第112話 幼い冒険者
皆が寝静まり、索敵を展開し周囲の状況を確認する。
両隣に分かれて俺を監視しているのか……随分と厳重なことだな。
支払いとしてテーブルには五枚の金貨を置いて行くことにした。
窓を開けると冷たい風が室内に入ってくる。
「まだ、少し寒いな」
夜風の冷たさに体が身震いをしていた。外から窓を締めて、気付かれないようにゆっくりと上昇する。
ある程度上昇した所でエアシールドを展開する。流石にかなり冷えてくるのでこれがないと辛い。
ローバンに向けて一気に進んでいく。
ロンギヌスを持っているから、デメリットが発動するかと思ったが、ここがダンジョンではないからだろうか?
この武器の効果は、相手の防御無視で素早さがゼロになるというものだ。
今更だが、これを体内に取り込んでいたアスタロトの攻撃が防げなかった理由だろうか?
ちょうどダンジョンが見つかり、俺はロンギヌスの性能を試すことにした。
「本当にダンジョンの多い世界だ」
ダンジョンに入って数分でここに来たことを後悔していた。
ロンギヌスのテストのためにやってきたのだが……ここにいる魔物は虫系だったのだ。
そして、索敵を展開すると、見てしまったものはしょうがないし、何もしないままだと後味が悪い。
不格好に槍を振り回し、魔物に攻撃を繰り出すが当たりはするが、トドメにはならない。
エアスラッシュを放つと魔物は次々と塵となって消えていく。
特にデメリットはないような気がする……剣が使えるのなら剣を装備する。槍を使ったこともない俺が、これを装備していると言えるのだろうか?
それにしても、こんな時間だと言うのに……何でこういうのに遭遇するんだろうな。
「よう、応援は必要か?」
「「は?」」
前で戦っていた二人は、俺を不思議そうに見て気の抜けた声を出していた。
ここで横槍を入れてしまえば報酬は俺のものになってしまう。緊急時でないのであれば、手を出さないのが冒険者としてのマナーだ。
その話をここにいる連中に適応できるのか、分からないのだけど、な。
「いやこの状況を見れば分かるだろ?」
「ええっと……」
奥には一人が倒れていて、懸命に回復魔法をかけている。
前衛の二人はまだまだ大丈夫なのか?
俺ならこの程度は問題はないし……だからと言ってこのままというわけには行かないよな。
「ああ、なるほど。んじゃ、頑張れよ!」
「何でだよ! いいから手伝え! 怪我人がいるんだよ! 見りゃ分かんだろ!」
「了解だ」
「お願いします」
二人の前に割って入り、俺はロンギヌスを左手に持ち、刀身が折れている剣を抜いた。
さっきからやかましい冒険者は「あほか!」とすかさずツッコミを入れてきた。
「そんなに声を出していると、ワラワラと寄ってくるぞ?」
口を今更手で塞いでも仕方ないだろう?
槍を振り回し、攻撃を繰り出すものの無駄に扱いづらい。
ハルバードのように斧でも付いているのなら、薙ぎ払えるがコイツは本当に突くだけに特化しているのか?
斬りつけようにも刃先がかなり短い。
「な、何やっているんだよ?」
確かに……まあ、デメリットは無さそうだから、これぐらいでいいか。
折れた剣に、氷の大剣を作り出し虫を両断する。
奥からやってきている魔物も同様に倒していく。
「な、何だよそれ」
「あれは、氷魔法の付与ですよ」
「じゃあ何で槍を持っているんだよ!」
「使ったことがなかったからな。それで、どんなのかな……と思っただけです」
皆同年代のようだし、同じ街の出身のようだな。
戦っていた二人は剣を鞘に戻すこともなくそのまま座り込み、よほど疲れていたのか、一人は仰向けになっていた。
「ありがとうございました」
「いえいえ。どうぞ、これを使ってください」
収納から小瓶を取り出す。
俺はニヤッと笑い、二人の前にポーションを置いたけど、表情は暗い。
奥に居る少女はポーションに気が付き、小さな声で「あっ」と言っては、視線をそらしていた。
その弱い魔法を使い続けるよりも、ポーションを使用したほうがあの子に為にいいだろう。
「どれ、あまり大丈夫じゃ無さそうだな」
そういうと、彼女は魔力を高め光が少しだけ大きくなる。
「大丈夫で、す」
「そうか。ならもう少し、そのまま頑張っていろよ」
俺は倒れている人の頬を叩き意識を確認する。かろうじて目を開けたので、ポーションを二種類飲ませることが出来た。
症状からして傷というよりも、毒が原因のようだった。
さすが虫の魔物と言ったところだな。キュアポーションを持っていてよかった。
「大丈夫か?」
「ううっ、はい。なんとか」
「お前もよく頑張ったな、お疲れさん」
それにしても、この状況は黙ってないといけない事案だよな……何をどう転んでも、俺がまた正座をしている姿が目に浮かんでくる。
回復を掛けていた彼女は、少し青い顔をしている。男二人は、俺に対して土下座をしているのだが……どういう状況なんだ?
「ほい。こいつはお前の分だ」
「いえ、私は……」
瓶の口を開け、そのまま口元に押し当てる。
そのまま流れるポーションの液体が少しだけ溢れる。慌てるように口を開くと飲み始めていた。
「とりあえず、そこの二人もポーションを飲んでおけよ? 飲まなかったらここで、でかい音を出すぞ?」
そう問いかけるが、首を振るだけで手が少し震えていた。
やれやれ、全くどういうことなんだ?
奥に居る魔物は一応倒しておくか……土下座をして震える少女と、倒れたままの少女。
どう見ても俺より年下だよな?
普通にダンジョンに来る年齢と言ったら、俺たちのように十五がぐらいなものじゃないのか?
見た所平民なんだろうけど……あの腕輪が何なのかを物語っている。
「何を気にしているのかわからないけど、人の好意ぐらい素直に受け取れ」
「僕達、金を持っていないんです」
ポーションぐらいケチケチするわけ無いだろう?
面倒だから、土下座をしている少年の髪を掴み、顔を上げさせポーションを口に突っ込んだ。
その状況を見て隣に居た少年は顔を真っ青にしている。
「飲むか飲まされるかどっちがいいんだ?」
「の、飲みます」
慌ててポーションを飲み干すと、再び土下座へと戻る。
これだと俺が悪役じゃないのか? どう見ても善意の行動なのだけど?
「ちょっと待ってろよ」
テントを取り出して、横になっている彼女を寝かせて、軽い食事の用意を初めた。
とはいっても、ただのぶっこみスープだから味のあまり良くないんだよな。
三人に差し出すが一向に食べる気配がない。
「いい加減にしてくれよ。今度は熱々を流し込まれたいのか?」
三人は目配せをして、俺をじっと見ている。
かなり若い冒険者のようだが……よくよく考えて、俺を基準で物事を考えると想像以上におかしなことなんだな。
仮に十三として、こんな所にこんな遅くまで……俺なら意気揚々と行っていただろうしな。
「美味くないだろうけど頼むから食ってくれ。別に何かを請求はしないからさ」
「ではいただきます」
「ありがとうございます」
口をつけた三人は、困った顔をしている。
こんな時に味噌でもあれば、ある程度誤魔化せると思うんだけど……そんなの売っているところを見たこともない。
相変わらずのただの塩味……野菜とかは使い切っているし
それでも食べてくれるだけましか。
「あの、お名前をお聞かせ頂けますでしょうか?」
名前か、毎度毎度意味をなしていないし、別に気にすることもないか。
「俺はアレス・ローバンだ。ローバン公爵家の次男坊だ」
三人は目を大きく見開き、口をパクパクさせていた……ええっと、何でこんな事になった?
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