第14話 あぁ...

コートやジャンパーなど冬物をクリーニングに出すため、妻を車に乗せ近くの店まで出かけた。

駐車場など無い小さなクリーニング屋なので路上に駐車し、私は運転席で待つことにした。

店内にはアルバイトらしい女性が一人だけ。要領を得ないのかオロオロしながら対応しているのが、外から見ていても分かる。だいぶ時間がかかりそうである。

ラジオをつけシートに寄りかかりボンヤリしていると、学生風のカップルが手をつないで歩いてくるのが見えてきた。

(若い人はいいな....オレにもあんな時があったのかなぁ...)などと考えているうちに、二人は楽しそうに話をしながら近づいてくる。


どこかで見たような....

(なぬ!!! あぁぁぁ!!! うちの娘だ!!! どどどどうしよう...)

慌てて首を引っ込めシートを倒し身を伏せたのだが、しかし、なんで隠れなければならんのだ。

オレは何も悪いことはしていない!オレは父親だ!威厳を持って堂々と....

(あぁぁぁ....ますます近づいてきた....声をかけようか....でも、何と言えばいいんだ....)

頭の中は真っ白になり、パニックに陥っているのが自分でも分かる。

冷や汗が出てきた。

(エーと エーと こう言うときには 落ち着いて落ち着いて....)

こんな時がいつかは訪れるのだろうと思ってはいたのだが、なにもこんな時にこんな所で....

二人の姿は目前に迫っている。


「あれー おとうさん! なにしったの?こだなどごで」

「あああぁ クックックリーニングさ 出しに来たんだ」

窓を開け返事をしたのだが、声がうわずっている。

(一緒にいるオマエは誰なんだ! うちの娘とどういう関係なんだ!?)

「どーも はじめまして」男が頭を下げた。

「おとうさんですか よろしくおねがいします」

「あぁ あぁ」

(なにがよろしくだ! おとうさんだって!? 知らない男から、突然おとうさんなんて呼ばれたくはない!)

(しかし、あれが娘の彼氏なのか? 標準語でしゃべっているのが気にかかるな....)


ロクに返事もせず、オロオロしている私を娘はニヤニヤして見ている。

「いまからバイトだがら んぐはな」

「んだが...」

「じゃーね」と言い残し、娘たちは手を振って遠ざかって行ってしまった。


いったい何なんだ....こんな事で良いのか....あぁ...

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