騎士なんざ、お偉いさんの顔色しか見ちゃいない」
「私は父に教わったよ、力は守る為にあると。戦う術を持たぬ者の為に使えと。それなのに連中ときたら、ロクに命も張らず、交わす言葉も酒と賭け事の話ばかり。ただの一度も民に気遣う言葉は無かった!」
エレナは口調を荒くしたかと思えば、徐々に湿り気までも帯びるようになる。
「騎士でさえこの有様だ。貴人とてロクなものではない。蔵には財宝を山と積み上げ、食料は腐らせるほどにある。その日のパンすら口にできない者が大勢居るにも関わらずだ」
「どこも大差ねぇよ。上は散々太って下が痩せこけるもんだ。末端の連中なんかいつ死んでもおかしくない暮らしぶりだろ」
「私は分からなくなったのだ。そして虚しくなった。苛烈な政治を繰り返す王に忠義を尽くす事が。その王家を支える行為の全てが」
「それで国を捨てた、と」
「そうだ。貴殿に会いたくなった理由は自分でも分からん。強くなりたかったのか、それとも逃げるキッカケでしかなかったのか、分からないんだ」
「分からねぇことばっかかよ」
「アルフ、彼女は真剣なのよ」
それくらいはアルフレッドも理解している。同調せず、茶化す様な真似をしたのも、彼なりの理由があった。
「まさかとは思うが、ここの一員になろうと考えてないだろうな?」
「軍の端にでもと思ったが、ダメだろうか?」
「ここではムダ飯喰らいを置くゆとりはない。例えばリタ。こいつは魔法の扱いが巧みで、他にも炊事やら家事で貢献してくれる」
「奥さんとして夫を支えるのは当然の事よ」
「嫁じゃねぇが。こっちのモコは地脈がどうのと、小難しい事やってる」
「キミが仕事を覚えてくれたら、僕は愛玩動物に専念したい所だよ」
「そしてアシュリー。こいつは、まぁ、毎日何かやってる」
「えっ、アタシの説明が雑!?」
「とまあ、こんな感じだ。ちょっと腕が立つくらいじゃ仲間にする気はない」
「私の特技は、そうだな。まずは剣技だ」
エレナは剣の刃を半身だけ抜くと、眩く煌めかせた。刀身に宿る光は青白く、清らかな印象を与える。特にシルヴィアなどは眼を丸くして驚き、キレイだなんだと褒め称えた。
「これは刀剣術のひとつ、神聖剣だ。悪霊やアンデッドに対して絶大な効力を発揮する。他にもいくつか種類があって……」
「そういうのは要らねぇ。荒事はオレ1人でもこなせるんだ」
「ならば夜伽だ。未経験だが、体力には自身がある。貴殿の溢れる性欲を全て受け止めてみせようとも」
「要らねぇし。つうかお前らは、下世話な提案しなきゃいけないルールでもあんのか?」
多少言いがかりめいたセリフだが、ともかく、アルフレッドに色仕掛けなど通用しない。
エレナは他にも持参金として差し出した金貨を拒絶され、刀研ぎの話をして伽(とぎ)だと勘違いされるなどし、かなりの苦戦を強いられた。
「そろそろ諦めろって。お前には帰るべき家がある。謝れば許してくれるだろうよ」
「あとは、そうだな……怖い話とか得意だが」
「何だってそんなもん。誰も求めてねぇよ」
しかしリタには好感触だ。
「面白そうね、聞かせてもらえるかしら?」
アシュリーも負けず劣らず前のめる。
「そういう事ならアタシもご一緒しますよ」
「アルフはどうするの? 聞いてく?」
「馬鹿馬鹿しい。オレはシルヴィと遊んでるからな」
「そうなの。じゃあエレナ、お願いね」
「うむ。これはな、先輩騎士が実際に体験した事なのだが……」
重たい気配で話が始まるのを余所に、アルフレッドは娘を外に連れ出そうとしたが、それは断られた。天井を泳ぐペコタンを見ていたいと言うのだ。エレナとは多少の距離があるとはいえ、言葉の半分くらいは届く。それがかえって凄みを増してしまう。
「――鳴り止まない獣のうめき声。――探してみるがやはり――ない。やがて――ヒタァと――聞こえる。そして肩を――」
耳栓を出し入れしたかのような聞こえ方だ。聞く気が無くとも、耳が勝手に話を受け付けてしまう。今はペコタンに集中しようと、視線を意図的に天井へと向け続ける。
やがて怪談はクライマックスを迎えた。
「最後に暗闇の何かは叫んだ。『お前の間欠泉だ!』とね」
「ひぇぇーー!」
突然の大声に皆が驚き、後退りした。それは輪の外にいたアルフレッドも大差ない。
「おやぁ? アルフは聞きたくないって言ってましたよね。もしかして興味津々ですか?」
「そんだけデカイ声で叫べば驚くだろうが!」
平静を保てたのはボンヤリしていたシルヴィアくらいだ。リタとアシュリーは尻もちを着き、モコはテーブルから落下しかけ、アルフレッドなどは飛び跳ねてまで驚いてしまう。
そんな一幕はありつつも、エレナの仲間入りは見送られた。ひと晩だけ泊めると告げ、仮の部屋を貸し与えた。
それから迎えた夜。アルフレッドはいまいち寝付きが悪く、ベッドの上で手足をさまよわせた。
(まったくあの野郎。くだらねぇ話しやがって……)
まんじりともせず、ただ眼を瞑るばかりになる。すると、どこからか獣の唸り声らしきものが聞こえるようになった。
「これ、イビキか? うるせぇなマジで」
アルフレッドは階段を踏み鳴らしながら昇っていった。そして声の位置を割り出すと、ドアを押し開けつつ怒鳴った。
「おいアシュリー、うるせぇぞ……!?」
踏み込んだ部屋は無人だった。ベッドはもとより、部屋のどこにも姿はない。そして奇妙な事に、あれ程やかましかった唸り声も止んでいる。
そこでふと、昼間の話が脳裏に浮かんだ。
――獣の声をさぐりに行くが、その姿はどこにもない。
まさかな、と思う。あんなもの作り話だと確信している。この符号は偶然の一致だと、自分自身に言い聞かせた。しかしその意思も、廊下から伝わる音で消し飛んでしまう。
――暗がりから、ヒタァヒタァという足音が聞こえる。
ここでも怪談と一致した。しかし違う。寝ぼけた誰かがうろついているだけだ。背後に目を向ければ一目瞭然なのである。それでも動けなかった。彼らしくもなく、恐怖が身体を強張らせるのだ。そして、話の結末についても、自然と脳裏に浮かぶようになる。
――振り向こうとするが、肩を掴まれてしまい身動きがとれない。
そう、それはやはり起こった。暗闇から伸ばされる白い手が、アルフレッドの肩を鷲掴みにした。
「ねぇアルフ。ちょっと良いかしら」
「ギャアアァァ間欠泉ーーッ!?」
「アシュリーがうるさくて寝不足なのよ。アナタから注意を……って、あらぁ?」
アルフレッドは既に意識を手放している。無数の泡を床に溢しながら。
明くる朝。いつもの食卓にエレナという新顔と、家主の暗い顔を加えながらも、変わらぬ光景が広がった。
「あぁ、身体が超絶痛いですね。ベッドから転げ落ちて、壁の隙間で寝ちゃってましたから」
「アナタの寝相は考えものね、あとイビキも」
「えっ、イビキなんかかいてました!?」
「たまにね。でも魔獣の声みたいで、部屋の外でも聞こえてたわよ」
そんな会話も、憔悴しきったアルフレッドの耳に届かない。そして視線を辺りに漂わせると、待望の人物が降りてくるのを見つけた。
「エレナ。お前は悪霊やアンデッドとの戦いに長けてるんだよな?」
「あぁ、そうだ。何かあったのか?」
「うちの仲間に入れてやる。その力を存分に発揮してくれ」
「本当か!? もちろんだとも、私に任せてくれ! 我が剣と忠誠はアルフ王に捧げよう」
「その呼び方はやめろ」
こうしていくつかの偶然が重なった結果、エレナの加入が認められた。ちなみにイビキ問題の方は、アシュリーが作成した鼻栓によって勝手に解決した。
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