第14話 アレスとミーアの再会

 クラス選定試験がようやく、終わったのだが……何の用か分からなかったが、俺はとある人物から呼び出され誰もいない別の闘技場へと移動させられた。

 闘技場の第二会場なのか?

 しばらく一人で待っていると、奥からは一人の老人がやってきた。

 服装からしてここの教師だろうか?


「お主が……アレス・ローバンかね?」


「はい。そうですけど?」


 俺を完全に知っているわけでもないのに、なんで呼び出す必要がある?

 あと人払いまでして何を言うつもりなんだ?


「君の試験、見させてもらったが……あれは、どういうつもりかね?」


「どうとは? 仰っている意味が、分かりかねます……試験を見ていたのならお分かりかと思いますが?」


 そうか、見たことがあるとは思ったが……この人は、入学式の時にいた学園長じゃないか。

 もしかして、あまりにも酷い結果に入学すらさせないということか? そうなったらなったで、色々と面倒なことにもなりそうだしどうしたものか。


「お主のような者が、最低クラスに留まるよりも、特待生としてその力を発揮しようとは思わなかったのかね?」


「試験を見ていたのでしたら……」


「その歳でダンジョンを攻略した者が、あんなお粗末を装う、それは何のためかね?」


 そういうことか……余計なトラブルにならないようにと、父上に口止めをお願いしていた。

 それなのになぜ学園長がこのことを知っているんだ?

 というよりも考えるまでもないか、俺との約束は反故にされたというわけか。


「何故それを?」


「口止めをしていたようじゃが、ダンジョンを攻略すれば、当然国王に報告する義務がある……分かるな?」


「あまり面白くないでしょうね。こんな豚野郎が攻略者っていうのも」


 そう言うと持っていた杖で胸を少し押された。


「そう僻むな。ローバン公爵様は誰にも言っておらん」


「ならなんでお前は知っている?」


「こりゃ。お主は全く、何という顔をしておる。お主のことを話に来たのはお主の兄じゃよ」


「兄上が?」


「それはきっと、お主がこうすると思ってのことじゃろ? 話を聞いて正直ワシも信じられなんだ」


 兄上が話をしていたというのなら、学園長だけに留まるとは思えない。

 つまり他の人間にも伝わり、俺の学園生活はあまり良くない可能性が出てくる。


「それでも、家族の者が不当な扱いを受けるのが我慢できなかったのだろう」


「不当? 事実だろ? こんな豚野郎がダンジョン攻略者だなんて笑えるだろ。せっかく姿通りにしようっていうのに兄上ときたら……困ったもんだ」


「よさぬか、自分を卑下するものではない」


「卑下じゃない、事実だと言った」


 俺がそういうと、細めていた目つきが変わり、同時に魔力を溜めているのを感じた。即座にシールドを展開し、距離をとった。

 一体何をするつもりだ? 学園長自ら俺を試すつもりでいるのか?

 シールドを展開した段階で、魔力の反応もなくなり、嬉しそうに笑っていた。


「この程度のことで、それだけ動けたのは恐らくお主だけじゃろう。お主のことを知っておるのはこのワシだけじゃ。安心するがいい」


「それを信用しろとでも?」


「家族を邪険にするものではないぞ。お前にとっては気にならないことでも、家族が馬鹿にされていい気分にはならんだろう」


「それを兄上が……それは無理な話だろう」


「だからワシなのだろう。ワシだけはお主を、正しく見てやれる。お主に何かあれば何時でもいいに来るといい。できる限り力になろう」


 学園長はそう言い残して闘技場から出ていった。

 兄上はどうして学園長に、わざわざ伝える必要があったんだ? 馬鹿にされるのはもう仕方だないだろ?


 ミーアとの婚約破棄のために、まずは外見から嫌われるために俺は太るように食べ続けた。

 これまでにも何度か、誘いはあったが全て無視をした。当然セドラからは怒られたし、父上たちからも色々と言われた。


 そんな煩わしさから逃げるように、ダンジョンの奥へとこもり続けた。このゲームで生き残るには強くなる必要がある。

 それを言い訳をして、ひたすら今まで逃げてきた。


 それなのに……兄上は俺を未だに見捨てるつもりはないのだろうか?


 学園での生活は寮で過ごすことになる。

 多くの生徒は三人部屋が多い。俺のことを考慮したのか、あるいは公爵家だからか分からなかったが、用意されていた部屋は相部屋でもなく少し広い一室を与えられた。


 家具もなくただの壁と床。トイレに風呂、簡易キッチンもあるので、まるで前世の頃に姉さんと暮らしていたアパートのようだった。

 寮でありながらも、完全なワンルーム。共同で使うとしたら、食堂ぐらいなものだ。


「あー、やっとおわった。」


 俺は何もない部屋で仰向けになり、今日は何もする気が起きなかった。

 多くの生徒は、家から持ち出してきたり、この王都で家具を手配しているのだろう。俺には収納があるので家具の必要はない。

 寝るにしても、ここの床ならダンジョンで寝るのとあまり変わらないので問題にもならない


 俺はローバン家でもはや不要な存在だと思っていた。使用人たちからも嫌われているし、セドラだけは相変わらず俺専用執事を貫いている。

 それなのに兄上は俺を気にかけてくれていた。


 その理由と、俺という利用価値が何処にあるのかを考えていた。

 夕食まで、時間があるが、特に何かをすることがない。だから、時間が来るまでぼけっと床に寝転がっり思い耽るしかなかった。


 これからの事を考えようにも一ヶ月は何も出来ないに等しい。

 そんな中、扉からはノックの音が聞こえた。

 放っておけばそのうち居なくなるだろうと思っていたが、一向に鳴り止まない。

 しぶしぶ体を起こして、ノブを回す。


「はいはい。今開けますよ」


 ドアが開くと、目の前にはさっきちらっとだけ見たミーアの姿があった。


「お久しぶりです。アレス様」


 しつこくノックを繰り返していたのは、予想すらしていなかったミーアだった。

 俺の姿が見えたことで、あの日のように……笑顔をみせてくれた。その笑顔で、王都に来ていた日を思い出していた。


 しかし、なぜここに?


 ああ、そうか。寮長に聞けば教えてくれるか……とは言え、俺だとは流石に気がついていないだろう。

 男子寮と女子寮と分かれてはいるが、パーティーの縛りはないので男女で組んだりすることがある。

 当然、話し合いもあったりするため、夕食までなら行き来しても問題はない。夜間ともなれば話は別になるのだが。


「ええっと、アレス? 私はカインといいまして」


「こちらのお部屋は、アレス・ローバン様のお部屋と確認も取れております。もちろん、お一人部屋ということもお聞きしました」


 自信満々に答え、少しだけ胸を張っているようにも見える。これが偽名を使うというのは承知済み?

 もしかしなくても気づいていたのか? こんなだぞ? 正気なのかミーアは……いやいや、そんなことはないだろ。


「ああ、アレス君だね。校舎の方に何か見ておきたい物があるって……でかけているよ」


「アレス様。改めましてお久しぶりにございます。お元気そうで何よりです」


 俺の嘘を無視して、ミーアは挨拶をしてくる。

 あの頃と同じように、屈託のないその笑顔から俺は目を逸らすことしか出来なかった。

 一体何処まで想定済みだったのか……これも兄上が何か言ったのか?

 これ以上嘘をついたとしても、彼女は一歩も引きそうにはないと思った。


「俺が悪かった、降参だ。それで俺に何か用なのか?」


「先ほどアレス様をお見かけしたのですが、何も仰って頂けなかったので」


「それは悪かったな。見てなかったんだよ……」


 そう言ってミーアと視線が合ってしまい、ミーアはクスと笑っているだけだった。

 ゲーム画面で見ていたよりも、すごく好みですなどと言えるはずもない。

 俺の嘘も、さっきバッチリと目があっていたのだから、バレるのも当然だよな。


 正直に言って、こうしているだけで心拍数は跳ね上がり心音が聞こえるんじゃないのかと思ってしまうほどだ。

 あの時に感じていたことといい、やっぱり……いつの間にか本当に恋をしているのを思い知らされた。

 しかし、これはアレスか俺かという疑問は残っている。


「そうですか……あの日、アレス様が仰ったように、私はアレス様に見合う淑女になりましたでしょうか?」


 スカートを広げ、軽いお辞儀をしているが、スカートを持つ手は少し震えていた。

 俺は仮にもミーアの婚約者だ。だが、ミーアがどれだけ美しく成長しても、俺がこんなであることは変わらない。


 婚約者というだけで、会いたくもないのにわざわざここまで来たのだろう……震える手からして、目標であった嫌われるという点については成功したのかもしれない。

 それ程までに俺を嫌う彼女には、後少しだけ嫌われる言葉を投げかけるだけで、婚約破棄の話が出るかもしれない。


「ミーアが俺に見合う? 冗談はやめてくれ。そんな事を言うためにわざわざ出向いてきたのか? それとも今日は久しぶりに顔を見たいというか? だったらもう見ただろ。もういいか?」


「はい。すみませんでした」


 ううっ、心が痛い……しかしこれは必要なことだ。

 そのガッカリとしているのは、演技なのだろうか?

 覚悟を決めていたはずなのに、ここまで来ておいて俺の意志も思っていたのより弱い。それは、ミーアの前だからそう感じるのだろうか?

 扉を締め念の為に鍵もかけておいた。

 

 そのまま床に座り込み罪悪感にとらわれていた。

 何をやっているのだろうと、今まで何をやっていたのだろうと後悔すら付きまとう。

 ミーアの為にそう信じてきたのに、たった一度こうして会っただけでこの有様。


 夕食が終わり、部屋の入口に設けられた書簡入れに一通の手紙が入っていた。

 クラスの案内であり、俺は望まない特待生として名前が書かれている。

 クラスメイトの名前も乗っているのだが……ゲームには逆らえないということだろうか?

 見覚えのある名前がずらりと並んでいた。

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