第15話 挨拶状
仕事で知り合った友人が亡くなった。癌であった。
体の変調に気づいたときには既に手遅れで、病巣を確認するだけの手術の後には、苦しい闘病生活が待ち受けていた。
見舞いに行く度に、やつれていく姿を見るのが辛かった。
でも、癌であることを知りながら、余命短いことを知りながら、最後まで苦痛をこらえ周囲の人々に気遣っていた本人が一番辛かったのであろう。
そして、来るべき自分の告別式へ参列する人々宛てに挨拶状を書いていたなんて....
前略
本日皆様には大変ご多忙な中、私の為に御参列を頂き誠に有り難うございました。心から御礼申し上げます。
ほんの短い期間でしたが、念願の米国での仕事をする時間を与えて頂いた1月以来、妻を呼ぶために一時帰国した際の受診において病気が発覚し、そのまま入院して闘病生活に入りました。
2月の手術、4月の一時退院、5月の再入院までは自宅にて治療、この間、妻よりすべてを告知してもらいました。この告知により、こうして皆様へのご挨拶を書いたり、自分なりの歩んできた道を整理することができた様な気がします。
しかし、こうして皆様の暖かいお力添えを賜りながら戦ってきましたが、病気には勝てませんでした。ただし、人生においては皆様のおかげで楽しい充実したものとなったと思っており、心から感謝申し上げます。本日は本当に有り難うございました。
略儀ながら書面をもって御挨拶させて頂くことをお許しください。
草々
どんな気持ちでこの手紙を書き綴ったのか、それを思うと涙が止まらない。
そして、死してなおも周囲の人達に気遣うことを忘れなかった友人のご冥福をお祈りする。
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