#24 酔拳使い、現る
二人がドナドナされた後の教室は若干ざわついてて重い空気が漂っていた。
最近色々あったせいで、みんなウンザリしているんだと思う。
それもこれもあの女のせいだ、と思いウルフ吉川へ視線を向けると・・・めっちゃコッチ睨んでるし!
ちょーコワイんですけど!頼りのタローくん居ないのに、どうしよどうしよって思って、隣にいたアキちゃんに小声で相談。
『ちょいとアキさんや、ウルフ吉川めっちゃコッチ睨んでるんですけど』
「下僕のナルシス山川がタローくんに返り討ちにされて、怒り心頭なんだろうね。てか、さっきのタローくんの顔・・・・くぷぷぷ」
『ちょっとちょっとちょっと!笑い過ぎ!あんなのでも私のカレシなんですけど!?私だって必死に笑うの我慢してたのに思い出しちゃったじゃない!』
そんな小声のやり取りがキャッキャウフフと楽しそうに見えたらしく、ウルフ吉川は顔を歪ませ黙って教室から出て行った。
私が『こえぇ』と思わず声を漏らすと、アキちゃんは「タローくんの変顔、写メ撮っておけばよかった」とトンチンカンなことを呟いてた。
ウルフ吉川は、その後教室には戻って来ず、しばらく学校にも来なかった。
* * *
一方その頃、職員室ではタロー無双が続いていた。
『先生!僕被害者ですよ!?山川が女の子を殴ろうとしたから止めただけですよ!酷くないですか!?これってショーガイ事件じゃないですか!ケーサツ呼びましょう!エエ速やかにツーホーしましょう!あぁ殴られたところが痛い、とっても痛い、痛くて痛くて死にそうです。ケーサツよりも先に救急車呼んで下さい。早く呼ばないと僕死んじゃう。先生、お願い、救急車、早く、呼んで!あとツーホーも』
とここまで早口で捲し立てたところで、学年主任に物理的に口を封じられる。
ナルシス山川は、職員室では無く別の生徒指導室にて担任より取り調べを受けていた。
職員室にいる教師たちは皆、タローには同情的であったが、そのタローがあまりにも五月蠅い為、タローの相手をするのが面倒になっていたのだ。
学年主任より「大森もう教室戻っていいぞ。あと保健室に行って殴られた所冷やしてもらってこい」と言われ解放された。
既に2限目が始まっていたが、タローは教室に戻らずそのまま保健室に向かった。
保健室では養護教諭に殴られたことを伝え、氷嚢を貰ってそのまま保健室に留まり患部を冷やしていた。
鼻血は既に止まっていた。
タローは他にすることが無いため、ぼ~っとしていたのだが、養護教諭の使っているジャッキーチェンのクリアファイルが目にとまった。
『先生、ジャッキーチェン好きなんですか?僕、ジャッキーチェンと言ったら、酔拳と蛇拳が好きでした』と話しかけると、養護教諭の目ツキが変わった。
「タローくん、あなたはコチラ側の人間だったのね。ええ、そうよ。先生も酔拳を見てチェン様の信者となったのよ」
『は、はぁ(ヤベ、変なスイッチ入ったぞ)』
「タローくんは、最近のカンフー映画をどう思う?先生は今のカンフー映画界はもう終わっていると思うわ。チェン様が活躍された70年80年代のホンコン映画全盛の様な時代はもうやって来ないのかしら。タローくんどう思う?ねぇタローくん、先生ともっとチェン様の魅力とカンフー映画界の未来について語り合いましょ」
養護教諭はジャッキー・チェンの魅力を多いに語り続け、今のカンフー映画界を嘆いた。
そして興奮した養護教諭は「タローくん、酔拳覚えましょう!酔拳使えればもう殴られたりしないわ!大丈夫、先生子供のころに映画見て必死に練習してマスターしたから今でも酔拳使えるのよ!」と言って、ロッカーから徳利を取り出し、白衣のままタローの前で酔拳を実演し始めるのだった。
4限終了のチャイムでようやくタローは解放されたのだが、
「今日はヘビが手元に無かったから出来なかったけど、次までに用意しておくから今度は蛇拳の特訓よ!そしてこれからは私のことを老師と呼びなさい」と養護教諭改め老師のスイッチは入りっ放しであった。
タローは老師に向かい、カンフー映画で見た挨拶(グーとパーを合わせてお辞儀)をして保健室を後にした。
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