第111話 腹が減ると機嫌が悪い

 見覚えのある冒険者が三人。

 何というタイミングの悪さだ……よりにもよって俺が知っている相手が来るなんて想像もしてなかった。

 それでいて、このヘンタイと顔見知りなのか、仲良く挨拶までしていやがる。


「よいしょっと」


 父上に頼まれて、ダンジョンを攻略していた。そして、コアを破壊しダンジョンの外に投げダレる時、同じくダンジョンに居た連中。あの時といい、今といい、四六時中監視しているというのか?


「心配していたんだよ。アレスがここに運び込まれてさ」


 つまり、俺の存在は最初からバレていたということか。


「まぁ、運んだのはこの俺なんだがなっ!」


 豪快にケインが笑っているが、助けて貰ったのはいいが……何で俺が目が覚めた段階でお前たちが居ないんだよ!

 アルルはわざとらしく、人差し指を頬に当てて「あら、私にはイースって言ってたわよ」なんてほざいている。

 アーチェはあの時と同じようにケラケラと笑っている。


「もしかしなくても、ヘーバイン公爵が?」


 アーチェは、「そうだよ」と言って隠す気もないらしい。

 あの人なら俺に対して監視は付けるか……俺が何をしていたというのもきっと理解しているんだろうな。


「はいはい、俺がわるぅございました。それじゃ、俺も目が覚めたことだし、今から公爵家に戻るのか?」


「何を言ってるの。今は怪我を治すのが先でしょ?」


「そうそう」


 他の二人も、アーチェに同意するかのように頷いている。

 怪我と言っても、これだけ動けるのなら問題はないと思うのだが?

 別に歩くわけ……あー、レフリアからも言われてたよな。人前では飛ぶなって……普通なら歩くか馬車を使うよな。そういう感覚が抜けすぎている気がする。


「手っ取り早くポーションか、回復魔法を使うしか無いか」


「ポーションはともかくとして、回復魔法って……あのね、そんな簡単なものじゃないのよ?」


 この世界の回復魔法はゲームと比べて、時間はかかるし何より魔力の消費が凄まじい。

 とはいえ、ポーションは魔法に比べるとかなり劣る。

 それに種類も一つだけしか無く、一度に大量の服用も禁止されている。


「今は少し休みなさいな」


「そうだよ。休息も大事」


 アーチェの言い分からして、回復魔法を専門に使っている診療所のようなものはないみたいだな。

 ミーアがいてくれればこの程度怪我、数日もあれば治してくれるのだけどな。お小言も当然言われそうだけど……。


「休息か……」


 少しだけ静まっていた腹の虫が再び騒ぎ始めている。

 休めというのだから、食うもん食って寝るものだろう。


「そうまで言うのなら、まずは飯をだな……」


 少し離れた所にいるチェルに視線を送るが、話は聞こえていたようで両手をクロスさせバツを表している。

 我儘なやつだな……そっちがその気なら、別の場所で食えばいいだけだ。

 美味さに固執した所で、腹を満たせないのなら意味がない。

 腰を上げ、外へと行こうとすると、ウィルとケインが立ち塞がる。

 二人の肩を押しのけ、進もうとしてもまた立ち塞がる。


「何処に行くんだ?」


「ここはダメのようだから、別の所に行こうかと」


「そんな事させるわけ無いだろ? 頼むから大人しくしていてくれ」


 俺は皆に取り囲まれ、ここから出さないつもりらしい……こっちもいい加減、我慢の限界なんだ。


「チェルちゃん。少しでいいから何か作ってくれないかしら。この様子だと何をするかわからないみたいなのよ」


「ですが……本当に大丈夫なのですか?」


「仕方がないでしょ。アレス君、もう少しだけ待ってあげて。ほら席に座って」


 作るというのなら別にいいか……俺が席につくと、皆も同じテーブルの椅子に座っていた。

 しばらく待っていると、あの親父が幾つかの料理をテーブルに並べるが、俺の前に置かれていた物は量が半分もない。

 三人は口を揃えて「おっかねぇ」と呟いている。


「これ以上はダメだ。明日の朝にでもなればもう少し増やしてやる」


「まだ何も言っていないだろ?」


 俺の視線に気がついた連中は、腕で料理を守り食べ始めている。

 どれだけ信用がないんだ?

 まあ、半分……八割は奪おうとも考えたけど。


 用意された料理を食べてから、さっきまで寝ていた部屋へ戻り、紛らわせるため横になった。

 収納に残っていた果物をデザートにするが、やはり物足りない。

 体の痛みはそれなりに感じるものの、これと言って問題なく動ける。

 少しだけ空腹が満たされたせいか、目を閉じているとそのまま寝てしまいそうだ。


「ふあぁあ」


 俺は今後のことを考えていた。

 アスタロトの戦い。ベルフェゴルの戦いと、どちらもなんとか勝てた程度であり、反省する所は多い。

 何より、俺自身の強さはゲームのように限界を迎えているのか、あの頃からあまり成長をしていないように思える。


 現時点でレベルがカンストしているのだとしたら、今後の戦いは苦戦する可能性が出てくる。

 そんな中、俺はミーアたちを守れるだろうか?

 俺と同格になるなんて何時になる?


 いくら主要メンバーとは言え、魔物を狩りまくっている俺と次元が違いすぎている。

 どう考えても、ミーアたちには時間が足りない。

 最後に待つ結果は全滅しか思いつかない。


 今も何処かでダンジョンにいるのだろうけど、メアリはまだ索敵が出来ないだろうし、強者に戦うなんて何時になるかわからない。


 失われた武器。


 それの重要性も不明で、目的となるラスボス以外あまり意味がない気がしていた。

 あれは時間が来れば、魔物の暴走と同時に出現する。現時点では封印されているという設定でいいのだろうか?

 何百年と放置されているにも関わらず、今まで一度も暴走を起こしていないのはどういうことなんだ?


 一度見に行ってみるか?


 でも、俺が行ったことで復活したらどうすればいい?


「あら寝ているのかしら?」


「いや、まだ起きている」


 俺は返事を返したが、ため息の代わりに大きな欠伸が出ていた。

 それにしてもこのおっさんはどういうつもりなんだ?

 ロンギヌスを隠してあるとか言ったが、本当は何処かに売ったんじゃないのか?


 あの三人と一緒だというのなら、その考えはあまり無さそうだが……金でもなびかない、つまり既に十分な金を持っているんだろう。


「何のようだ?」


「そんなに怒らないの。それよりも体の方は大丈夫なの?」


「問題がないことをどう説明すればいいんだ?」


 アルルは肩を竦ませると、壁に置いている椅子を近くに持ってきて腰を降ろした。

 俺としてはさっさと槍を返して貰い、ここから出ていきたい所なんだけどな。

 とはいえ、ヘーバイン公爵から依頼を受けているのだから、余計な揉め事は避けておきたい。


「そんなに情熱的に見つめられると困るわ」


 落ち着け、今は落ち着け。

 こんなのとはいえ、ブチのめした所で非があるのは俺の方だ。

 何度も大きく深呼吸をして、少しでも気を落ち着かせているが、クネクネと動く気持ちの悪い物体をせめてここの窓から放り投げるぐらいはいいのだろうか?


「冗談はこれぐらいにして……そんな顔をしないでよ」


「一体何の用だ。俺はお前を殴りたくて仕方ないんだが?」


「あら、そういうのがお好みなの? ごめんなさい、私が悪かったわ。だから、その魔法は解除して貰えないかしら?」


 俺の右手には、魔法を何時でも打てるようにと少し大きめの火球を作り出していた。

 アルルは必死で両手を振り続けている。


「次、余計なことを言ったら、本当に当てるからな」


「わかったわよ」


 できればその口調も止めて欲しい所だ。

 それ以前に、その格好の方が問題か……おっさんのビキニアーマーって、誰が得をすると言うんだ……毛の処理をしているのならともかく、下半身は見るも無残なものだ。


「とりあえず、ヘーバイン公爵様の現状から話すわね」


 俺がダンジョンに篭っている間に、ストラーデ家は解体され、理由はわからないがローバン領に向かったらしい。そのため、俺には待機を命じられていた。


 父上だけならまだしも、ヘーバイン公爵が何でローバンに行く必要があるんだ?

 確実にパメラのことだろうけど……それなら呼び出すとは思う。わざわざ行く意味は何なんだ?


「とりあえず、公爵様が帰ってくるまでに体をちゃんと治すのよ?」


「分かったが……槍は今返してもらえるか?」


「うーん、しょうがないわね。今持ってくるわ」


 ロンギヌスは、ここの親父に渡していたのかすぐに持ってきた。

 巻かれている布を剥ぎ取り本物かを確かめた。


「どうやら本物のようだな」


 これを確認するには、収納に入るかどうかで決まる。

 ダインスレイブと同様に、収納の入り口をすり抜けていた。


「いくら何でも、英雄の持ち物を盗んだりでもしたら、私達の首が飛ぶわよ」


「英雄ねぇ」


 攻略者が英雄なら、あの王子も今頃は英雄としてもてはやされているのだろうな。

 いや、そうなっているからパメラのことが浮上したんだったな。

 ロンギヌスもあるし、これでここに居る意味はないな。


 夜にでもなったら俺も向かうか……?

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