第74話 やばつい

山形に冬の季節がやってきた。

山の頂が白く見えたと思っていたら、翌日には一面の銀世界。あわててスタッドレスタイヤに履き替え出かけるが、渋滞に巻き込まれる。

「混んでで んごがねな...」

「こだえ 混むんだら もっとはやぐ 出るんだっけね」

「ほだごどゆたて タイヤ替えんのに 手間かがたんだがら しょないべした」

妻との会話は純粋な山形弁である。


信号待ちの交差点では雪が融け、シャーベット状態。

外気を入れようと窓を少し開けたとたん、対向車の跳ね上げたシャーベットが飛び込んできた。

「うわー やばつい!」

窓の隙間から、しぶきとなって入ってきた水滴が顔にかかり、思わずこの言葉が出てしまった。


「やばつい」とは「冷たい」の意味だが、全く同じ意味ではない。

もう少し柔らかい気持ちが込められており、感情を抑えた言葉である。

ずぶ濡れになった場合には使わない表現であり、霧状の水滴が顔など肌の一部を濡らしたときのみ、この言葉を使うようだ。

このように、山形弁には微妙な状態を表す言葉が多く、この地に住む人々の繊細な感覚が言葉を育てているのである。

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