4月はPink Moon.
3月、僕と渚は会うことが出来なかった。でも、4月に入ったらすぐにデートする約束をした。最低でも2回はデートする予定だ。長距離恋愛ではないが、住んでる街が1時間半も離れていると、毎週会うのは難しい。付き合い始めて間もない頃なら「情熱」と言うヤツで、距離なんぞは障害にもならないが、既にお互いに「ずっと一緒にいる」と思い始めていれば、デートの頻度は下がりがちだ。メールでの連絡がメインで、たまに直電。渚は仕事の休憩中に電話してくることもあった。
4月は待望の春の入り口。僕の住む街にも春が来る。桜前線が通過するのは4月の上旬と言うことが多い。今年は早いと言う話なので、4月の最初のデートは桜を観に行こうと言うことになった。待ち合わせてすぐにホテル直行はいつものことで、「夜桜見物」になるだろうことは、駅の改札で待ち合わせた時から分かっていた。
「なぁ渚」
「なーに?」
「スカート、穿かないの?」
渚はいつだってジーンズ姿だった。例えば脚が太いとか、肌が荒れてるとかのコンプレックスがあるようには見えない。本当に生足まで美しいのが渚なのだ。寒い冬はジーンズ姿の方が防寒に有利かも知れないが、夏の危険な暑さの中でも頑なにジーンズを穿く。僕は男なのでジーンズには慣れている。それでも夏は生地の薄い「カーゴパンツ」を穿くことが多いが・・・
「スカートぉ?仕事中は穿くけど?」
「普段、穿かないよね」
「そーねー、マトモなスカートは持ってないかも」
僕はその「マトモではないスカート」にも興味津々だったが、スカート姿の渚を見たいと心から思った。ミニスカートではない。ロングスカートあたりを穿いた渚は「さもお嬢様のように」見えて更に美しいのではないか?
「プレゼントしたら穿いてくれる?」
僕は素直にお願いしてみた。渚だって別に「宗教上の理由」でスカートを禁じられているわけではないだろう。
「ふーん、いいけど」
「じゃ、買いに行こう」
「ちょっと、ちょっと待って。今すぐ?」
「うん。ホテルで着替えればいいじゃん」
「あー、洋ちゃんはまたホテルで私を襲う気だー」
「襲ったことなんかないじゃん。いいよ、じゃ今日は渚が上な?」
「アレは凄く恥ずかしいんですけど・・・」
僕は知っている。渚は上になると、「奥の方の気持ちいいところ」に、自分で押し当ててコリコリしていることを。その「コリコリタイム中」に下からコンコンと突き上げるとかなり本気で睨んでくるので、相当に気持ちいいんだろう。
「スカート、見たいんだ」
「短いヤツ?」
「逆、逆。ロングスカートの方が綺麗に見える」
「長いスカートなら・・・いいかぁ」
「部屋に行く前にデパートだな」
「ねぇ?」
「はい」
「洋ちゃんはいつからそんなにスケベになったの?」
「今年の夏は・・・」
「えっ?」
「暑くなるそうだが、健全に山登りしようか」
「嫌です、お部屋でエアコンがいいです」
「だろ?」
そろそろ暖かくなってきている。渚はダッフルコートではなく、また派手なスカジャンを羽織っている。しかも初めて見るヤツだ。若干厚手のそのジャンパーは、今の季節にはちょうどいいのだろう。
渚を連れて、この街では一番大きなデパートに入った。ここなら様々なテナントが入っているので、僕の考えているスカートもありそうだ。僕は「白いロングスカート」を渚に穿いてもらいたかった。確実に「天使」よりも美しいだろう。店内を歩きながらそんな話(白いスカート)をしていた。しかし渚は抵抗を試みる。デニム地のスカートや、黒系のデザインのスカートを買いたがるのだ。スポンサーは僕なので、僕の好みのスカートを買う。絶対にだ。
テナントを数軒はしごして、イメージとはやや違うが、しっかりした生地の白いロングスカートを発見した。出来れば薄い生地が風に揺れるなんて言うのを夢想したのだが。そしてやはりプロの女の子さんだった。アレを何と呼べばいいのか分からないが、スパッツのような物もせがまれた。スパッツと言えば「黒」と言うイメージしかないのだが、その「なんじゃもんじゃ」はカラフルな品ぞろえで、渚は肌色の品を選んだ。女の子さんの洋服も意外と安いのだなと思った。いや、僕が買う服と言えば「軍の放出品」が多いので割高なだけだが。
「コレを穿くのぉ?私が?」
「そう言うこと。今日はソレで頼む」
「・・・もう・・・今度は自分で選んで買うから・・・」
渚はぶつくさと呟いていたが、僕は当然無視した。いや?「自分で選んで買う」と言う言葉があったので、今年の夏はさぞや眼福だろうと思った。
「ドトールに行こう」
渚が誘ってきた。今日はベックスに入っていないので、喉が渇いたのだろう。
「あっち」
僕はドトールのある通りを指してから歩き出した。スタバの方が近いのに・・・
多分、日本全国共通だと思うドトールのシステムは、店に入ったところにあるレジカウンターで飲み物を注文して受け取ることから始まる。僕はまたアイスコーヒーが恋しい季節になってきたので、アイスコーヒーを注文しながら、カウンター横にあるガムシロップ2つとコーヒーフレッシュを1つ、つかみ取っていた。
「紅茶とジャーマンドッグ2つお願いします」
渚はドトール名物のホットドッグを2つも注文した。
「洋ちゃんも食べな?」
1つは僕の分らしい。このタイミングで「軽食」とは、そう言うつもりなんだろう。席についた渚はガッツリとジャーマンドッグに齧りついた。このあと、僕のジャーマンドッグにもかぶりつくのに・・・
そんな渚が愛おしかったので、ずっと観察していた。
「どしたの?」
「渚は可愛いなーって」
「・・・早く食え」
姫様の命令である。僕は自慢の早食いであっという間に半分食べて見せた。
「消化に悪いよぉ?」
「気を付けるわ」
「あっ、ねぇ?」
「なに」
「お昼ご飯はどうする?」
今食べているのは「運動」前の腹ごしらえですね分かります。
「どうするって、弁当でも買って行く?」
「そうねー、どこかある?」
「途中に弁当屋さんがあるよ」
「オッケー」
ドトールで30分ほど時間を潰した。食後すぐの「運動」も消化に悪いらしい。確かに食後すぐだと「運動したい」と言う欲求が薄れる気がする。僕たちはドトールを出たあと、弁当屋に立ち寄ったが、買った弁当は「大盛りのハンバーグ弁当」を1個だけだ。姫様がそう言うんだから従うしかない。
「半分こ。夜はお花見でしょ?」
「あー、花見の時に何か買って行かないとな」
「屋台とか無いの?」
「穴場があるんだ。多分夜になると誰もいないって場所」
いつもの部屋は空いていた。平日の昼間だから当たり前だろう。しかし、一番安い部屋は必ず埋まっているのが不思議である。部屋に入るといつもの儀式があって、匂いを嗅いで。シャワーを浴びて運動することになる。もう流れるようにベッドで運動会だ。今日は暗くなる頃にはホテルを出て桜を観に行くので、迅速な動きも求められる。2回がデフォなので、滞在時間3時間では若干厳しい。僕は平気だが、渚がぐったりするのでインターバルが必要になるのだ。ぐったりした状態で責められるのも好きみたいだが、いつからこの娘っ子はこんなにエロくなったのだろう?
2回目の途中、僕が耳元で「四つん這いになって?」と囁くと、枕を抱えて腰を高く上げる。身長150㎝も無い女の子さんがこの姿勢になると、凄く犯罪臭がする。
後ろから責めるとあっさりと逝くのが渚だ。当然、動きを緩めはするが止めない僕に抗議してくる。
「逝ったから、逝ったから待って・・・」
黙れサキュバス。
事後の弛緩した時間を過ごし、弁当を温め直して二人で食べた。驚くことにまだ1時間以上の余裕があった。そもそも「3時間縛り」は無いのだが、花見に2時間と考えれば3時間が限界だろうと考えていた。食後のお茶を飲んでまったりしていた。渚は食べ足りないのだろうか、弁当を食べた30分後には、ぼくのこかんのじゃーまんどっぐにかぶりついていた。コレが普通の男で、渚が普通の女の子さんだったら「いやもう・・・疲れたからさ?」と、男が逃げるだろうが、美しい姫様と僕である。まだまだイケる。時間さえ許せば4回ぐらいは余裕なのだ。
「洋ちゃんは鬼だ・・・」
1時間後、渚は仰向けになって、右腕で両目を隠しながら呟いた。
この状態で外を連れ歩くのも非道い話なので、休憩タイムを延長した。どうにか回復した渚は、あの肌色の「なんじゃもんじゃ」を穿いて、スカートに脚を通した。この時点で眼福である。
「なにじっと見てるの?」
姫様はご機嫌斜めである。スカートを穿くのがそんなに嫌なのだろうか?
「綺麗だなーって」
「もー、馬鹿っ!」
一気に身軽になった。買ってきた弁当は食い終わり、スカート等は渚が身に着けた。会った時に穿いていたジーンズは渚のバッグに収まった。本当にあの大きなバッグには何が入っているのだろうか?
「うー、スースーする・・・」
「普段は全くスカートを穿かないの?」
「穿かない。動きにくい」
「たまにはスカート姿を見せてくれよ」
「遠いの?」
「何が?」
「お花見する場所」
「駅前からタクシーに乗って10分もかからん」
「タクシー?」
「歩くと若干遠い。バス通りからも遠いんだ」
「だから穴場なの?」
渚が「穴」とか言うと妙にエロい。
「前に渚を連れて行った河川敷があるだろ?」
「うん」
「あの川沿いは、土手に桜を植えているんだ」
「そだっけ?」
「俺が生れた実家の傍の公園も桜並木が綺麗なんだ」
「洋ちゃんの実家?」
「もうとっくに更地になって、近所の自動車工場の駐車場になってる」
「でも洋ちゃんが生れたとこでしょ」
「5歳・・・までかな、その町で過ごしたのは」
「行きたい」
「あ、レジャーシートを忘れた」
「要るの?」
「あの公園は芝生があって、好きに入って座れるんだ」
「ベンチは?」
「生憎、さくらに背を向けることになる」
「じゃ、コンビニで買おう」
「コンビニで売ってるのか、アレ」
「売ってるよー、小さいやつだけど」
駅に向かう途中にあるコンビニで買えた。ついでにお菓子も買った。さっき食べたハンバーグ弁当が結構なボリュームだったので、菓子だけで十分だった。飲み物は公園の出口に自販機があるはずだ。桜が咲いたとは言え、夜間はまだ冷える。温かいお茶を買いたい。
公園は貸し切り状態だった。前回来た時は無かった「たこ焼きの屋台」が出ていたが、可哀想になるぐらい暇そうだった。僕たちは芝生にレジャーシートを敷いて、お茶を飲みながら桜を見上げていた。
怖いくらいに美しい光景だった。公園から見上げる土手の夜桜は、ほぼ真横から水銀灯に照らされて、白く映え、周囲に向かって徐々に桜色に染まっていた。ソレを見上げる渚の横顔が最高にドラマチックだった。桜なんざ見飽きている。僕は渚の横顔だけを見ていた。
「あ・・・」
渚が急に声を漏らして空を見上げた。
「洋ちゃん、ごめん。バッグにティッシュが入ってるから出して」
「どうした?」
「ちょっと鼻血が・・・」
僕は慌てて渚のバッグを引き寄せて、小さな布製のティッシュケースを見つけた。
真っ白なスカートに真っ赤な花びらが2枚・・・
「上、向いてな」
僕は身体をずらして渚に膝枕をした。
「痛いとかあるか?」
「無い・・・」
「鼻血はよくあることなのか?」
「たまに・・・でも何でもないよ」
そのまま15分は膝枕をしていた。渚は何故か瞼を閉じて動かなかった。まるで眠り姫のように・・・
「あー、もうっ!せっかく洋ちゃんが買ってくれたのに・・・」
鼻血から立ち直った渚は、怒ったような泣いてるような声で呟いた。
「せっかく・・・」
「いいから。クリーニングに出せば落ちるから。また買うし心配すんなよ」
「でも・・・」
渚は血の跡を安全ピンで上手く生地を留めて隠して、いつまでもメソメソしていた。
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