第143話 迫る危険
ハルトに剣を渡してからというもの俺は、幾つものダンジョンを攻略していた。
魔物との戦闘は、ただ進んでいくと言ったものに変わり。
どれだけ魔物が残っていようとも、目指していたものはダンジョンのコアのみ。
今までならダンジョンの中は歩いて移動をしていた。時間があまり残ってもいないので、俺は浮遊したまま速い速度で突き進む。
ゲームと同じ仕様というのなら、魔物をいくら倒したところで既にレベルはカンストしていてもおかしくはない。それでも、ステータス上昇のレベルアップは在るが経験値を考えるとあまりにも無駄すぎる。
この世界では、ゲームに比べて多くのダンジョンが存在している。
つまり、それだけ多くのダンジョンコアが存在しているということだ。
コアの破壊によって得られるステータスアップ。これを繰り返せばそれだけ、今の俺はもっと強く成れると思っていた。
「あと二ヵ月」
近くの街にやってきて、食料の補充とギルドにある情報を見に来たついでに、日付を確認する。
十一月に入り、十二月になれば、もう後がない。
掲示板に、強者の情報は何処にもない。
俺なんかを頼り、協力をしてくれている公爵家に頼るのが一番なんだろう。
父上たちだけでなく、ミーアに俺のことは既に知られているだろう。
だからあの時、俺は三人と合わせる顔がなかったから、逃げるように姿を消した。
残る武器を手に入れた先に何があるのか?
その意味もわからないまま、刻々とタイムリミットは近づいている。
「戻るしか……無いのか」
宿のベッドに倒れ込み、憂鬱な気分がより深まっている気がしていた。
家に帰れば、これまで音沙汰がなかったことできっと怒られる。
なにより、左手を失ってまでもダンジョンに居たことをきっと指摘される。
そんな状況の中で、強者に関する情報を俺に明け渡してくれるのか疑問だった。
何もなかったとしても、今更飛び出したところで、後で文句を言われる程度でしか無い。
「ミーアは……」
俺の体を見ればきっと涙を流すだろうな。
戻りたくない理由の一番がこれだ。
腕を無くした俺に、三人はきっと俺に泣きついてくるだろう。そんな様子を見たいとは思わない。
強者を見つけられない今となっては、そんな事を気にしている場合でもない。
翌日、俺は意を決して、ローバン家へと向かう。
上空から見下ろす実家を前にして、大きく息を漏らす。屋敷にある大きな玄関の前に降り立ち。その扉を開ける。
久しぶりの帰宅に少し緊張していた。
「ただいま」
以前の時と比べて、これまでそんな事を口にすることはあまりない。
一歩踏み出した時に、あの懐かしいアパートを思い出したからか、ここに帰ってきた罪悪感からなのか、自然とその言葉を口にしていた。
「アレス様?」
俺はセドラの呼びかけに応えることもなく、視線は床へ向けてしまう。
数歩だけ進み、玄関の扉が閉まる。
「おかえりなさいませ」
「あ、ああ」
セドラは子供の時からずっと俺の世話をしてくれていた。
あの頃に比べると時間の流れを感じる。セドラは嬉しそうな顔を浮かべ、急かすように案内を勧めてくる。
「今日は一体どうされたのですか?」
「父上に会いに来ただけだ」
そんなことしか言えない俺に、セドラは少しだけ笑みを浮かべ「左様ですか」とだけ言っていた。
俺の代わりに執務室の扉をノックをすることもなく開けている。
「旦那様。アレス様がお戻りになられました」
中からは、ガタっと音が聞こえ父上の足音が近づいてくる。
父上の姿が見えたことで、一歩後ろに下がってしまう。
「アレス。よく帰ってきてくれた」
そう言って、父上は俺を優しく抱きしめてくれていた。
こんな事をされるとは思ってもいなかったため、セドラもハンカチを目に当てている。
俺がいない間に、何かがあったのだろうか?
「父上、あの、どうかしたのですか?」
涙を堪えるかのように震える父上に、戸惑いながら声をかける。
まるであの頃のような時間に戻っているかのような錯覚を感じてしまう。
「すまないアレス。つい、嬉しくてね。話は別のところでしようか」
そう言って、父上に肩を抱かれ別の部屋に案内される。
やっぱり何かあるのだろうと、そんな不安を抱きながらその部屋の中へ足を踏み入れる。
その部屋には、母上と兄夫婦がのんびりと寛いでいる。
「アレス……おかえりなさい」
「アレス君。おかえり」
兄上はスタスタと俺に近づき、上げられた手は俺の頭を撫でていた。
「馬鹿者……」
父上と同様に泣きながら抱きつかれる。今までと明らかに皆の対応がおかしい。
一体何が起こっているんだ?
この数ヵ月の間に、ローバン家で何があったんだ?
それとも、俺が怪我をしたということが要因なのか?
母上に手招きをされ、兄上に背中を押されて隣に座らされる。
悲しそうな顔をして左腕に手を置いていた。
やはりこれが原因なんだろうな。
「心配をおかけして申し訳ありません。母上」
俺の言葉に誰もが、首を横に振る。
皆は俺に何を思っているんだ?
索敵を展開し、ここに居る家族が別の何かにしか思えなかった。
だからと言って、何かしらの魔法にかかっているという感じにも思えない。だからといって、あの頃とは違い、嬉しさよりも戸惑ってしまう。
父上なら、俺の勝手な行動を静かに諌める。母上も、それに同調する。
兄夫婦は、剣を抜いて重圧を掛けてくる。そして、あの首輪を何度ちらつかせていたか。
それが今までよくあった俺に対しての対応だった。
「み……レフリア達は今は何を?」
「君が集めた武器の能力もあってか、ダンジョンを二つほど攻略して今は少し離れたところに行っている」
離れた所?
それにしても、ダンジョンを攻略できたのか。だとするのなら、あのパーティーはかなり優秀なんだろうな。
あの武器が揃っていたら、並の魔物なら大した問題にならないだろうな。
「では……今は何処に行っているのですか?」
「それを聞いて君ならどうするんだ?」
どうと言われても……別にうまくやっているというのならそれでいい話なんだが。
「ミーカトのダンジョンに赤く染まった魔物が、現れた」
赤い魔物。その言葉を聞いて俺が立ち上がると、途端に父上の目つきが変わる。
母上に腕を掴まれて座るように促される。しかし、こんな事をしている間にもミーアにどれだけの危険が及んでいるのかわからない。
「アレス、彼女たちは今では君と同じくダンジョン攻略者なんだよ? たった一人でよくここまで頑張ってきたけど、そろそろ仲間を信用してもいいと思わないのかい?」
何を悠長なことを言っているんだ?
いくら攻略者とは言え、俺と比べれば大した数じゃないことぐらいは理解しているはずだろ?
父上達は、ミーアたちに任せておけって言うつもりなのか?
「ミーアたちに魔人を倒せる強さはない。アレを倒せるのは俺だけだ」
「その腕で、本当に戦えるというのか?」
「バセルトンから出てからもずっと、俺はダンジョンに潜って、魔人を倒すために何個ものコアを破壊してきました。残る武器もあと一つ、ようやくなんです……邪魔をしないでもらえますか?」
母上の手を振りほどき、シールドを展開する。
ここで争うというのなら、それも仕方のないことで何も知らない皆には、黙ってことの成り行きを見て貰う他無い。
「アレス。行きなさい、皆を守るために」
母上が、俺を背にして両手を広げていた。兄上は、握り拳を作り必死に堪えているかのようだった。
セドラは頭を下げ見送る姿勢をとっていた。
「君ならそういうと、最初から分かっていたよ。いいかい? 必ずここに戻ってくるんだよ?」
そう言って、あの頃のような笑顔を見せていた。
もう、小さな子供ではない。だけど、父上や母上からしてみれば、俺がいくつになったところで結局は子供でしか無い。
「はい、必ず」
残る強者はそれほど強くもないだろう。
アムドシアスに勝てた……コアも何個も破壊をしている。
だから負けるという気は全く感じられない。
「行ってきます」
窓を開け、外に飛び立つ。
ミーカトのダンジョンなら、まだある程度なら覚えている。
だけど、強者がいるところにミーアたちが居る。
「ベリアル。動くんじゃねえぞ」
エアシールドに切り替えミーカトに向けて全速力で空を駆け抜ける。
いくらあの武器があっても、強者相手にまともな戦いというものは通用しない。
頼むから、無事でいてくれ。
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