第8話 異臭事件

営業部長と出張に出かけた。

行き先は、松戸市にあるS社である。

一向に上向かない景気のため激減した受注量を、管理職全員が営業マンになって取り戻そうと言うわけである。

しかし、「受注量を増やそう!」などと掛け声は簡単だが、世の中全ての人が節約ムードに浸っている状況では、消費が増え需要が増加し受注が増えてくるまで相当時間が掛かりそうである。

あまり期待をせずにS社の担当者に面会をしたのだが、案の定、需要が伸びない理由を並べるだけの話に、さすがの営業部長も渋い顔である。


暗い話ばかりで気が滅入ってくるようなので、景気づけに一杯飲むことになった。

「営業部長 どさんぐや?」

「市川駅前さ オレ知ってるみしぇあるんだ ほごさいってみっべ」

営業部長の案内で、我々は駅前のスナック「花」に入った。

店内は薄暗く、なにやら怪しい雰囲気である。

「あら~ ヤッちゃ~ん! しばらくね~」

(ヤッちゃん!?アブナイ名前だな...あぁそうか営業部長はヤスオだった..)

「おぉ しばらぐだっけなっす 今日はおぎゃぐさん ちぇできたがらよ」

時間が早いせいか、客は我々だけである。

ホステス達に囲まれるようにボックス席に座った。


暫く笑談していると、異臭が漂っていることに気が付いた。

「なにが 臭ぐないがや?」ヤッちゃんに訊いた。

「あぁ... んだな... オレだべが...」

ヤッちゃんは、テーブルの下に潜り込んでゴソゴソしている。

呆気にとられ見ていると、靴下を脱ぎ始めた。

そして、おもむろに脱いだ靴下を目の前にかざしたのである。

「うっ! ムムム...」

店内に納豆の香りが充満した。


受注減の原因は景気低迷だけではないと思い始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る