Blue Moon.ー3

ゴールデンウイークは稼ぎ時だ。皆が休む日は当然人手不足。警備員の現場は選び放題だった。普段は交通誘導と言う、割とハードな現場が多いが、ゴールデンウイークは「現場仕事」も休みになるから、仕事としては施設警備や駐車場警備ぐらいのモノ。当然、楽をして稼げる。それに、メインとなる予定の「工場勤務」も休みになるから、自ずと警備の仕事に精を出すことになる。

 渚はゴールデンウイークを休みで過ごすが、僕は仕事を入れている。落胆している渚には理解を求めた。もうすぐ病院への借金も返済の目途が付く。今年のゴールデンウイークは我慢して欲しい。


「洋ちゃんがそう言うなら・・・ライブに行ったりネトゲして過ごす・・・」

ゴールデンウイークを短めに休んで「代休を貰う」とも言っていた。病院は365日無休なので、仕事はあるらしい。ゴールデンウイークが明けてから、連休を取ると言う。僕は明けてもまだ仕事が詰まっているが・・・

 警備員のバイトの方はノルマを消化しても、工場の方はゴールデンウイーク休みに加えて、日曜休みもあるので、月に10日間の出勤ノルマを消化するのは厳しいだろう。


 風薫る5月。僕と渚は月末の連休だけが楽しみだった。また僕の狭いアパートに来ると言う。当然泊りに来るので、それはもうセックスのボーナスタイムだ。狭い6畳間にはダブルベッドが置いてある。当然、我がアパートで寛げるのはベッドの上だけだ。コレをチャンスと言わずして何と呼ぼう?

 工場の勤務明けに渚を迎えに行った。仮眠はたっぷり取れるので問題はない。いつもの時間いつもの場所。このままアパートに連れ帰っても手持ち無沙汰だろう。デートコースを考えて、映画を観ることにした。「ノウイング」と言う映画がかかっていた。この映画館は、中学生時代、今の社長と二人で映画を観に来た「思い出の映画館」だ。その後、数回来ただけで僕はこの映画館をちょっと離れた映画館街に居場所を求めた。ロードショーの豊富さでは県の中心地に勝てないからだ。そして、中学生男子が二人で観に来た映画が「丹波哲郎の大霊界」だったことは、墓場に持っていくほどのトップシークレットだ。なぜ、社長は「大霊界」を観たいと思ったのか、今度訊いてみよう。


 映画を観る前に食事。映画館を出たらかなりいい時間になった。そろそろ帰ろうかと言う頃合いだ。渚がせがむので、夕食は僕が作ることになった。カレーでいいかと尋ねれば「嫌だ」と言う。当然だがラーメンは論外だろう。僕は少ないレパートリーから、割と短時間で作れる料理を選ぶことにした。レシピ本を見ながらでは「男が廃る」と言うモノだ。白飯は買って行くとして、おかずになりそうなモノ・・・スーパーの魚売り場で見繕って煮魚とサラダと味噌汁で妥協した。我が家最寄りのバス停はスーパーの目の前なので好都合だった。「魚、嫌いか?」と僕が尋ねると「大好き」と答えた。僕は生ものが苦手なんで刺身は無理だった。「煮魚でいい?」と訊けば「作れるの?」と疑いの眼差しである。魚くらい煮れるわアホ。先ずはサラダの材料を調達した。トマトとキュウリとレタス。キュウリには僕の思いを乗せたつもりだ。硬いからね。あとは渚の食べたいモノ、主にお菓子とか、翌朝の朝食にするサンドイッチとか。軽く食べるにはサンドイッチがちょうどいい。最後に魚売り場に行った。時期的に鯖は無いようで、その代わり立派なメバルがあった、ちょっと高いけど。僕は鮮魚部の調理師に「3枚におろしてください」とお願いした。自分で下ろせないことも無いし、その方がカッコいいのだが、燃えるゴミの日は今日だった。家で魚のアラを出してしまったら、翌週まで捨てられない。主婦みたいな考えだが、もう「コバエ」が湧く時期である。


 両手にスーパーの袋を提げて渚と歩く。気分は新婚さんである。我が家近辺は住宅地で、「抜け道にもならない」から交通量は非常に少ない。いつもは僕の半歩前か後ろを歩く渚も、スーパーの袋が脚に当たるので距離を保っていた。半歩から1歩離れた場所なのでやっぱり近い。そしてフットワークも軽く、僕の周囲をうろうろしている。本当に可愛い。渚は色々と嬉しそうだが、僕の脳内は「今夜のフライトプラン」を練ることでいっぱいだった。最低でもあと24時間はある、渚を独占出来る。スーパーから我が家まで5分の距離だ。この5分間で、僕は今までにないほど頭を使った。最近は「会えばC会えばC会えばC」ばかりである。A~Dのスラングは通じないだろうか?AはキスでBはペッティングでCはセックス、Dは妊娠だ。何度抱いても渚は極上の女の子さんなので飽きることは無い。いや、未だに「試していないこと」の方が多い。


とは言え、今日も爛れたプレイに興じると言うのも芸がない。勿論僕はゲイじゃない。絶対にセックスはするけれど、その作戦が大事なのだ。今までの僕は「ノルマンディー上陸作戦」ばかりだった、「乗るマンでー」ではない。早い話が、とにかく強行作戦ばかりだった。渚がそれを許すので問題は無い。強引に抱くのは僕の主義ではない。


今日はどうしようかと。


アパートに到着したら取り敢えず押し倒す。今日はかなり暖かいと言うかちょっと暑いくらいだったので、渚の身体からはいい匂いがするだろう。いつものように匂いを嗅いだらシャワータイムになる。時間的にまだ空腹ではなく、そのまま合体してもいいのだが、それではあまりにも能が無い。僕の考えた作戦はこうだ。渚はシャワーを浴びて、僕にも浴びるように命令したあと、すぐに「まぐわいの儀」が始まると、あの大きな胸をときめかせているだろう。Dカップはかなり迫力があった。あと、スケベ娘に育った。ここでフェイントをかますのだ。ベッドで膝枕をしてあげよう。甘えてもらおう。コレでキュン死しない女の子さんはいないはずだ。何せ、性欲を持て余しているはずの彼氏が、今日に限って余裕の膝枕である。そして、食事の支度をして、一緒に食べて、またイチャイチャする。セックスには持ち込まない。食後すぐの運動は消化に悪いからだ。なぜ「焦らすのか?」

 休憩時間を挟まずに2回は撃ち込むためだ。そして、ちょっと休憩して3回目。身体に憶えさせるのだ。そうすれば渚も僕も幸せになれるんだ。明日は午前中に「名残の1発」を撃ち込もう。


 アパートのドアを開けると、渚が滑り込んだ。レディーファーストの精神は大事だ。そのまま狭いキッチンを通過してリビングに入る。僕は買ってきた食材(魚は生もの)を放り出して後を追う。ここでウサギさんを逃がしたら、アリスよろしくワンダーランドである。早い話が作戦から外れて迷子である。


渚はいつものようにバッグを座椅子に置いてベッドに腰かけたが、凄く強気であった。

「洋ちゃん?」

「はい」

「今日は匂い嗅いだら殺すから」

「なんでだよ」

「私、今凄く臭い」

「臭い?」

「汗かいちゃった」


問答無用である、姫様のわがままもここまでだ。僕は当然のように押し倒して胸に顔を埋めた。

「だからー、駄目って言ってるでしょっ!」

「駄目じゃない」

「汗臭いってばっ!」

「コレがいいんだ」(スーハースーハー)

「もうっ!変態っ!」

「変態ぐらいがちょうどいいんじゃない?」

「もう、やだ・・・」


ひとしきり匂いを嗅いだ。ぼくのこかんのアンダーソン君がネオに変わったが我慢した。なんでこの娘はこうまで僕を興奮させるのだろう?


「シャワー浴びてきていい?」

「いいよ、掃除はしておいた」

「あの、ウィッグ外すから・・・」

「大丈夫、俺はこの部屋から出ないから」

姫様は安心してシャワーを浴びに行った。そしてタオルで前を隠しながら帰ってきた。


「着替え、忘れた・・・」

「Tシャツでいいか?」

「うん」


 姫様はウィッグの下の頭皮をさっぱりさせて最初着していた。いつものことだ。渚は絶対にセックス前とセックス中はウィッグを外さない。最近は産毛ほどだが生えてきているのだが、やはり気になるらしい。流石は女の子さんである。


「渚?」

「ん?このTシャツ、大きい(笑)」

「下着の替えは?」

「持って来てない・・・」

今日は下着の匂いも嗅いでいいのか?おかわりもいいのか?

僕はプラスチックの衣装ケースからボクサーパンツを出して渡した。


「コレでいいか?」

「いいの?」

「いいよ、俺もシャワーを浴びて来るわ」


 部屋に戻ると、渚は何やら雑誌を読んでいた。僕の部屋にはテレビが無いので暇つぶしに困ったのだろう。あの大きなバッグに入っていた雑誌を出してきたらしい。何でも入ってる四次元バッグだが、着替えは入っていなかったらしい。

 部屋が若干暑いのでエアコンを回した。飲み物を持って来てちゃぶ台に置いた。渚用に氷の入ったグラスも。

僕は壁際に寄せてあるベッドに乗って、壁に背中を付けて膝をぽんぽんした。


「なに?」

「膝枕」

「してくれるの?」

「ああ、遠慮なく頭を乗せてくれ」

僕はジャージを穿いていた。流石に若い女の子さんをパンツいっちょで膝枕は出来ない。

逆なら大歓迎だ。膝枕をしてもらって、隙あらば熱い息を股間に吹き込むのは面白い。

「今日はしないの?」

「そんなわけない」

「えっち」


黙れ村娘。


僕は膝の上に乗った渚の頭をポンポンしたり、左方向に伸びる下着(僕の)姿の肢体を眺めて過ごした。ふと思いついて、顔を触ると気持ちよさそうに目を細める。

耳をまさぐってみた。


「きゅわははっ!」

と妙な笑い声をあげたので、追撃した。

「ちょっとー、女の子は耳が弱点なんだってばぁ」

「知ってる」

「ワル・・・」

「悪くねーわ。渚が特別なだけだ」

あ、デレた。

なんとなくいちゃラブして1時間。

「そろそろ飯、作ろうか?」

「うん」

「料理、見る?」

「雑誌読んでる。出来上がった料理が見たい」

「憶える気は無いと?」

「だって、洋ちゃんが出来ればそれでいいじゃない」


僕は姫様の料理人を任命された。飯の後も、料理されるのは姫様だ。


メバルとかキンキあたりはワタだけ抜いて姿煮にした方が映えるし、食べ応えもあるのだが若干食いにくい。1人1尾となるのでちょっと多い。3枚におろしてもらったので短時間で作れるのは利点だ。味噌汁は豆腐と油揚げ。ネギがあったので刻んで浮かべた。キュウリは渚に使ってからにしたいが、この場で振られる覚悟は無い。

 時間にして30分ほどだろうか?白飯は茶碗に盛って電子レンジで温めた。お盆に乗せてちゃぶ台に運ぶ。寝転んで雑誌を読んでいた渚が起き上がってきた。


「え?もう出来たの?」

「簡単な料理だし」

「うわ、凄い。コレ洋ちゃんが作ったんだよね?」

「実はキッチンに料理番が」

「いないよね、いい加減なことばかり言って」

「煮魚はすぐに出来る。味噌汁だって乱暴に言えばお湯に味噌を溶かすだけじゃんか」

「このドレッシング、教えて?」

「オリーブオイルとお酢を半々、塩胡椒とバジル」

「そんなに簡単なの?」

「好みでお酢を多めにしてるけど、好みで変えればいい」


 また食後はイチャイチャタイム。時計を見ればまだ夜の9時だ。夜は長いので焦る必要はない。渚がどこまで耐えられるかは分からないけれど、僕はノルマンディー上陸作戦を敢行する。波状攻撃をくり返すのだ。わが軍の物資は豊富である、1週間分だが。


フットライトだけにして・・・


あとはもうたっぷりと可愛がってあげた。身体を念入りにほぐして、過剰なほどほぐしてから合体である。その後、渚を上にしたらエグかった。


「暑いとさ・・・」

「なに?」

「私、エッチな気分になるの・・・」

「ソレ、好きだ」

しかし、村娘が元気だったのは2回目に入る頃までだった。



「洋ちゃんは鬼だ・・・」

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