第15話 推しキャラって何?
昨日のこともあってか、頭の中では後悔ばかりが駆け巡っていた。
ミーアには、俺に対しての好感度を下げるためにあんな事を言ったりはしたが、それでも少しきつすぎないかと無駄のことを考えたりしていた。
婚約破棄を目的としているのだから、今更好感度なんてどうでもいいのに……淡い期待を持ってしまっているのも事実。
未練がましく悶ていると、夜はいつの間にか朝焼けへと変わっていた。
眠いままクラスへと入ると、誰かにいきなり後ろから蹴られた。
油断していたわけでもないが、こうなると予想をしていなかったからだ。
「へぶっ」
「おい、豚野郎。お前みたいなのがなんでここにいるんだ」
「ぐっ」
見事までに正面から倒れ込んだが、腹の反発でゴロンと仰向けになった。
蹴った本人を確認すると、その顔に見覚えはあるが、はっきり言ってこんな奴は見たことはない。
登場人物だけがこのクラスの全てでないのも分かっているつもりだ。
俺の知るこいつは、ナルシストぽいイメージもある。しかし、基本的には紳士であり、俺のようなデブだろうとこんなことをするはずがないと思う。
まあ、所詮ゲームでの話だけど……何をどう間違えたのか、長髪から短髪へと変わり、目つきも俺のことを見下すように蔑んでいる。
いくら何でもありえないだろ……こいつはこの国の第二王子でありしかも攻略対象だ。
王子のことを少しだけ知っているのは、プレイ中は王子もパーティーに入れていたからだ。誰に対しても気軽に話をかけるそんな奴だと思っていた。
ところがここに居る王子は、俺様属性備えただけではなく、性格はかなり横暴のようだな……現実は、あまりにも残酷すぎるだろ。姉さんがこんなの見たら発狂しそうだ。
しかし、ここまでキャラ崩壊しているのは一体どういうことだ?
「お前みたいなゴミの実力で、特待生のクラスに何のようだ? それとも何か献上しにきたのか?」
「そう言われても、俺のクラスここだし」
「そんな事は聞いていないだろうが? ふざけているのか!」
いやいや、まるで会話が成り立っていない。何なんだよこれじゃまるで、ただのチンピラじゃねぇか!
王子のヒロインは誰だよ。マジで責任取れよな……ええっと誰だっけ、確か……唯一光魔法を使う、やっぱり思い出せない。
仲間には出来ないし、ラティファと違って会話することもなかった気がする。見たといえばゲームパッケージのセンターに居たということぐらい。
今日は初日だからヒロインよりも、この時期だと婚約者は悪役令嬢のラティファのままだよな?
姉さんが、やたらと喚いていた記憶はあるのだけど。確か、あの銀髪ドリルは……なんで居ないんだ? 銀髪の生徒はなんで三人も居るんだよ。
というか、あの毒舌悪役令嬢に好き好んで声かけるのは、そっち系じゃないからご褒美だとも思えない。
しかし、ドリルが居ないというのは、一体どうなっているんだ?
「何をキョロキョロしてんだよ。誰かが助けてくれるとでも思ってんのか?」
うん。この王子はない。
とりあえず体を起こし、頭をガリガリと掻いていた。
周りの様子からして、この王子様を遠巻きにして眺めている。数人はいくら俺が相手だとしても、怪訝そうに見ている者が数人。
相手がこの王子ということもあってか、誰も止めに入ろうとはしない。
「それで、俺に何の用ですか?」
「まずは這いつくばれ。そして俺に許しを乞うのだ。デブですみませんてな」
「はぁ。わかりました」
本当に理解は出来なかった。いくら太っているというだけで、こいつに許しを請う必要がどこにあると言うんだ?
それでも、こういうのもありだと考え、俺は言われた通り土下座をする。王子は頭を踏み、グリグリと踏みつけてきた。
これが王族でこの国は本当に大丈夫なのか?
「デブですみませんでした」
「ふん。それでいいんだよ。次、俺の前に姿を見せたら、そうやって土下座してりゃいいんだよ」
通り際に蹴りを入れてくるクズっぷり。
こんなのが姉さんの一推しのキャラだというのか?
プレイ中によくキャーキャー言ってたのが、まさかこんな奴に変貌をしているとは……それとも、シナリオによって人格がかわるのか?
少し違うか……俺のようなイレギュラーのせいだと考える可能性もある。
ゲームの物語は高等部から始まるため、本来なら通っていたはずの初等部に俺は行っていない。
初等部で何かがあり、そういった事が積み重なって、何かが歪められことにより王子はああなっているのかもしれない。
それにしても酷い有様だな……たとえ俺の思惑通りに進んだとしても、こんなのが国王にでもなったら内乱が起こるかもしれないよな。
今日から、座学が始まる。内容は歴史とダンジョン関連ばかりになる。特待生ともなれば、言わばエリート中のエリートだ。
ダンジョンの精鋭とも呼べる生徒なんだが……正直言って疑問も残る。
分厚い教科書をパラパラとめくる。俺にとっては成績なんてどうでもよく、この時間は暇でしか無い。
実技訓練もあるのだが、そっちも同じようなものだ……実際にダンジョンで過ごしていたほうが、ここでぼんやりとしているよりよっぽど有益な時間になる。
貴族にとって優先すべき問題はダンジョンとの対決だ。例え女だろうと、屋敷でのんびり構えているだけではない。姉上も母上も当然それなりの強さを有している。
ダンジョンにより魔物の暴走に抵抗するには、貴族と冒険者達の力が必要になる。
これは、セドラの授業で何度も聞いた話であり、父上からもその話を教えられた。
シナリオの終盤に、魔物の暴走が発生する。その対策のために学園に保管されている禁書を発見してしまう。
魔物の暴走が発生した場所こそが最終ダンジョンであり、ラスボスが封印されていたところになる。
ゲームの設定上では、これまでの歴史でも登場しているはずなのに、やはり教科書では書かれていない。
ここで一つの疑問が浮かんでくる。
それは、現時点で唯一その場所を知っている俺が、発生する前に暴走を食い止めた場合はどうなるのだろうか?
あのイベントは、マップの追加だけで今から行こうと思えばいけるのかもしれない。
「ふぁっ。すみません」
物思いに耽って、授業を眺めていると本当につまらない。だから、つい欠伸が出てしまった。
やれやれ、これでまた不良王子に絡まれそうだ。標的にされたようだな。
あそこにいるのはレフリアとハルト……それにミーアか。
ミーアと並んで座っている男女。レフリアはミーアと幼い頃からの知り合いで、プレイ時では初級ダンジョンから強制的にパーティーに参加させられることになる。
レフリアは万能型で序盤はいいが、中盤以降かなり辛くなっていく。
仲間からようやく外せるようになって喜んだっけ。
一方ハルトの魔法は自己能力上昇のみだが、アタッカーとしてどのキャラよりも強い。
魔法耐性もそこそこで、欠点はMPが圧倒的に少ない。
強化魔法は持続型で、ターン毎に消費していくため常時強いというわけでもない。
あの不良王子。何でああなのかは別として、王子特性でもあるのかそれなりに強い。
レフリアと比べて、回復魔法はなくなるが防御面がとんでもなく優秀だった。
後半にもなれば、元のHPの高さもあるし、王子専用装備で更に耐えられるようになる。
ミーアを庇わせておけば、終盤では攻撃面で悪くはなるものの安定した回復が可能になってくる。
俺が使っていたメンバーは、ミーアとアレス。ハルトに王子だった。
とはいえ、現実世界となった今、四人が最大パーティーということもないと思う。
そんな事を気にするだけ無駄でしか無い。俺のような奴とパーティーを組みたいという馬鹿もそうそう居ないだろう。
このクラスからは、あのアホ王子に目を付けられてもいる事で、単機になれる分さっきのはある意味得だったのかもしれない。
「今日はここまでだ。午後からは実技だからな」
「「「ありがとうございました」」」
昼休み……まあ、食って寝るだけなんだが。一人こっちに近寄ってくるのが安定の不良王子。
今度は一体何の用なんだ?
「お前、授業の妨害しただろ」
予想通りに来るなよ……本当に授業のことを気にしていたのなら、感心するのだが。
こいつは間違いなく、ただ俺に対して難癖をつける事しか考えていない。
さっきの行動で、大半の生徒は危惧している。
周囲に取り囲む生徒たちをかき分け、別のクラスの生徒がやってきた。
「殿下。そのような輩を相手している時間はありませんよ?」
「ああ、お前か……そうだったな」
「皆も殿下が来られるのを、首を長くして待っております」
「豚。今回は見逃してやる」
変に下手に出ている辺り、こいつは碌なこと考えていなさそうだな。
それに昼休みに何をするつもりなんだ?
王子は手下に案内されるように教室から出ていった。
王子の次はミーアか……昼休みにやることなんて一つだよな。
「アレス様。ご一緒にお昼はいかがですか?」
「悪いが遠慮する。やることもあるから」
「はい、分かりました。それでは、夕食はいかがでしょうか?」
「は?」
女の子が誘ってくれるのは嬉しいけど……一体どうしたんだ?
ミーアは最初の頃だと、アレスとの会話は最初だとあまりできないでいた。しかしだ、断られたからと言って、次の約束まで話すという選択肢などあり得なかった。
それなのに、ミーアは夕食をも誘ってきたのだ。
回想の中で、俺達の出会いは婚約者として、親から決められた日になっているはずだった。
子供の頃の出会いが、ゲームの設定に影響を与えシナリオに変化が出ているということだろうか?
「調べたいことがあるから、勘弁してくれ」
「そうですか、申し訳ございません。また日を改めます」
気になることはあるが、調べられるようなものでもない。
それよりも、笑って頭を撫でるとか以前のようにして上げたらと思うあたり、何とも女々しい話だ。
ミーアとの婚約解消は必要なんだ、とあれ程思っていたのに……何でこの程度で、ミーアから視線を反らし勝手に後悔をしているんだよ。
「悪いな」
「え?」
俺達の間に一人の女生徒が割り込んできたのが、ミーアの親友であるレフリア・ルーヴィアだった。
両手を広げミーアを庇うように立ちふさがっている。
赤い髪を束ね、凛々しい顔と鋭い目つきは俺を睨みつける。
「あんたがアレス? アレス・ローバンなの?」
「一応さっき自己紹介しただろ。ルーヴィア嬢、そちらはバセルトン公爵家のご子息様」
ハルトは困った顔をしつつも、振りあげたレフリアの手を掴み抑え込んでいた。
叩かれても当然だから、ハルトが止めなかったとしてもそれはそれで諦めている。
馴れ合うつもりはないしな。
今のレフリアはゲームと同じように、アレスを嫌っている。
「行くわよミーア。こんな奴を相手する必要なんて無いわよ」
「リアそういう事を言うものじゃないよ。ごめんねアレス君」
「いえ、構いませんよ。バセルトン様」
「ハルトで構わないよ。僕もアレスって本当は呼びたいからさ」
ハルトの気さくな感じは変わらない。
レフリアと、ハルトの二人はゲームと何も変わらない感じがする。となると、俺は王子様に対して何かやったというのか?
しかし、王子に会ったのは今日が初めてだよな?
だとするのなら、初等部にアレスが居なかったことで、シナリオに変化が出ているのかもしれない。
言い訳にもなるので、図書室へ行き適当に何冊か借りると自分の部屋に戻った。
遅めの昼食は、高カロリーの魔獣肉。
それを食べながら読む。
午後の授業になり、気のない実技を繰り広げられる。
そんな中、一際気になる女性が居た。悪役令嬢であるラティファの存在だ。
仲間にならないから分からなかったが、かなりの魔力があるように見える。あの王子の婚約者だけのことはあるのか?
銀髪は一緒だけど、サラサラのストレートになっているのは驚いた。
そしてもう一人、パメラ・ストラーデ。光魔法を使ったことでようやく思い出した。
他のヒロイン選択した場合、パメラを仲間にすることは出来ないようになっており、それも主人公的な存在だからだろうか?
「アレス様は魔法が得意ではなかったのでしょうか?」
ミーアにも困ったものだ。その話をしてくるの? 実技は相変わらずの消える火球を使っていたのだがな……もしかして、魔法が得意だということを知っているのか?
それとも、彼女の性格からして放ってはおけないのだけか? 遠ざけてもこうして近づいてきて、昔と変わらない笑顔を何度も見せてくれる。
頼むからそんな笑顔を見せないでくれ。そんなことを思いつつも、話しかけてくれることを期待していたのだろうか?
「見ていただろ? あれで何処が得意だと言えるんだ?」
「では私と一緒に……頑張りませんか?」
「あのなぁ。俺だって何でこんなクラスかわからないんだ。実力がないものは淘汰されるべきなんだよ」
俺の発言で、ミーアは沈み変わりに王子様が高笑いをしていた。
「よく分かっているじゃないか。豚野郎はどうせ来月には居なくなるんだ、ミーアと言ったか?」
「は、はい。べファリス殿下」
お辞儀する彼女を見下ろしていた。自然と手に力が入り、魔力が溢れそうになっていた。
ただ見下ろすだけなら俺は何も思わない。こいつはミーアを下卑た目で品定めしていやがる
できることならミーアの前に立ち、あの視線を阻害してやりたい。
「ふーん。悪くないな。まあいい、お前はそうやって影でコソコソしているんだな」
「もとよりそのつもりですよ。殿下」
王子が居なくなったことで、ミーアは胸をなでおろすと再び俺の方へと向いている。
俺に突っかかるのは容姿が原因だとは思うが、いくら何でもおかしい……何か別の要因があるのだろうか?
そもそも何でああなったのかね。
「アレス様。では、実技の練習をしましょうか?」
「わかったよ」
気乗りはしなかったが、俺がそう返事をしてしまい。ミーア大先生による講義と実技が始まった。
これはこれで楽しかったけど。じっと見ていただけなのに、そんなに恥ずかしそうにされてもこっちが困るのだが?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます