第145話 強者の武器
風球を使い、氷の壁を切り裂いた後、かなり大きめの氷の槍を前方に向けて、何十という数を撃ち込んでいく。
さすがに、あの硬い体を貫くことは出来ないか……。
「グゥオオオ」
さっきから見ているが、その程度の炎が効かないってことぐらい分かれよ。
ドラゴンブレスのように口の前に作られた火球が放たれ、辺り一面を燃え盛る炎の渦が飲み込んでいく。
俺は右手をかざし、同様に魔力を収束させていく。
「フレア!」
ベリアルによって作り出された炎は、俺の周囲から前方に発射された炎によってかき消されていった。
フレアの対象は、敵味方の両方を巻き込んだ攻撃。
ゲームであれば、装備品の効果で火属性が吸収出来るようになるものが在る。
それを装備することでミーアが使う魔法の中で、このフレアが攻撃と回復それを同時に行なうことが出来る。
あのエクスプロードは敵全体への攻撃。そのため、火属性を吸収できる状態ならエクスプロードよりもダメージは劣るものの、回復手段にも使えるという点は大きい。
しかし、この世界において、そういう識別も無ければ、属性魔法を吸収するようなアイテムもない。
そんな装備が無くても、俺のシールドは何重にも重ねればエクスプロードですら耐えられる。 だから、このフレアも俺に被害がないのは経験済みだ。
「アムドシアスと戦ってからも、俺はずっとダンジョンのコアを破壊してきた。その結果がこれなんだな」
ベリアルと対峙してこれまでの強者のように、圧倒的な威圧感を感じない。
それを思わせないほど、この俺が強くなっているという何よりの証拠だ。
「コロス」
「出来もしないことを言うなよ。今の俺にとって、お前程度相手にならないのを理解しろ」
ベリアルは、二番目の強者。
ベルフェゴルよりも少しだけ強い程度でしか無い。アスタロトのように分体ということも無さそうだし、アスモのように攻撃が当たらないということもない。
ベレスと同様に、相手になっていないんだよ。
結界の効果は俺の放つフレアですら余裕で耐えている。
だからと言ってこれ以上戦いを長引かせる必要もない。
右手に黒い瘴気が集まり、漆黒の剣が具現化を始める。
今となっては強者を倒すために作られたようなものだが、これほど有効な武器はこの世界にはないだろう。
「お前がどんな能力があるのか知らないが、この剣を防げるというのなら防いでみろ!」
両手に作られていた火球は、薙ぎ払ったドゥームブレイドによって消滅する。
ベリアルの巨体からすれば、ただのロングソード並の刀身で両断するのは不可能だが、上部から地面まで漆黒の剣は容赦なく深い傷跡を残す。
風魔法を使い速度を上げて攻撃を繰り出す。
ドゥームブレイドが消滅する前に、ベリアルの体は塵となって消えていく。
最後の武器。
邪剣グラム、コレが最初の武器でなかったのがレフリアたちにとっては良かったのかもな。
どう見てもデザイン的に、呪われた武器そのものだな。
剣を手にすると、白い光に包まれる。
『マキョウシャを倒すものよ』
「主様を守ってくれっていうんだろ? いい加減聞き飽きた」
『主を……勇者を救ってくれ』
勇者? このゲームにそんな設定のやつはいないよな?
もしかすると……。
『失われし武器を集めて、ラカトリアにある神具を開放せよ』
ラカトリア、それって学園のことだよな?
神の道具とは、製作者は一体何を考えていたんだか。
「さすがの俺もこの武器だけは遠慮したいな」
柄にも、剣身の腹にも異質なドクロがあり、邪剣の邪って文字は邪神なのかも知れないな。
どう考えても、呪われそうでしか無いな。
グラムを持って、ミーアの所へ向かい、結界を解く。
「アレス様」
結界が解けると、ミーアが俺の懐に飛び込んでくる。
そんな彼女に対して左腕でしっかりと抱きしめていた。
「ミーア、レフリアの容態はどうなんだ?」
「まだ時間はかかるとは思いますが……」
「リアはきっと大丈夫。こんな所で死ぬはずはない」
レフリアの手を取り、意識が朦朧としているはずなのに、しっかりとハルトの手を握り返していた。
しばらくすれば、少しは良くなりそうだな。
「少し借りるぞ……」
魔力糸を使い、皆が持っている強者の武器を集める。
失われた武器。そして、ラカトリア。
ラカトリアは学園の名前……だとするのならあのダンジョンに?
レフリアが握っていたエクスカリバーは、ハルトによって手から離された。
魔力糸を使い全ての武器を俺の所まで運ぶと、俺の周りに集まったことで、勝手に武器が突き刺さり地面から光が放たれる。
「ミーア、離れろ!」
引き剥がそうにも、肉を掴んで離そうとはしない。
何度も顔を左右に振って拒んでいた。
ハルトが何かを叫んでいたが、この声は俺の所には届くことはなく光によって視界も遮られていた。
「一体……何なんだ?」
ミーアを守るようにしっかりと抱きしめ、シールドを展開しようにもここにある武器の効果なのか、瞬時に砕かれていた。
しばらくすると、無くなっていた地面の感触が戻り、さっきまでいたはずのミーカトとは違うダンジョンに飛ばされていた。
「ここはどこなんだ?」
壁の様子からしても、ダンジョンだということは理解できる。
索敵を展開し、魔物の反応があるもののその魔力量はかなり低い。
「アレス様?」
「大丈夫だ。違う場所に飛ばされたようだけど……ここに居る魔物はそれほど強くはない」
ミーアはギュッと抱きついたまま、涙によって服が湿っていくのを感じる。
頭をポンポンの優しく撫でていくも、その涙は一向に留まることはなく何度も小さく声を漏らしていた。
「今まで悪かった。ミーアが怒るのも無理はない」
弱い力で背中を握り拳で叩かれる。
その手は俺の左腕に伸びていた。包帯に巻かれた腕を確認すると、そのまま力が抜けたかのように膝を落としていた。
ミーアがずっとすがりついたまま、声を何度も何度も殺し震えていた。
心配するなという言葉も、大丈夫だという言葉も、今のミーアにとって受け入れようとしてくれない。
「ミーア。こっちを向いてくれ」
目に涙を浮かべ、何度も頬を伝っている。
何を悲しんでいるのかは理解できないわけじゃない。
だからといって、こんな所でただじっとしているわけにもいかない。
「アレス様」
俺が顔を近づけていくと、その瞳が閉じられ唇が重なる。
いまミーアを少しでも安心させるにはコレしか方法が思いつかなかった。
一度離すものの、ミーアが首に腕を回して迫ってくる。
「アレス様。お慕いしております」
「ミーア、ちょっと」
何度目かのキスによって、ミーアが落ち着きを取り戻したものの、俺は手を使って火照っている顔を仰いでいた。
コレしか思いつかなかったとは言え、かなり大胆だったな……。
「と、とにかくここが何処なのかを把握しないとな」
再度索敵を展開するものの、ここに居る魔物の反応はかなり弱いと思える。
魔力の大きさだけで、魔物の強さを判断できるものじゃないけど、試しに一連撃の風球を飛ばし魔物はその斬撃によって消滅していた。
魔力糸を使い散らばっている強者の武器を浮かせる。
「このようなことにも使えるのですね」
「まあな、左……け、結構便利だろ?」
余計なことを言いそうになったが、ミーアのことだから理解しているだろうな。
この魔力糸だけでも、左手で使えればいいのだが……。
「あ、アレス様?」
武器に近づいていったミーアが、驚きの声を上げる。
何がそんなに不思議なのかわからないが……怯えた表情を見せてキョロキョロとあたりを見渡している。
「どうした? 何をそんなに怯えているんだ?」
「そこにいらっしゃるのですよね? 何も見えなくて……」
その言葉を聞いて慌ててミーアのそばに寄り添う。
腕を掴み、ミーアを抱き寄せて顔を覗き込む。
さっきまで俺のことが見えていたというのに、ミーアの体に何が起こっているんだ?
「あ、あのアレス様……ち、近いです」
俺から視線を反らし、耳まで真っ赤にしている。
さっきアレだけの事をしておきながら何を言っているんだというのがチラつくものの、今ははっきりと俺のことが見えている?
「この辺りか?」
ミーアが立っていた所へ行くと、周囲のあるダンジョン特有の明るさはなくなり、完全に闇に包まれる。
一歩ずれると、視界は戻りミーアの姿もちゃんと見える。
手招きをして、二人でその場所に立つと、ミーアの姿は見えるものの辺りを認識することができなくなっている。
「何だここは?」
「アレス様、上に何かあります」
ミーアの手が指す方へと目を向けると、微かに明かりのようなものが見える。
ここのダンジョンは一体どうなっているんだ?
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