第56話 ホー!

初めてハノイへ行った。

ホーチミン市より1,800Kmほど北へ位置するため、今の季節は幾分過ごしやすい。

ハノイには四季があると現地の人は言うが、亜熱帯気候に属しており沖縄より南に位置しているのだから、四季などと呼べるほどの変化はないと思う。

ハノイは、気候だけでなく住んでいる人の性格も、南に比べ違いが大きいようである。

その違いを一言で言えば、「北部の人は堅実な生活を求め、南部の人は楽しさを求める」であろう。

貯蓄率も北部は高く、南部は「宵越しの金は持たない」気質のようだ。


少し早めに仕事が終わったので、トイさんからハノイ市内を案内してもらった。

着いたところはホーチミン記念館である。

ベトナム建国の父、故ホーチミン氏に関する文献や遺品などが展示されている。

40,000ドンを払い入場すると、トイさんが流暢な日本語でホーチミンの生い立ちを説明してくれた。

ホーチミンは、若い頃フランスに留学し、巨匠ピカソと親交があったようである。

本人も絵が上手く、直筆の挿し絵なども残っている。

ピカソからは「政治家にならなければ有名な画家になっていただろう」などと言われていたらしい。

ベトナム独立のために一生を捧げ、生涯独身を貫いた偉大な政治家ホーチミンに、ベトナム国民は誇りと敬愛を込め「ホーおじさん」と呼んでいるのである。


「トコロデ~ ベトナム共産党ノ書記長ハ ホーオジサンノ 子供ダト 噂ガアリマス」

「え~っ? んだてホーチミンは 独身だったんだべ?」

「デスガ ホーオジサンモ 男デスカラ タブン 間違イモアッタ デスネ」

「ハハハ でもそれ ほんてなんだがや?」

「新聞記者ガ 書記長ニ 訊キマシタ」

「書記長は なんて答えたのや?」

「『ホーおじさんはベトナム国民みんなの父親です』ト コタエマシタ」

「ホー!」

洒落た返事をしたベトナム共産党書記長も、きっと偉大な政治家と呼ばれることだろう。

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