第10話 海の底

自家用車通勤なので、接待でお酒を飲んだ場合は運転代行車を利用することにしている。

世の中このような状況なので、めっきり接待は少なくなったものの、長年利用している代行車の運転手とは顔なじみになってしまった。

「どうだっす 相変わらず駄目だがっす?」

「んだね~ まんず飲み歩く人いねもなぁ」

人の良さそうな年配の運転手は、前を見たまま頷きながら答えた。

「んだがした... ところで この仕事酔っぱらい相手だがら大変だべ?」

「んだのよ 一番こまんのは ベロベロよっぱらて ずぶんの家 わがらねぐなんのいるんだず」

「ハハハハ ほいずは こまたべなぁ」

自分の家が分からなくなるほど客が泥酔していたのでは、運転手もさぞ困ることだろう。


「いやぁ こまたていうど もっとこまたごどあっけのよ」

「ほぉ どだなごどや?」

「こないだよ エフまで運転してけろていわっでよ...」

「なーに? エフてあのエフだが?」

『エフ』とは空港近くにあるラブホテルである。

そんなところに代行で行く客がいるとは思わなかった。

「ガレージに車停めで じぇねもらてるうぢに シャッター降りてすまたんだずは」

「キャハハハ 閉じこめらっだのが!?」

「んだず~ お客はサッサと部屋さ んぐべっす オレはどごがら出だらいいが わがらねべっす....」

「ほして どうしたの?」

「とにかぐ 近くのドアば開けでみだんだ したら なんだが海の底みだいな廊下でよ...どごが出口だが さっぱりわがらねんだ....」


海の底みたいな廊下? 一体どんな廊下なのだろう...少し興味が沸いてきた...一度見学に行かなければと思った。

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