第3話 運命の舵輪は廻る
桜蘭の心配そうな目を余所に、戦闘への最適化を行う。
「演算制限解除、緊急冷却用意終了」
「敵ミサイル群、イエローゾーン侵入」
その声と同時に、視界が一瞬閉じる。
五感のほぼの情報を一旦シカトして、その後にすべての処理機能を戦闘へと振り向ける。流石に自律神経系まで持っていくわけには行かないが、それ以外の、取り敢えず生命維持には必要のない情報をすべてシカトし、その分の情報量を戦闘へと回す。
三次元ホログラムの展開終了という音声。
それと同時に、視界が浮遊する。
自艦の表示から視点を移し、上空視点へ。戦闘指揮を行うにはもっとも都合の良い地点だった。
─SADM発射、直接誘導に切り替え。艦長が誘導
無言でそれを伝える。
脳外端子から命令が飛び、そしてそのまま実行に移される。
イエローゾーンに侵入したミサイル群と第一波のSADMが順次交錯。光学カメラ及びレーダーの情報から、消したと思われるミサイルがホログラム上から消失。
艦外の光芒を見つつ、次のミサイルを誘導。それと同時に、中距離迎撃火器の発射準備を完了。
敵ミサイル群、イエローゾーンを突破。
命中まで残り20秒。
駆逐艦の放ったSADMの第二波が先に交錯。一瞬遅れて誘導していたミサイルも交錯。
─第四、第六高角砲発射準備。敵ミサイル群の目標策定終了、敵ミサイル群の軌道予想送る
艦内中枢コンピューターと無線によって繋がれている愁の脳は、一瞬で弾丸の交錯位置まで計算を終え、それに適した旋回角度及び仰角の計算とタイミングの演算を終了。
それを第四、第六高角砲へと送る。
─高角砲発射
敵ミサイル群の760m/sの速度で「桜蘭」に到達するまで、残り10秒。
敵ミサイル群へ高角砲弾が突入、近接信管(VT信管)の効果によって、敵ミサイル群に大量の鉄片をばら蒔く。目の前で炸裂した高角砲弾によって、目標の敵ミサイルは完全に消失。
この調子で行けば、思った矢先に敵ミサイル群の先鋒が味方駆逐艦を貫く。
戦闘力の喪失は明らかだった。
─SADM発射、近接防御火器(CIWS)は各演算に従い順次発射
これ以上の第一波の敵ミサイル群への干渉は不要と見た愁は、第二波に備えて演算を開始。
その頃、「桜蘭」の近接防御火器は、フルオート射撃を行っていた。
イエローゾーンを突破してきた敵ミサイルのうち、愁はその過半を撃破したが、レッドゾーン(5秒圏内)には11発のミサイルが侵入してきていた。
まず、二番銃座から70発毎秒もの弾丸の嵐が飛ぶ。
それと前後して、三番と五番からも飛ぶ。弾丸の嵐は11発の敵ミサイルのうち4発を撃墜する。
敵ミサイル群はさらに突入、命中3秒前に迫る。
右舷側全銃座が弾丸の嵐を吹き荒らさせ、敵ミサイル群を狙う。
敵ミサイル群のうち、さらに4発を撃墜。しかし敵ミサイル群が命中1秒前に。
先頭の敵ミサイルに、二番、四番銃座が高速旋回。そのままの勢いを保ったまま仰角を最速で上昇させ、敵ミサイルへと叩きつける。
先頭の敵ミサイルは、真正面から銃弾を叩きつけられ爆発。
その時に、二番目のミサイルは五番銃座の速射によって横面から銃弾を受け、軌道をそらされ虚しく海面へと落下。
最後のミサイルが甲板直前まで侵入。
命中まで残り0.1秒。
七番銃座の銃弾がミサイルへと突入。
命中コースを共に行く両者は、ほんの僅かに銃弾が勝利。
髪の差でミサイルが爆発。
全弾阻止に成功。
この時に既に第二波ミサイル群はイエローゾーンを突破し命中まで残り20秒に迫る。
─高角砲発射
高角砲弾が炸裂。
第二波ミサイル群の中央で爆発した高角砲弾は、何発ものミサイルを巻き添えにする。
第二波ミサイル群、レッドゾーンに侵入したのは6本。
指向を終えたCIWSが対応。今回は難なく切り抜ける。
しかし、艦隊内での損害は重なり、駆逐艦二隻が戦闘続行不能に追い込まれる。
第三波のミサイルもまたイエローゾーンへと侵入。
これも愁の誘導するSADMが迎撃するが、今回のミサイルに愁は違和感を感じる。
…しまった!
─各戦闘機直ちに離脱行動!
ミサイル群が上昇を開始。
上空に待ち構える防空隊へと向かっていく。
[緊急! 敵航空機群確認!]
桜蘭が緊急で情報を流し込む。
完全に先手先手を取られていた。
第三分隊は受け身、つまり受動的行動のみしかできておらず、未だに戦略的行動を敵に許していた。
先制攻撃によって先手を許したのが痛すぎる。
…あの時に先手さえ取れていれば、味方に比べて圧倒的に少数の敵艦隊など覆滅してくれるというのに!…
その思いをしまい込んで、戦闘機と高角砲、SADMの誘導などをすべて行う。
敵の目的は第三分隊の無力化。
そのための手段は、何もミサイル飽和攻撃だけではない。
ミサイル飽和攻撃を仕掛けながら上空から空爆を仕掛けることも、なんなら対応に追われているはずの我々を駆逐艦などで雷撃しても、そのすべての掛け合わせでも構わない。
そして、一つならばかろうじてとはいえども個艦単位で防げるほどの練度がある第三分隊でも、二つ、三つと重なれば無理がある。
…失敗した失敗した失敗した!
個艦単位での迎撃の方が、ミサイル飽和攻撃に対しては効率的なのは確か。ましてや先制攻撃を受けたのならば、もはや先手先手をとることを前提としている艦隊内迎撃システムを用いても意味がない。
しかし、二重奏となれば、艦隊で有機的に行動しなければ、いくらなんでも被害が山積する。
─各艦の防御システムを全て旗艦へ。全演算中核を旗艦に組み込む
[警告 処理過重、これ以上の酷使は危険]
─脳外端子の急速冷却により解消可能
[演算能力不足 補助演算機構の計算能力準飽和状態]
─各艦の全コンピューターを接続
[ 了解]
僅かに空いた空白が、桜蘭の逡巡を示す。
しかし、もはやどうこう言っている場合ではないのは事実だ。桜蘭もそれを認めたのか、命令したことを行ってくれる。
こうして、第三分隊が苦境にある頃、他の先鋒艦隊も苦境に陥りつつあった。
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