第73話 消臭スプレー

夕食を終えたリビングで、ぼんやりテレビを見ていると『東京上野のピンクサロンに警視庁による手入れがあり、経営者や女性店員のみならず、男性客までもが逮捕された』とのニュースが流れた。

「ピンサロで お客まで逮捕がぁ...」

誰に言うともなく呟いたのであるが、妻が怪訝な顔をして聞き返してきた。

「ピンサロって なにする店なんだ?」

「なに!? しゃねの?」

「しゃねべず...誰もおしぇでけねも」

「んだがした」

何をするところだと聞かれても、娘の居る前では説明に困ってしまう。

会話を聞いていた娘がニヤニヤしている。

「おとうさん 行ったごどあるんだべ?」

「いっ 行ったごどなの無いべず!」

どうやら娘の方が良く知っているようである。


そう言えば、30年以上も前になるだろうか『覗き部屋』なるものが流行ったことがあった。

入場料を払い中へ入ると、ベニヤで仕切られた小部屋が並んでおり、ティッシュペーパーとごみ箱が用意されている。そして、奥にはマジックミラーの窓があり、覗くとベッドルームのような部屋が見えるようになっている。

小部屋に入りしばらくすると、ベッドルームにネグリジェ姿の若い女性が入ってきて演技が始まった。

(ほぅ なるほどこう言う趣向なのか)

感心しながら見入っていると、そろそろクライマックスに近づいてきた。

とその時、隣接する小部屋から異様な音が聞こえてきたのである。

「シュッ シュッ シュッ」

「シュッ シュッ シュッ」

(何の音だ?)

(アハハハ)

一斉にティッシュペーパーを引き出す音である。

男とは単純な生き物である。


小部屋を出ると、無表情を装った男どもが足早に出口に向かっている。

そして、その後を追うように掃除のオバサンが消臭スプレーを振りまいている姿が印象的であった。

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