結末
第146話 神具
隠れた場所から、魔力糸を手繰り寄せていくと真っ暗な闇の中から武器の姿だけがはっきりと見える。強者の武器は繋いだまま、ゆっくりと上昇していく。
思っていたほど高くはなく、すぐに横へと続く通路が見えていた。
「こんなギミックは見たことがないな」
辺りの壁は青白い光を放っているのか、本来であれば闇に閉ざされているはずの奥からは、光によって遮られている。
歩みを進めると、ミーアは服の裾を握っていた。
この不思議な光景を前に、緊張をしているんだろうな。
俺はその手を掴もうとするが、初めて手を無くしたことを後悔していた。ここで手を繋げれば、多少なりとも不安を取り除けたのかも知れないと……。
ミーアも色々と聞きたいのだろうけど、今はそんな状況でないのを理解しているんだろうな。
強者の武器を魔力糸で持っているので、かなり動きづらい。
一応は進んでいるものの、続く道はまだまだ先だ。
「一体何処まで続くのでしょうか?」
「まだこのまま直進が続いている。今で半分といった所か?」
索敵を展開しているが、ボスのフロアに続くような直線が続いていた。
奥の方は少し開いているようだけど、魔物の反応はまったくない。
ラカトリアに行けってことはあの光からしてもある程度は理解していたが……それにしても、強者の武器が集まったことで、転移されることになるとは思わなかった。
ミーアが躓いたことで、俺は慌てて手を出すがミーアを掴むことの出来ない。
「申し訳ございません」
「少し休憩にしよう。悪かった、回復魔法を使っていたことを忘れていた」
ここに来る前はベリアルとの戦いで、かなり疲弊していた。
ドゥームブレイドを使いはしたものの、俺の魔力はまだかなり残っている。
しかし、レフリアの治療のために必死に成っていたミーアは感じられる魔力量からしても、かなり少なくなっているようだった。
「少し、眠ってもいいんだぞ。俺が隣りにいるから」
武器を下ろして、ミーアを抱き寄せる。
さっきのこともあってミーアの顔というよりも、唇に引き寄せられてしまう。
ゴクリと喉を鳴らしてしまい。
「い、今はもうダメです」
俺の考えていた下心に対しミーアは、胸に顔を埋めていた。
あわよくばと考えなくもないが……俺と同じようにさっきの事を思い出していたのだろう。
ミーアは俺を枕にして小さな寝息を立てていた。
一時間ぐらいは経ったのだろうか、俺が少しだけ体を動かしたことでミーアが目を覚ます。
二人で体をほぐして、少しだけ食事を済ませて先へ進んでいく。
ようやく奥の開けた所に辿り着くと、魔力糸が断ち切られ強者の武器が祭壇に惹きつけられるかのように突き刺さっていく。
「あれが……『神具』なのか?」
空中に浮かぶ水晶の中に、剣が封印されているかのようだった。
全ての武器が突き刺さると、水晶にヒビが入り、欠片は白い煙となって消えていく。
近付く俺をミーアは裾を引っ張って止めようとしていた。
「大丈夫だ。心配するな」
そう言うと手を離してくれたものの、表情からは全く納得をしていないように見えていた。
強者の武器が反応するぐらいだ。
周囲を警戒しつつ、祭壇の中央にある剣に近づいていく。
この武器を手にすると言うだけでも、何かが起こる可能性はあるだろう。
こんな事はゲームには存在すらしていない。
強者が持っていた武器のデメリットは無くなり、ミーアを守るため、レフリア達の戦力を上げるという点に置いては、かなり重要な物になっている。
なら、この武器はどれだけの性能を秘めているんだ?
「強者が居ない今、この武器は何かしらの重要なアイテムであることに間違いないだろう」
神具の柄を手に取ると、ダンジョンのコアを破壊したときのように光りに包まれていく。
しかし、その光はすぐに収まり、さっきまであった祭壇は消え強者の武器も足元に残っていた。
それにしても、持っているだけだと言うのに、何とも馴染みそうになく、よく分からない気持ち悪さを感じるな。
剣を振るとヒュッと音を立てて空を斬る。
魔力糸を使って手から離し、転がっていたエクスカリバーを手にとって同じように空を斬るが、あの違和感のようなものは感じられない。
「ミーア。帰ろうか」
残りの武器も同様に、魔力糸で浮かせていく。
この状態だと、あの違和感を感じることはない。
「はい、アレス様」
俺たちは飛ばされていた所まで戻り、ダンジョンを歩いていく。
上り階段を見つけ、上へと上がり索敵に映るマップに見覚えがあった。魔物たちの反応があるものの、それを無視して近づいていく。
魔物は、オークやゴブリンと言ったかなり弱い魔物。それらはいつものように蹴散らしていき、気になった場所へと進んでいく。
「ここは……学園のダンジョンなのでしょうか?」
ミーアもここが何処なのか確信したらしい。
俺が目指していた場所には、人為的に置かれた箱が用意されている。
その中には木管が少しだけ残っていた。
「そうらしいな。まだ二年程度でしか無いが、なんだか懐かしいな」
俺たちは外を目指して進む。
あの頃を少しずつ思い出しながら、ミーア達の戦いに学生たちの戦闘力。パメラとの出会いと、あの木管を手に入れた時のレフリア達の喜びよう。
もし、俺が普通の生徒だったのなら、皆と一緒になって、あの時の喜びも一緒になれたのだろうか?
そんな事を考えながら、学園の中にある初級ダンジョンの外に出る。
辺りはすっかりと暗くなっており、ミーアに俺にしがみつくように言ってミーカトのダンジョンに向かう。
ダンジョンの外にはまだ多くの冒険者達が残っているものの、ダンジョンの入口はその姿を消していた。
ハルトとレフリアが冒険者達の中央で、称賛を浴びているかのようだった。
あれだけの瀕死だったにも関わらず、何があってあんなにも回復しているんだ?
「レフリアは無事そうだな。ミーア、頼みがある」
「はい」
さっきまでとは違い暗い表情を浮かべていた。
これで本当に最後なんだな……。
「俺には行くところがある。ミーアは……いや、皆には、少しだけ待っていてくれと伝えてくれないか?」
「いつまでお待ちすればよいのですか?」
いつまで、その問いに対して俺には答えを持ち合わせては居ない。
最終決戦まで後二ヵ月。
「一ヵ月。年末のパーティーは皆で踊ろうか」
「必ずですよ?」
ミーアは無理に笑顔をみせてくれる。
だけど、その閉じた瞳からは涙が流れる。
「ああ、必ずだ」
ミーアだけをゆっくりと降下させる。
その異変に気がついたパメラとメアリは俺を見ているようだった。
地面に足をつけたミーアに、レフリアが抱きしめ強者の武器も皆の元へと返す。
ハルトがレーヴァテインを空に向かってかざす。隣ではレフリアがエクスカリバーをその剣身に重ねる。すると冒険者たちからは喝采が巻き起こっていた。
ハルトの左手には、置いていった魔晶石が掲げられている。
「まったく……そんな物は後からでもいいだろう?」
魔力糸を伸ばし、魔晶石を受け取る。
ハルトの剣に皆が武器を重ねて、上空にいる俺を見ていた。
真っ直ぐに見つめる皆の表情に、神具を掲げて応える。
「ああ、行ってくるよ。お前達は無茶するなよ」
神具も強者の武器と同様に、収納の中に入ることはない。
夜の空へと上昇していき、俺は一人でダンジョンへ向かった。
* * *
「行かれてしまいましたね。ところでミーア様、アレス様と何があったというのですか?」
「えっ!?」
メアリは、あの後何があったのかという問いに対して、ミーアの脳裏にはあの濃厚なキスが浮かんでしまった。
顔を真っ赤にしてしまうことで、パメラは目を大きく開いてミーアに詰め寄る。
結局ミーアとアレスたちに何があったのかは、翌日になるまで真相を語られることはなかった。
あの時交わした、キスのことを伏せていたものの、そういう事があったのはバレバレでしか無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます