ラカトリア学園 高等部
第13話 アレス・ローバンという名の落ちこぼれ
父上の試験に合格した俺は、あれから三年間。
俺は毎日ダンジョンに通い幾多の魔物を討伐していた。
最初こそセドラも一緒にいたのだが、三ヵ月もすれば俺一人での行動が許された。
レベルアップの感覚というものは無いが、一層の魔物も一週間、一ヶ月と過ぎていくと、余裕だと感じる。
体感的にはゆっくりとしたものだったが、確実にレベルアップをしていた。
三層目に行くと、魔物にも変化が現れ同じ魔物でも一層よりも少し強い。ゲーム的であり、自分の強さの実感が何より楽しかった。
ダンジョンにいる魔物をひたすら倒し続けた。土魔法で壁を作り、エアシールドで完全に外部との音を遮断することで、ダンジョンでも寝られるようになった。
一週間ぶりに帰ると屋敷では大騒ぎになった……父上と母上に何時間にも渡り説教もされた。
どれだけ安全なのかを確かめてもらうために、父上と二人で三日ほどダンジョンでのピクニック? のようなこともした。
そして、今から二ヵ月前に、おそらく最年少でのダンジョン攻略を果たした。
大抵は最下層にダンジョンのコアというものがあり、これはゲームでも存在していた。一部のダンジョンのみ、コアを破壊することで様々なステータスが、ランダムで上がるからこれもロードの対象になる。
今はそんな事はできないので、コアを破壊すればダンジョンは消滅するので高等部入学のギリギリまでダンジョンを残していた。
ステータスが見れないため、今の実力が測れないのがもどかしくもある。よく分からないけど、レベルは推定四十近くはあるとは思っている。
ゲームの設定と少し違っていたのが、索敵というコマンドがないため。あの強者が存在していないことが何より助かった。
あんなのが出てくるとひたすら逃げるしかなかっただろうな。
無事にダンジョンを攻略できた俺は、本編開始であるラカトリア学園の門をくぐった。
ローバン公爵家の次男である俺は、様々な生徒からの注目を浴びていた。
ある生徒は、隣りにいる生徒に耳打ちをし、ある生徒は俺を指差し何かを言っていた。
歩くだけで、生徒は俺を避け道を譲ってくれる。
「おい、あんな奴初等部にいたか?」
「俺は見たことねぇぞ」
「大体何処の家なんだ?」
注目されるように真ん中まで来ると流石に聞こえてくる声もある。
しかし、驚くのも無理はない、なぜなら……
顔も頬も丸く、なによりも笑う顔は犯罪者。
鍛え上げられた手足は、大木のようにふっくらと柔らかい。
極め付けが、鍛えに鍛えぬいた憧れのワンパック。
あれから身長も伸びたが、横にもかなり広がっていた。女子からの悲鳴にも似た黄色い声が聞こえなくもない。
さすが乙女ゲームの世界だ。俺以外誰もデブはいないし、モブだとしてもそれなりに美男美女揃いだ。そんな中にデブは確実に醜態として忌み嫌われる。
俺はこの世界で究極の肉体を手に入れたのだー!
などと、ダンジョンコアを破壊して地上に戻った時に叫んでいたが、今思うと痛々しいな。
アレスは元々魔法タイプということもあってか、ダンジョンでは剣を使わずに魔法ばかり使っていた。
だから、太っていても戦いには何も問題はない。ブレイブオーラとそれなりに鍛えてもいるから対して問題にもならない。
太った理由は、ミーアとの婚約解消のために食べ続けこの体を作った。
学園で久しぶりに出会うことでミーアに幻滅してもらい、安全な位置を確保しつつ、さっさとラスボスを倒そうって話だ。
今の俺では当然、ラスボスと戦えるレベルじゃないから、まだ魔物を討伐してレベルを上げておく必要がある。
危険がないようにミーアを影から守っていれば死ぬこともないし、俺は俺で好きにやっていける。
「何よあれ……醜いわね」
「レフリア様。そのような事を言ってはダメですよ」
「何言ってるのよ。いい? あんなのに近づいたりしたら、ダメなんだからね?」
「えっと、わたしは……アレス様がいらっしゃるので」
だが、ミーアは未だにあの憧れを抱いていたのだ。
クーバルさんは何度か見に来たことはあったが、この体型を見られたがこれと言って悪く言われることはなかった。
皮肉な事にダンジョンの攻略を進める俺は、どちらかといえば期待をされていた。
それとなく破棄の提案をしてみたものの、烈火の如く怒られた。というわけで表面上は俺達の婚約は今もまだ継続しているのだ。
「はいはい。それは何度も聞いたわよ。だけどおかしいとは思わないの? もう四年なんだよ? その間、一度もまともに会わないなんてあり得るの?」
普通に考えてありえない。それは十分わかっている。
父上たちが認めてくれないのだから、後はミーアから婚約解消を期待するしか無い。
あれだけ綺麗なのだからこんな俺とは不釣り合いだろう。
「アレス様は、お忙しくされていただけです」
「初等部を飛び級してやることってなんなのよ?」
「それは……」
入学式が終わり、俺達一年生はクラス分けのために校庭で待たされている。
一瞬目があったような気がしたが、彼女たちの様子からして俺がアレスだということは気がついていないようだ。
接点を無くし、あとは婚約を破棄して貰う。それが今の目標だ。
「アレス様はきっと何かのお考えがあってのことかと」
そう言って、首にかけられたネックレスを手にとっていた。
あの指輪……まだ持っていたのか。そんなことを思いつつも、嬉しいと感じる自分に、嫌気が差してくる。
ゲームと同じように美しく成長した姿に目を奪われただけでなく、まだ俺のことを気にかけてくれることに思いが溢れてくるのを感じてしまう。
しかし、現実を見ていないミーアが、今の俺を見ればきっと失望するだろう。
俺がミーアに惹かれるということは、それだけミーアを危険に晒すことにも繋がる。
「それでは、クラス分けの能力検定だ」
「男子は武技を始める。女子は魔法だ。各自試験会場へと向かいなさい」
学園では、能力を図ることでクラスを分けているのか。こんなことはなかったから俺はどうすればいいのだろうか?
本気を出せば、間違いなく特待生。ゲームではこの特待生にいるクラス連中の話だから、それはそれで面倒事にもなる。
だとすれば、俺が選ぶのは最低クラスがいいだろう。成績がどうであれ、サボったところでまあ所詮その程度。
そんな出来の悪い生徒の話も極たまに聞く。
見た目からしてもそれが一番お得なポジションだ。
「彼女の強さを見たいところだったけど。仕方がないか」
確か武器はレイピアだったか? 主な魔法は火と回復魔法だったな。主に回復補助ばかりしていた記憶が蘇る。
この世界において、回復魔法というのは思っている以上に使えないことが分かった。
それは常時型の魔法だったから……この言い方が正しいのかはわからない。
魔法には三種類。発動、設置、常時と分かれていると思う。
発動は、魔力を込めて魔法を放つ、エアスラッシュやアイスニードルがこれに当たる。
設置は、決められた場所、武具の付与、他者にかける補助魔法の大半はこれに当たる。ゲームのデメリットとして、他者に掛ける場合は多くの魔力が必要となる。俺の場合一人でいるから特に気にする必要もない。
常時は、使用中は常に魔力を消費する。この魔法は一番魔力効率が悪く、自身にのみ使われるものが多い。
例外として回復魔法もこれに当たり、ゲームのように瞬時に怪我が治るものじゃない。怪我の痛みを和らげ、治癒を促進させていくというのに近い。
つまりゲームで使えるから優秀とはこの世界において正しくはない。
ターン制だったから使えるもので、この世界だと上級魔法にもなれば発動するまでに時間がかかる。
回復魔法は、それ以上に時間がかかり、効果もあまり期待ができない。
なので、回復は魔法というよりも、飲めば少しずつ回復するポーションのほうが主力と言える。
「次、アレス・ローバン」
「はい」
「何だアイツ。あんな体で動けるつもりなのか?」
「いい見世物になりそうだな」
「あんなのを相手にする先生が苦労するぜ」
言いたい放題だな。でも、これで最低ランクを狙うほうが今の俺にはあっているだろう。
剣を構えるが、教師の方もやる気をそがれているみたいだ。
相手は槍。どうしたものか……
「お願いします」
「好きにかかってこい」
俺は言われたとおりに、そのままゆっくりとした走りで大振りをすると、剣は弾かれ俺の手から離れていた。
こんな芸当、早々できるものじゃなかった。それでも、周りからはゲラゲラと笑っている生徒、罵る言葉を吐き蔑む生徒。
本当にいい見世物だろう。
そのほうが俺にとっても今後を考えると有り難い。教師も失望しているようで、彼らに対しては何も言うつもりはないようだ。
「参りました」
「はぁ。次!」
そりゃため息も付きたくなるだろう。何度か絡まれたりもしたが、ローバン家の名前を出すと途端に去っていく。
家に迷惑を掛ける事はしたくもないが、あんなに鬱陶しいのを相手にするだけ時間の無駄だ。
一通りが終わり今度は魔法の実技へと変わる。
「剣はあれだったが、魔法でもダメじゃないのか?」
「そりゃ当然だろ?」
「どうなんだろうな。魔法ばかりやっていただけかもしれないぜ。魔法書見ながらずって食っていただけかもしれないけどな」
それに関しては、ぐぅの音も出ないな。食べながら見ていたのは事実だし。
それでも屋敷の使用人に迷惑がかからないように、鹿や猪の肉ばかりだったけど。
肉は焼いて塩、それだけでも普通に食べられる。最初は、あのまんが肉を再現しようと作りまくっていたっけ。
まあ、最初は料理長のニックにやって貰っていたが、俺も内蔵処理を教えてもらい今では一人でも捌ける。
「んじゃま……こんなものか?」
指先に火球を作り出し、できるだけ威力を抑えていく。
的を目掛けて放った火球は的に当たる少し手前で消えてなくなる。
これはある意味高等技術だ。
一般に使われる火球、ファイアーボールだったが、さっき使ったのは攻撃用ではなく、こういうための消える魔法でしか無い。
「うーむ。それで本気かね?」
「はい、そのつもりです」
「まあいい。次」
魔法を消すなんてそうそうできるものではないが、ギャラリーにはなかなかの好評のようだった。
殆どの生徒が笑い、呆れている表情をみせていた。
つまり俺の評判はかなりいい方向へと向かっているのを実感していた。
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