21.モンスターの進化


 《デルモル》を捕まえてからはや三日。

 この三日間で僕のテイムしているモンスターたちは数々の進化を遂げていた。


 まず、この三日間の間に何をしたかというと、ずっとダンジョンに潜っていた。

 最初に入った森のダンジョンが《ウルフギャング》にも《デルモル》にも相性が良かったので、森のダンジョンに何度も潜っていた。

 その間に出てきた新階層のモンスターはとりあえず置いておいて、なんと《スライム》から進化したのが三種類現れた!


 まず最初に進化したのは、『かたい素材を好む』、『良く打撃を受ける』、『攻撃が出来ないことが問題にならない』という進化条件だった《タンクスライム》だ。

 条件は文字通りだが、このモンスターに難しいのは後者の二つだ。


 戦闘している姿をほぼ見ていないのに『良く打撃を受ける』の条件がクリアしたのはおそらく《キャロラビット》との戦闘のおかげで、『攻撃が出来ないことが問題にならない』とは、ゲームの中では《スライム》がいるときに敵モンスターに一定以上のダメージを出すことが条件だったが、現実であるこの世界ではどうしてクリアしたのかは分からない。

 おそらく攻撃役となっている《ウルフギャング》との信頼関係とかそんな感じだと思う。

 そんな《タンクスライム》のステータスはこちら。


(タンクスライム)Lv1



 HP 1000~2300


 MP 1500~2800



 攻撃 :20~100

 防御 :400~750

 敏捷 :1~4

 魔法攻撃 :20~60

 魔法防御 :400~750

 器用:20~45


 スキル 

 [自己再生]

 [身代わり]

 [打撃吸収]



 ステータスは耐久面を中心に上がってはいるものの、主戦力にはなりえない微妙な上がり具合だ。

 まあ、[自己再生]を持っているので、HP+MPが実質の耐久値だと考えればそう悪い数値ではない。良くはないが。


 その代わりに仲間が受けるダメージを自分が肩代わりする[身代わり]や名前の通りだが、物理的な衝撃を吸収する[打撃吸収]のスキルなど、かなり優秀なスキルを持っているので縁の下の力持ちになる予定だな。


 ステータスは未だに残念だが、順調に戦えるように育っている。


 さて、最初に言ったが、三日間で進化したのは《タンクスライム》だけではない。

 さらに『タンクスライムがいること』、『活動的な性格』、『一定以上のレベルと攻撃数値』という条件のもとに進化した《アタックスライム》がいる。


 本当に名前がまんまで、攻撃が得意なスライムだ。

 『タンクスライムがいること』の条件がクリアしているのは前提として、『活動的な性格』というのが謎だった。ゲームであればアイテムを使って変更が可能だが、現実ではそんな便利なアイテムは存在しない。

 1000も居ればいるだろうと思っていたが、進化している数が少ないので思ったよりも三つ目の条件は現実となったこの世界では厳しいのかも知れない。


 そんな《アタックスライム》のステータスがこちら。


 (アタックスライム)Lv1



 HP 200~450


 MP 500~850



 攻撃 :360~780

 防御 :10~40

 敏捷 :20~50

 魔法攻撃 :100~370

 魔法防御 :50~100

 器用:40~95


 スキル

 [体当たり]

 [水魔法Lv .1]


 [自己再生]を失ったのは前提条件にある『タンクスライムがいること』から問題ないとして、はっきり言って[自己再生]を持っている進化前の《スライム》よりも必要ないほどに微妙なステータスだ。

 《ウルフギャング》がいる時点で[水魔法]も得意の攻撃も必要なくなっている。


 というのが僕の個人的な意見だが、考え直してみると単純にこの《アタックスライム》が増えればタンクと合わせてダンジョンで僕が居なくても勝手に狩る速度が速くなったり《キャロラビット》よりももっと大物を狩ることが出来るかも知れないというのも事実。

 僕や《ウルフギャング》が居れば完全に必要なくなる[水魔法]も《スライム》たちを一つの群れとして見るとあるだけで安定感が変わってくる。

 それにこれ以上の進化もあるしね。


 さて、そのあとに出てくる三種類目の進化後スライムだが、これはどうやら地図を描いていた1,2,3号が進化したらしい。

 条件は単純で『器用が高い』だ。


 この条件は一見簡単でも、器用が戦闘では決して上がらない数値なのでとても大変だと思っていた。

 賢い個体は一杯いたけど、どうしてこの三体が進化したのかは良く分からない。

 違いはもちろん地図を描いたことだが、大量の《スライム》からの報告を処理していたから、とか?

 はっきりはしていないが、今度から進化させたいなら賢い個体の《スライム》に情報処理をさせようと思う。


 そんな名前を《インテリジェンススライム》というモンスターのステータスがこちらだ。


(インテリジェンススライム)Lv1



 HP 200~450


 MP 1500~4500



 攻撃 :20~80

 防御 :50~90

 敏捷 :30~50

 魔法攻撃 :70~150

 魔法防御 :80~160

 器用:400~630


 スキル

 [自己再生]

 [触手操作]

 [精密操作]


 完全に戦闘からほど遠いステータスをしているモンスターだが、何も生産しないので生産系のモンスターでもない。誰かに紹介するなら「器用なだけのスライム」といったところだ。


 このモンスターがインテリジェンスと壮大な名前を冠した割に微妙なのは全てのリソースがスキルに行ったからだと思う。

 このモンスターのスキルのうち、[自己再生]は良いとして残りの二つはなかなか優秀なスキルになっていた。ゲームではこの後にある進化先の通過点でしかなかったが、現実では思ったよりも使えるスキルになっていた。

 まず最初に《スライム》の形はまん丸の球体をしている。

 どんなに頑張っても物を持つことは出来ないし、文字を書くことは至難の業だ。ちなみに1,2,3号は地図を描くときは持とうともせずにペンを体の中に取り込んだ後に器用に体内で動かして描いていた。持つことはしていないね。

 《インテリジェンス》スライムになってからは体から同じ色の触手を出せるようになっていて、細さも自由なようだ。

 大量のほっそい触手が縫い目の荒いセーターを突き抜けている光景は《インテリジェンススライム》には悪いけどかなり気持ち悪かった。


 まあ、その《インテリジェンススライム》の登場で、もはや僕が居なくとも《スライム》の餌やりも必要なくなったし何やらダンジョンから帰った部屋の中で黙々と木を削って何かを作っていたので餌を買う資金調達すらも《スライム》の中で完成する日も近いかもしれない。


 そんなこんなで劇的とは言えないものの変化が起きた僕のテイムモンスターの中で活躍しているのはあのお漏らし種族だ。

 幸いあれ以来お漏らしをすることはなかった。

 本当に助かる。


 そのお漏らしモンスターだが、ダンジョンの中でモンスターを見つけることが出来るので、狩りの効率もマッピングの効率も段違いに上がった。

 まだ《ウルフギャング》に怯えている節はあるもののコミュニケーションも問題ないので、僕が居なくても勝手に新階層に行っても全然問題ない。


 ……やっぱりみんな僕のことを必要としなさすぎじゃないかな?

 テイムしたモンスター頼りってのはしょうがないけどさすがに資金調達の可能性を見せられるともうやる気がシュッと消えたんだよね。

 もうそろそろ《ウルフギャング》も進化しそうな気がするし、本当にもうそろそろアリシア様の庇護が消える日は近いかも知れない。


 そんなこんなで僕が森のダンジョンでモンスターを放って時間になれば回収することが日課になった。

 僕は《スライム》一体と護衛として《デルモル》を一体だけ肩に乗せてダンジョンから出た。

 ダンジョン探索に僕は必要ないらしい。むしろまだ学園で戦闘に関することを教えられていないので護衛対象でしかないようだ。


 そうして僕が居なくなってから探索速度が速まったのはいいとして、それはそれで僕の暇な時間が出来るので、何かしたいところ。

 その暇な時間に最近アリスと話してないなーと思ってやってきたのは前に聞いていたアリスとモモの住んでいる部屋。


 高そうな装飾がされているドアをコンコンノックすると「はーい」と奥の方から返事が聞こえた。


「はーい、あれ? リンだ! 久しぶり、どうしたの?」


 アリスは久しぶりと挨拶をしたけど、そんなに久しぶりじゃないはず。まだ最後にあってから三日しか……村にいたころを基準にすれば久しぶりなのかも。一日として会わない日はなかったし。


 返事をどうしよう。

 どうしたのと聞かれても用事はない。

 会いたくなったのが本音だけど、言いたくはないな。


「僕のカタクリ対策がひと段落したから、様子を見に来たよ。」


 僕がそう返すとアリスは少しだけ不満そうにした後に僕を中に入れてくれた。

 中はまだ寮に入ったばかりなので殺風景だ。


「モモはどうしたの? 寮に入るときに一緒になったって聞いたけど?」


 僕が女子寮に入ったのと同じ理由でアリスとモモは一緒の部屋になったようだ。

 あの頭のネジが狂った野郎でもさすがに女子寮に入ってくるとは思わないけど、入ってきたときの想定はしていませんでした、で被害を受けるのはおそらくアリスだ。

 だからアリスと一緒に単独で吹っ飛ばせるくらいに強いモモを同じ部屋にらしい。アリスは頭が良いから、もしもの時の想定が出来る。


 僕がモモのことを訊くと何やらにやにやした顔で僕を引っ張り始めた。

 このモードのアリスには嫌な思い出しかないけど、何かあるとは思えないので大人しく着いていく。


「静かにね。起きちゃうから」


 アリスがそう言ってドアを開けた。

 寝室の様な部屋に入ると中にいたのは寝相が悪く、布団をベッドの外に放り出した上に服すら脱ぎかけているモモが居た。


「うえ!?」


 思わず変な声が出て咄嗟とっさに部屋の外に出た。

 心臓に悪い。これがアリスの悪戯だったのか、これは本当にたちが悪い。あとで叱ってやろう。


 ふ―っと深呼吸をして気分を落ち着かせていると部屋の中から手が伸びて僕を引きずり込んだ。

 必死に抵抗するも、どうやらまだまだ僕の力が弱いようで簡単に中に引っ張られた。

 後で本当に怒ってやる。


「暴れないでね?」


 アリスにそう耳元でささやかれるとむずむずする。

 そうして僕がむずむずしていると僕はアリスにモモの寝ているベッドの上に投げられた。


「え! まっ!」


 そんなに僕が軽かったのかというショックと、どうしてそんなことをするのかという疑問で声が出そうになるのを何とか耐えた。

 僕を投げたアリスはベッドに僕が乗ったことを確認して部屋から出て行った。


 僕を犯罪者にしたいのかアリスめ、これじゃあ僕が寝込みを襲ったと言われても反論できないぞ。

 そうして僕がそーっとモモを見てみると、幸いまだ起きていないようだ。

 服もさっき僕が部屋の外に出ていたちょっとした時間でアリスが直したのか多少は乱れていても直視できるレベルだった。

 僕はアリスに絶対怒ってやるという使命を胸に刻みつつ、モモを起こさないようにゆっくりとベッドの上から降りる。


 よしよし、足がベッドの外に出た。後はどうにか床に足を着けて……着けて……もうちょっと体を前に出してから。

 と、僕が静かにベッドの上から降りようと頑張っていたその時。

 僕の腕が掴まれた。

 さっきまで僕を掴んでいたアリスの手ではない。

 カタクリをワンパンで仕留めた方の手だ。


「ヒィ!」


 ここで僕が悲鳴を上げたのも仕方がないと思う。

 だって僕が寝込みを襲って退散するようにしか見えなかったんだろう。だから僕の手を掴んでとりあえず逃がさないようにした。

 その時に僕にはそうとしか受け取れなかったのだ。


 だが、僕の手を掴んだその手の真意はそこに無かった。

 勢いよく引き寄せられ、体の軽いらしい僕の体は簡単にモモの近くに引き寄せられた。

 そうして殴られると目をつぶっていた僕が恐る恐る目を開くとモモはまだ寝ていた。


「ふう、良かった。寝ぼけてたのか。」


 安堵して、僕がほんの少し油断したその時。

 僕はモモの両腕で抱き締められた。

 モモもケモミミの生えた美少女で成長途中の胸部装甲はそこそこあることだろう。

 だが、僕の意識はそんなことには向かなかった。


「痛い! モモ!? 待ってそれは人形とかじゃないよ! 僕だよ、リンだよ! 僕潰れちゃう! 離して!」


 その威力はかなりのもので、かなりの数のモンスターを捕まえて強化されている僕でも痛みを感じるほどだった。

 そしてその張本人であるモモは気持ちよさそうに寝ている。

 こいつ、一体どれだけの人形を壊してきたんだ!?


「モモ!? 起きて?! ねえ!」


 出せる限界の声を出してもモモは起きてくれなかった。

 むしろその腕の力を少しずつ上げて行っている。体がミシミシ言い始めた。


「《デルモル》! こいつを起こしてくれ!」


 こうなれば僕の最終兵器デルモルに協力してもらってモモを起こすことにした。

 このままだと僕の体が危ない、頑張ってくれ《デルモル》。


 《デルモル》は僕のそんな状態は知らないので、冷静にモモのことを起こそうとしていた。早くしてくれ! 僕の護衛だろ。

 僕の思いが通じたのか、《デルモル》が両手を使ってモモの鼻と口を抑えるとモモは嫌そうな顔をして僕のことを離した。


 今度は起こさないようにとか考える余裕などなく、音を立てながらも素早くモモから離れる。《デルモル》は僕に回されていた手が離れたことを確認次第モモから離れていたので大丈夫だ。


 にしても、今回はアリスに本当に本当に怒らないと気が済まなくなってきた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る