第3話 運命の舵輪は廻る
ミサイル群の飛翔を確認すると同時に、全迎撃火器を解除。本来ならばミサイル群発射よりも早く解除しなければならないのだが、完全に先手を取られてしまい、迎撃可能時間がかなり押していた。
もはや一刻の猶予もならない。
「各艦に通達、艦対空迎撃ミサイル(SADM)を発射、艦隊迎撃システムを信用せず、各艦単位でミサイルを迎撃せよ」
敵艦隊から放たれるミサイルが、レーダー上に表示される。
その数は300発を優に超えている。この数を発射できるとなると…。
「重ミサイル巡洋艦がいるか…」
メビウスの艦隊には、人類側とは違いかなりのタイプが確認されている。
例えば、重砲撃戦艦型は406mm級の砲塔を連装四基搭載し、人類側の最大口径である「蘭」級戦艦並の砲撃能力を有するが、重ミサイル戦艦型は305mm級の砲塔を連装三基しか積んでおらず、その代わりに艦対艦ミサイルを60発一斉発射できる。この重ミサイル戦艦型は大西洋にしか確認されていないから、今回はその可能性は排除しても構わない。
その代わり、太平洋地域には重ミサイル巡洋艦型が多数確認されている。しかも、タイプⅠからⅢまでのバリエーションが存在する。
タイプⅠは、254mm級と思われる中口径砲を連装五基搭載し、ミサイルを12発動時に発射可能だが、その代わり対空火力がやや貧弱で、文字通り近距離と中距離での「殴り合い」を得意とする。この254mm級の砲塔は速射可能で、8秒に一発の恐るべきペースで砲弾を撃ち込んでくる。
タイプⅡは、254mm級の中口径砲を連装三基、前甲板集中配置形式を取っている。いわゆる利根型重巡洋艦と似た砲配置をしており、指向方向が前方なのが二基、その後ろに後方指向が一基存在する形となっている。
その後に前艦橋、煙突、後艦橋が続き、後甲板はすべてがミサイルとなっている。そのミサイル発射能力は、同時に30発であり、中距離でのミサイル戦に特化したタイプである。
タイプⅢは、155mm級の中口径砲を単装二基、前甲板に配置しており、前艦橋が前甲板にかなり張り出している。そして、煙突が存在せず、広大な中甲板には対空迎撃火器とミサイルが所狭しと並び、後甲板は水上偵察機が発着艦できるようになっている。
タイプⅢに関して言えば、重ミサイル巡洋艦というよりは偵察巡洋艦というのがふさわしく、一隻で偵察と対空迎撃が可能という、後方からの索敵に適している。
そして、今回いると思われるのは、このタイプⅡ。
「タイプⅡ型が八隻、あとは駆逐艦が二四隻といったところか…?」
「聞くと大した量じゃないが…」
春崎「鈴蘭」艦長がそう所見を述べる。
しかし、全くそのとおりだと愁も言わざるを得ない。
数だけで言えば、第三分隊は現在交戦中の敵艦隊と比べても遥かに優勢だ。
その第三分隊は、奇襲攻撃によってミサイルを300発一斉発射を受けかけている。しかも、第一波だけではない。
「敵艦隊より第二波のミサイル確認、続けて第三派発射感知」
「…、早すぎる」
精々20秒程度の間隔で、次々にミサイルが放たれている。
これは、つまり…。
「敵艦隊は、このミサイル攻撃で一気にケリをつける気か…」
女川艦長が嘆息する。
「敵艦隊は、こちらのミサイルの発射速度よりも遥かに速いペースで撃ってきている…。これは、明らかに奇襲攻撃を前提とした、発射管内のミサイル装填か…」
発射管の中にミサイルを二本、三本と入れる方法は、基本的には推奨されない。一本目を放ったときに、二本目への熱伝播が半端ではないからだ。二本目への熱伝播は、そのまま二本目を変性させ、最悪の場合は使用不能にする。
しかし、上中下三段形式のミサイル発射管を持っているのならば話は別だ。
上中下三段のミサイル発射管ならば、上下方向への熱伝播を隔壁によって防ぐことができる。何も、同じ発射管の中に入れなくても良いのだ。
しかし、それでも基本的には推奨されない。
上中下三段のミサイル発射管は、上段発射後に、上段の発射ポッドの下部に存在する隔壁を一旦外して、ミサイルを上昇させる。無駄な作業に思えるが─何も上段ポッドから発射しなくても、中段から発射すればいいではないか─、こうしないと下段ポッドのミサイル発射後の装填に時間がかかるので、ある意味妥当だ。
問題は、その上昇作業中にミサイル攻撃を受けた場合、中段ポッドや下段ポッドの隔壁が全て使い物にならなくなる可能性があるということ。しかも、もしもミサイルが残留していた場合、そこから誘爆する可能性すらある。
この可能性は、三段式発射管を断念させる原因にもなった。
しかし、これほどの連続発射ができるのもまた魅力だ。
「敵ミサイル群、グリーンゾーン突破、イエローゾーンまで残り15秒」
「SADM続けて発射、デゴイも撃ち出して!」
敵ミサイル群を迎撃するためには、手段を選んでいる暇はない。
デゴイミサイルは貴重だが、生き残らなければ意味がないので、ここでありったけを放しておく。
「敵ミサイル第四群、第五群感知」
「連中、どんだけミサイルを撃てば気がすむんだ…」
至極真っ当な意見。
全くもって、どれほど撃てば気が済むのか…。
「桜蘭、全艦内コンピューターを脳外端子に接続、過重処理プロテクトの使用を許可。同時に、全処理能力を最適化、脳外端子の急速冷却機構の使用を許可」
「そ、それは…」
桜蘭が、やめろと暗に言う。
やれ、と一言。
「…、了解」
桜蘭は、致し方なしと了解。
脳外端子に全艦内のコンピューター及び観測機器の情報を接続した。
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