第117話 誓約書?

 ロイたちはレフリアに任せることになり、俺はと言うとパメラ、メアリ、ミーアの順にデートをしていた。

 冗談で言ったあの隠し子発言。

 その責任を取るという形で、一人づつ丸一日を使ってのデートが決行された。


 二人きりという時間があまりなかったからか、お互いにぎこちないものの、それなりには楽しめたと思っている。

 パメラは緊張していたせいか、散々振り回されるように色んな店を巡り歩いた。

 メアリは郊外のある草原で俺がよく使っている魔法の話をしていた。

 ミーアはわざわざ空を飛んでローバンの屋敷にある俺の部屋がいいと言われる。


 たった一日の時間だったが三人がどう思ったのかはわからない。

 同じように好きと思っているつもりだったが……二人には申し訳ないが、俺にとってミーアは特別視してしまっている。

 恐らくゲームで体験した出来事が大きいと思う。

 だけど、まだ時間はあるのだから、今だけは皆との時間を大切にしていきたい。


 なんて考えていたのだが……ミーアと何をしていたのかを聞いてくる。

 当然何があったかなんて言えやしない。

 俺を見透かすメアリの爆弾発言によって、そこまではしていないと言ってしまい……急遽、全員でのデートが追加されることになった。




「アレス様は、これからどのような行動を取られるのですか?」


「魔人との差を少しでも埋めるために、各地にあるダンジョンの攻略からだな……」


 俺たちは揃って今後の事について話し合っていた。

 レフリアたちは一度学園に戻るという話も出たが、ロイたちの事もあって皆はこのまま活動を継続してくれることになった。


「アンタが苦戦する相手って……はっきり言って想像もつかないわね」


「アレス様はわたくし達とは違い、別次元の強さを持っておられますから。レフリア様が想像できないのも分かりますわ」


「三年もの間、私の相手をされていなかったのですから、当然ですよね?」


 ここにいる全員はその事を知っているのに、ミーアがサラリと棘のある言い方をするものだから、向けられる視線は少しばかり痛い。

 それなのに困っている俺を他所に、クスクスと笑っている。

 パメラは、「最悪だね」といい。また、メアリは「これから先が思いやられますわ」と俺を横目で見ていた。


「そ、それはだな……」


 どう誤魔化せばいいものやら……俺はこの三人と上手くやっていけるよな?

 メアリの影響なのか、ミーアも俺をチクチクと攻撃してくる。


 一度は諦めたとは言え、今では三人の婚約者が居るのだから、今更もう後に引けない。

 強者を全部倒して、被害を最小限にしてからラスボスを倒して……後はのんびりと過ごせればそれが一番いいのだけど……俺の体って持つのか?


「アレスの場合。ダンジョンに籠もると手がつけられないからね」


 ハルトがそう言い切ると、他の皆も揃って頷いていた。

 随分と酷い言われようだとは思うが……言い返せないところがまた情けない。

 この短期間で既に二回も、ダンジョンで時間感覚を狂わせ、戦いまくっていたのだから。そう思われても仕方がない。


「アンタがそんなだから、最近のミーアが結構危険な戦いをしていて困っているのよ?」


「レフリア様!」


 ミーアがレフリアに突っかかっているのなんて始めて見たな。


「ミーアが? そんなことはないだろう?」


 あのミーアに限って、それほど危険な真似をしているとは思えなかった。

 首を傾げていると、メアリはミーアを引き剥がして、レフリアはこれまでの戦いを教えてくれた。

 泣きそうな表情を浮かべ、何度も首を振っていた。


「何でそんな真似を……」


「それは……い、言えません」


「確かに俺が引き込んだ責任はあるが、はっきり言って魔人との戦いは予想以上に手に負えないんだ。だから今後は、自分のペースで頑張ってほしい。俺だって一緒に居てくれるのは嬉しいが、お前達を危険な目に合わせたくないのも分かってくれると助かる」


 ミーアたちがまともに戦える相手ではない。

 今からどんなに頑張っても無理だとはっきり言える。どれだけこの世界の改変が進んでいるか分からない。


「魔人は俺に任せて、ロイたちを一人前にする話に取り組んで欲しいんだ。だからお前達は……」


 三人は、奥へと行きヒソヒソと内緒話をしている。


 レフリアは肩を竦ませている、何を話しているかよく分かっていないようだ。

 相談が終わったのか、ミーアが何度か咳払いをして戻ってきた。


「一体何なんだ?」


「あ、アレス様。私達にお約束して頂きたいことがあります」


「約束?」


 あれか、絶対に生きて帰ってこいとか?

 連れて行けと言われてもはっきり言って困る。

 パメラはミーアの背中を押し、一歩前へと突き出されている。


「その……浮気はダメです!」


 予想すらしていない言葉に、俺の口からは「は?」と言葉が漏れていた。

 この流れで何でそんな話になるんだ?

 レフリアは面白そうに声を上げて笑っている。ハルトですら、口元を隠して肩を震わせている。


「浮気なんてするわけがないだろ?」


「お約束してください……」


「約束って言われてもなー……何でそんな話になるんだよ」


 ミーアは俺が思っている以上に嫉妬深い、のか?

 そういや、パメラと最初はよく衝突していたんだっけ? 以前にも、パメラと一緒になんか言っていたような?


「アレス様の場合は、わたくしという前科がございますので……ミーア様はそれを危惧しておいでなのですわ」


 二人は揃って頷くが……前科とは酷い言われようだな。

 あれは不可抗力っていう言葉が当てはまると思いますが?

 そこで笑っている二人はとりあえず黙るか、他の部屋に行ってろよ。


「アレはそんなつもり……」


 ここで、ないといい切ればメアリに何を言われるのだろうか?

 否定をしてしまえば、当然三人の口撃が始まる。というか、既に三人の視線がかなり冷たいものに変わっている。


「まさかと思いますが、無いなどと仰るおつもりですか?」


 メアリの言葉に慌てて首を振るのだが、これでは浮気を肯定したようなものだ。

 とはいえ、俺にはこれっぽっちもそんな気はなかったし、言ってしまえば婚約者になったのも成り行きだ。

 そんな事も言い返せず、頭の中ではどう言い訳をすればいいのかをひたすら考えていた。


「なるほどね。ミーアが何を焦っていたのかよく分かったわ」


「ど、どういう事だ」


「さっきの話で分からないのなら、ミーア達もこれから大変ね」


「だから、分かるように説明してくれ……メアリの時はだな、助けてやりたいと思ったがそんな疚しい気持ちなんて無かったんだぞ?」


「今回はたまたま、問題はありませんでしたが……わたくしのようなことにも成りかねた」


 ロイたちのことを言っているのだろうか?

 あいつらはまだ子供だし、そんなこと……いや、もしこれがメアリやパメラのときのように?


『この包帯はどなたが?』


『ほら、ここの所。直してある!』


 つまり最初から、俺は浮気をしたと思われていたことか!?


「アレスさん本当に最低です。これはもう誓約書を書かせるべきだよ」


「それしかございませんわね」


「誓約書?」


 ミーアたちは、俺の手助けをしたいというのはもちろんだったが、それ以上にダンジョンへ行くことを決めたことで、また誰かを助けたことによる浮気をかなり心配していたらしい。

 俺は一人で各地を回っている。

 そのため、ちょっとした食い違いになっていたようだ。


「けど……助けないという訳にもいかないだろ? その場合はどうすればいいんだ?」


「アレス様には、色々と自覚が足りないと思います」


「自覚? ミーアは何を言っているんだ?」


 その日はそれから、三人はこれまでの行動に対しての間違いを指摘し、今後のことを想定とした講義まで開始された。

 朝日が登ろうとする頃に、俺は一枚の誓約書を差し出されていた。

 幾つかの禁止事項が書かれているのは良いとしてだ……。


「あのさ、これを破ったらという所の文言がおかしくないか?」


「何も問題はありません」


「まあ、妥当だよね」


「むしろ当然ですわ」


 いやどう考えてもおかしいだろ?

 徹夜によるハイテンションによるものだろう。

 俺がサインをした所で、三人は満足したのかようやく部屋から出て行った……。


 婚姻をするとかならまだしも……先に子作りって。

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