#25 正座する容疑者


今、昼休憩中。


私とアキちゃんは、タローくんが戻ってこないので、仕方なく二人で空き教室でお弁当を食べ始めた。



その時、扉がガラっと開いて奴が現れた。


「サナマリ~、ほっぺが痛いよぉ~、殴られたところがちょー痛いよぉ~、慰めてくれよぉ~、いっぱい甘えさせてくれよぉ~」と猫撫で声で私に抱き着こうとするタローくん改めタロー容疑者が。


私は腕組みをした姿勢で一言

『とりあえず、そこに正座』


私に甘えるつもりだったタロー容疑者は、私の声と視線が絶対零度の冷たさだったことに恐怖したのか、大人しく黙って床に正座した。



『で、この時間まで職員室で取り調べ?おかしいわね、私たち心配になって休憩の時、職員室まで様子見に行ったんだけどね?タローくんもう居なかったよね?んん?どういうことかな?心配してるカノジョ放置してドコでサボってたのかな?おぉん?』


「いえ、あの、その、2限中に開放されたんですが、保険室に行ってまして、その、保険の先生がジャッキーチェンの信者でして、はい・・・・」


『あぁ?ジャッキーがどうしたってぇ!?どうして戻って来るのが遅くなったのか聞ーてんのよ!』


「あの、サナマリさん落ち着いて下さい。だから保険の先生がジャッキーチェンの信者でして、今のカンフー映画界を嘆いている訳でして、それで色々と愚痴を聞かされまして、それから興奮した先生に酔拳の特訓やらされそうになりまして、先生、徳利を持ち出して本格的に実演しだすんですよ。え~っとそれで最終的に先生のことを老師と呼ぶことになりました」


『だーかーらー!なんでこんな時間まで保健室でサボってんのよ!酔拳ってなによ!老師ってなんなのよ!意味わかんないのよ!』


「えっと、酔拳というのはですね、酔うほどに強くなる拳法でして、老師というのはカンフーでの師匠のことですね、ハイ」


『だーーかーーらーー!』


「マリちゃん落ち着いて! タローくん、マリちゃん本当にタローくんのこと心配してたんだよ。もっと解るように説明しないと! 私はジャッキーチェンよりもサモハンキンポー派よ。燃えよデブゴンシリーズは全て網羅したわ」


『キィィィィl!アキちゃんまで訳わかんないこと言わないで!もう何なの!頭がおかしくなりそう!?』


「落ち着けサナマリ。簡潔に言うと、殴られたところ冷やしに保健室行ったら、保険の先生に捕まって、この時間まで解放して貰えなかった、ということだ」


『だったら最初からそう言いなさいよ!!!』


ということで、何とか冷静を取り戻して食事を続けた。

当然、容疑者は正座のままだ。







しばらくすると、空き教室に別のクラスの男子が現れた。


「よー、タローここに居たか~、ってなんで正座!?」


「佐伯おいっすー、日曜ありがとーな、そんでなんか用事か?」


「お、おー、今朝の暴力事件にタローが関わってるって聞いて、面白そうだから本人に話聞きにきた。日曜の電話の件と関係あるんだろ?」


「その話なー、相手の処分が未確定だから確定後でもいいか?明日の放課後とか」


「おっけ、んじゃ明日また来るな。彼女さんたちお邪魔してごめんね」


と言い残し、去っていった。

彼は、佐伯くんといってタローくんとは中一からの友達らしい。

タローくん曰く「タロー'sコネクションの若頭ポジ。三国志で例えると夏侯惇」とのこと。意味わからん。





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