第17話 メインヒロインが?
初日でこんなことになるとは予想外の結果だった。
これだけの小さなダンジョンに、一階層に一週間という時間があり、木管を取りに行くのに一ヶ月という長い時間。
それは、初めてのダンジョンを甘く見ないということだ。
ゲームだから、だからこうするのが得策で、有効な手段の一つだと決定づけてきていた。
実際には、ぼろぼろになりながらも戦い、二人を守り通したハルトは称賛されるべきことなんだと思う。
だとするのなら、これから先一体どうなるんだ?
この反応は!?
一つの反応が、複数の魔物に取り囲まれていた。逆であれば問題ないのだが、囲まれているのは人だった。
「まずいぞこれは……」
「い、いやーー!!」
あれは、パメラか? ほかの学生はどうした?
それよりもまず魔物を、四体に囲まれていたパメラの前に風の刃が通り過ぎなぎ倒していった。
パメラは恐怖に怯えているのか、目をギュッ閉じていた。
「おい、無事か?」
「あ、貴方は……?」
「お前以外のメンバーはどうした?」
「向こうの方で倒れていて……」
「分かった。いいか、そのままじっとしていろ」
奥の方から近づく魔物に魔法を放ち、倒れていた二人は俺の知らないやつだったが、ポーションを飲ませる事でなんとか乗り切ったようだ。
緊急事態として大目に見てくれると良いのだけど、俺は倒れていた二人を両脇に抱え、パメラの元へと行く。
「二人共大丈夫だ。一度戻るぞ、いいな?」
戻ってきた俺をパメラは座ったままポカンと口を開けてみていた。
何度か声を掛けてようやく戻ってきたパメラは、慌てて立ち上がり頭を下げていた。
「はい。有難うございます」
「礼はいらない。早く出るぞ」
一部を除いて学生たちが真剣になるわけだ。命がけじゃないかこれは……とはいえ、王子のように大人数というのも、これからは増えそうだな。
父上と一緒にダンジョンに潜った時に、数人の私兵を連れていたけど。こういうことだったのか?
『アレス、たしかに君は強い、だけどその強さを過信してはいけないよ。いいね?』
『しかし、アレス。誰もが君のように強いとも限らないからね。その事を覚えておくんだよ?』
そういうことだったのか父上。
これがこの世界での現実……魔物が弱いと思っていたのは、ゲームの知識による歪んだものだ。
その中でもレベルアップという概念を持って居るのは俺ぐらいなものだ。
ここにいる全員は今日がダンジョンに初めて入った者たちばかり。
ゲームだから、この魔物ならと、初めての戦闘で皆が戦えるとは限らない。ゲームのようにやり直しなんて無い、だから死ねばそれで終わる。
もしあの時助けなければ、パメラも……ミーア達もどうなっていたのかわからない。
「パメラ。大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
パメラの様子からして大丈夫と言うには程遠い。
肉体的と言うよりも、精神的な疲れが大きいのだろう。持っている槍を杖代わりにしてなんとか立っているに等しい。
「少し、休憩するか?」
「ですが……」
俺は二人を、壁に凭れさせその場に座った。パメラも俺の隣に座り息を整えていた。
いまポーションを使ったところで気休めにもなりそうにないな。
周りに居た生徒たちも初めての戦闘だからか、それほど時間も経っていないというのに、続々とダンジョンから離脱をしている。
俺と同じように魔物との戦いというものを、見誤った者たちなのだろう。
ゲーム的な考えは一人で居た頃から捨てるべきだったな。
「ありがとうございます」
「ちっ……いいか、すぐに戻る。そこを動くなよ」
「え……?」
来た道へと戻り、こちらへと向かってきている魔物へ魔法を打ち込む。
半数以上は戻っているか……俺の周辺で残っている魔物に対し、次々と魔法を打ち込み殲滅をしていく。
中には、苦戦をしているのかまでは分からないが、優勢になるようにと魔物を減らしておいた。
反応が消えたことを確認しパメラの元へと戻った。
「二人共大丈夫?」
「ああ。なんとかね。貴方は大丈夫だったの?」
俺が戻る頃には、パメラのメンバーも気が付き介抱をしているところだった。
追撃に向かう前に、二人のために残しておいたポーションが役に立っているみたいだな。
「はい、助けてくれたので……」
「助け? 誰が?」
「気がついたのか」
声をかけるが、二人は俺に対して身構えている。当然といえば当然だろう。
きっと俺は、王子に並んで嫌われているようだしな。
ここに居る二人は、多分Aクラスの連中だけど、俺の体型を前に気味が悪いのだと思う。
「お前はっ!?」
「パメラがお前らを背負っていたからな、少し手伝っただけだ。触ったことを怒るのなら後で謝罪する」
俺の言葉に二人は、気持ち悪そうに体を擦っている。
パメラは何かを言いたそうにしているが、仲間の手前何も言えないのだろうが、別に気にする必要もない。
俺としてはこのゲームのヒロインと言うだけで、助けたようなものだから気にすらしていない。
そう言い残して、俺はその場を去った。
多くの生徒が帰還しているにも関わらず、いまだに残っている反応も気になる。
「どうだ! こんな魔物いくらいても大したこと無いな」
「素敵です。さすが殿下ですわ」
「ええ、私達も殿下のために頑張りましょう」
とりあえず……放置でいいか。あれはハーレムでも楽しんでいるのか?
それとも、俺と同じような転生者というわけか?
王子が強いのか、剣が良い物を使っているのか、ここでの戦いなら大丈夫そうだな。
それに、あの人数であれば苦戦にすらならないだろう。
結果として、王子のパーティーのみがここを独占できるほどに活躍をしているのは事実。
ダンジョンに入ってわずか三時間。
残っている学生はもういないようだな。
初級ダンジョンだと言うのに、こんな事をしていて本当に大丈夫なのだろうか?
本来であれば、少しだけミーアの動向を見てからダンジョンの各地を回り、必要なアイテムを集めラスボス戦に挑むつもりだったが……今の状態だと、そんな事をしている余裕はない。
それだけ、この世界では学園の生徒は弱かった。ゲームの仕様ではないからと言うべきだな。
このダンジョンにはもう誰も残ってはいない。それに、日没までまだ時間はある。弱い魔物だけど、数を減らしておいたほうが良さそうだな……今後の展開が困ったな。
ミーア達のこともあるし、一人で各地を行くことはしばらくできなさそうだ。
行くだけでも時間かかるというのに、また戻ってくることを考えると少し憂鬱になっていた。
「やれやれ、こんなものか?」
あれから二時間は籠もっただろうか?
正直何匹倒したのかもわからない。
とはいえ、階層まるごと殲滅させておくわけにもいかない。これで今日のようなことにならないと思いたい。
「外はまだ明るいのか……はぁ、どうしたんだ?」
ダンジョンから出ると、ミーアとハルトやレフリアが残っていた。
レフリアは俺を見るなり驚いた表情をしていたが、その顔も次第に怪訝なものへと変わっていく。
「アレス様……よくご無事で」
「ああ、入口近くで隠れていたからな。特に問題はない」
「ほら、言ったとおりじゃない。一人なんて無理だから隠れているって」
「そうは言うけどね。無事で良かったじゃないか」
しかし、俺をじっと見つめる視線がもう一つ。目が合うがすぐに視線を反らすしかなかった。
汚れた格好のまま、ミーアの奥から俺の見ていたのはパメラだった。
ミーアはともかく、パメラまでいるとは思いもよらなかった。
「とりあえず、飯を食っていないんだ。腹減ったから食堂に行かせてもらうぞ」
面倒にならないためにも、俺はその場から逃げ出した。
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