20.洞窟ダンジョン
僕が持っているモンスターの話が終わると、もう日が遅いので寝ることになった。
当然ながら僕は男の子なので誰かと一緒に寝ることはなく、いくつかある使用人用の部屋を貸し切り状態で使えることになった。
この学園は使用人を学校内に入れることを許していないので、自分の子供と同年代の使用人をどれだけ作れるかが自慢になることもあるそうな。
その点アリシア様はメイドだけでも4人ほどいたのでカタクリとやらにはマウントが取れるらしい。
夜遅くまでメイドさんから注意事項を聞いた。
内容としては勝手に部屋に入らないこと、返事がなくてもノックをして大きな声で確認をすることなど、常識的なことしかなかったのでとても気が楽である。
ただしその中には僕がここで寝泊まりする代わりに、アリシア様に仕えるまではいかなくとも協力するための条件があった。
あとはメイドが万が一いなかった時にはモンスターを使ってアリシア様を移動させてもいいとかそんなことだ。
直接僕が運ぶことは許されないらしい。
部屋に貰った布団を運び込んで《ウルフギャング》を全て出し、今日頑張ったご褒美としてブラッシングをした。
水魔法で水を出して洗ったり、ヴォルフの手の怪我を診てみたり。
そんなことをした後に僕はみんなと一緒にくっつきながら寝た。
翌朝。
僕は部屋の隅に置いていたモンスターの素材を《ウルフギャング》に運んでもらいながら、ドーチェさんに教えてもらった販売所に向かった。
「ここかな?」
そこにはやる気の無さそうなツンツンした頭をした学生っぽい男の子がいた。
カウンターの上に身を乗り出して寝ている。
確かにまだ朝早いけど職員側がそんなことしていいの?
「あのー、販売所ってここで合ってますか?」
声をかけると、寝ぼけた表情のツンツン頭が起き上がって「ようこそ販売所へ」と言った。
明らかにめんどくさそうに義務だから仕方がないといった雰囲気だ。
なんかやりずらいけど、このモンスターの素材がお金になるなら早く終わらせよう。
「この素材を売りたいんですけど」
そうして後ろの《ウルフギャング》が持っている素材を示しながら言った。
寝不足の充血した目でそっちを見たツンツン頭は「あーい」と言ってトレイを出してきた。
素材を置けという意味だと受け取って、とりあえず僕が持っていた分だけでもそのトレイに置くとそれだけでトレイがいっぱいになった。
ツンツン頭がそのトレイをカウンターに座ったままで後ろを向いてドンっと音がした後、出てきたのは全く同じトレイ。
まさか投げたわけでは……ないはずだよね?
そんなやり取りを何度か繰り返して手持ちの素材がなくなったとき、ツンツン頭は「学生証」とだけ言って手を出してきた。
言われたとおりに学生証を出すと何やら機械っぽい近代的な装置に学生証を差し込んで何か操作をした後に僕の学生証を返してきた。
アマンダさんに最初に案内してもらったときに案内ついでに作られたこの学生証だが、これは僕の『知識』の中にある冒険者のカードの仕組みを流用しているようで、なんとなく理解できた。
お金の管理や、証明証として使えるしとても便利なものだ。
ゲームの中ではオーパーツとして管理されているらしいと説明があったが、こうして別の組織で使われているのならいくつかこのカードを作る機械があるのかも知れない。
「じゃあ日付が変わるまでに入金されるから」
ツンツン頭は伝えることは伝えたと、来た時と同じ体勢で眠り始めた。
どんだけ寝てないんだよ。
こうして僕の初めての学園での買取イベントは終わり、今日もやることはないのでダンジョンに行こうと思う。
入学園祭には今は行きたくない。
今回はメイドさんに相談したところ、有能なモンスターが出現する場所があるそうで、今回はそこに行くことにした。
アリスやモモには昨日別れてから会っていないが、きっと僕と同じようにダンジョンに潜っていることだろう。
今回行くダンジョンは僕のために作られたような都合のいいダンジョンだ。
出てくるモンスターはモグラ型のモンスターである《デルモル》。
《スライム》や《ウルフギャング》と同じで、多彩な進化先を持つモンスターだ。
(デルモル)Lv1
HP 1600~5400
MP 4800~6700
攻撃 :300~530
防御 :740~970
敏捷 :780~1000
魔法攻撃 :670~960
魔法防御 :740~970
器用:370~710
スキル
[穴掘り]
[土魔法]
[気配察知]
僕が今欲しい[気配察知]に捕まえた時から戦闘が出来そうなステータス。
しかもダンジョンの中は入り組んだ迷路のような岩でできた洞窟らしく、《デルモル》は土の中に逃げることが出来ない。
まさに今、僕が欲しいと思っていたモンスターが逃げることが出来ないというとてもいい条件だ。
魔方陣のある場所に着き、慣れたものだとその先に転送される。
気が付くと洞窟の中にいた。
後ろは行き止まりで、魔方陣があるだけ。
行き止まりではない方がきっとダンジョンなんだろうけど、どうやってこの魔方陣を設置したのかが切実に気になるところ。
ひとまず今回の目的は3階層で出てくる《デルモル》をテイムすることだ。
前回とは違い今回はメイドの姿をした先輩にどのようなダンジョンなのかを聞いている。
1階層は《カメレオンリザード》と同じトカゲ型のモンスターである《ロックリザード》が1階層に出てくるモンスターだ。
洞窟で生活する《カメレオンリザード》が森のダンジョンに出てきたような前回とは違い、今回の《ロックリザード》は本来は洞窟の中に生活してるモンスターでダンジョンも洞窟だ。
前回とは違い簡単には殲滅できないだろう。
2階層で出てくるモンスターは《ビックバット》。
蝙蝠が巨大化しただけのモンスターで、特殊なスキルや魔法は使ってこないし、ステータス的にも《ウルフギャング》が居れば簡単に勝てるだろう。
気を付けるべき点は2階層から早くも飛ぶモンスターが出てくるので、上に注意を向けないといけないことぐらいだ。
僕はこのダンジョンの復習をしながら持っているモンスターの全てを放出した。
モンスターは勝手にボールから出てくることができるのでたった一言「出てきて」というだけで大量の《スライム》と《ウルフギャング》が僕の周りの空間を埋め尽くした 。
《スライム》たちは自由行動にし、ご飯が欲しい奴らにはご飯をあげて、構ってと体当りする奴らの相手をしていると、いつの間にか1階層の地図が埋まっていた。
何も言わなくとも仕事をしていた1.2.3号を褒めつつ、残っていた《ウルフギャング》の年長組と一緒に3階層を目指す。
肩に昨日使ったMPが全回復した《ヒーラースライム》と《ウィードスライム》を乗せて準備万端だ。
出てきた《ロックリザード》をカチカチの岩のような皮に変えながら1階層に見つかった階段を目指す。
居なくなっていた年少組は《スライム》たちに付き添われながら狩りの練習をしているみたいだ。
この
いい影響かどうかは分からないが、守られる側から今度は《スライム》を守れるようになるのであればもっと楽しくなりそうだなと思った。
1階層は難なく進み、2階層へ。
この階層からは少しだけ進むのが難しくなる。
元々この階層から出現するようになる《ビックバット》は[超音波]というそれは生体じゃないのか? と言いたくなるようなスキルを持っているせいだ。
本来僕の『知識』の中にある世界にもあった能力のはずなのにスキルとして表示されているのはきっとスキルになったあとがとても強力だからだと思う。
その強力になったソナーとして[超音波]によって《ウィードスライム》の[隠密]を見破ってくるし、空を飛ぶので逃げることも難しいことからマップもほとんど進んでいない。
ここからは手探りで進んでいくとになる。
ただしこちらを捕捉し、飛び出してきた《ビックバット》も《ウルフギャング》の[連携]によって秒で処理されるので安全なのには変わりないようだ。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、《ウィードスライム》の[隠密]が効かないので1階層に置いてきた関係もあって全体の速度は心做しか速まった気がするが、それでも階段を見つけ出すには時間がかかる。
ようやく見つけた2階層への階段。
僕は2階層に女の子グループをこの階層に残して3階層に男の子グループを連れて行くことにした。
というのも2階層は年長組が居なければ通ることができないからだ。女の子グループには別れて《スライム》か年少組の護衛することを頼んだ。
マップを埋めることと《ウィードスライム》には察知がある相手から隠れることを学んで欲しいところだ。出来れば倒せるくらいに強くなってほしい。
3階層に進み、嗅覚が尖そうな《ウルフギャング》のあとについて《デルモル》を探す。
さて、これから《デルモル》探しを頑張ろうと改めて気合を入れ直して分かれ道を曲がったその時。
奥の方でモグラを見つけた。
「確保ーーー!!」
思わず出た僕の声に《デルモル》と《ウルフギャング》が同時に走り出す。
圧倒的な戦力差を目の当たりにした《デルモル》は一目散に反対方向に逃げ……ることなくこちらに襲いかかってきた。
これがダンジョンに植え付けられた闘争本能らしい。
どんなに戦力差があろうと敵を見つけ次第戦闘を仕掛ける。ただし同じダンジョンのモンスター同士は決して戦闘しないらしい。一体人が入ってこないダンジョンではどうやって栄養を得ているのか甚だ疑問である。
威勢よく飛びかかってきた《デルモル》だが、我が軍は圧倒的じゃないか、といったセリフが出てくるほどにあっさり捕まえられた。
《デルモル》、哀れなり。
キューキューとルゥの手の下で暴れている《デルモル》の口に、学園の購買で買ったモンスター用の餌を無理矢理入れる。
ダンジョン産のモンスターはどんな形でも外部の物を体内に入れれば普通のモンスターと変わらないようになる。僕の知っているゲームでも拘束してから何パーセントで成功とかって仕様だったと思う。
そうして餌を口に入れた瞬間にキョトンとした顔になった《デルモル》は目が開けないほどの光を放った。
うっ、眩しい。
思わず腕で目を隠す。
光が収まった後にいたのはさっきまであったはずの傷や痕の消えた綺麗な《デルモル》だった。
新たに現れた《デルモル》は状況が理解できていないようで、きょろきょろと自分の周りにいる《ウルフギャング》や僕のことを見た後、死ぬかと思ったのか誰もいない方に逃げようとする。
怪我が消えていたり、さっきまでは拘束せずともこちらに向かってきた《デルモル》が必死になって逃げようとしているのは何となく変な感じがする。やっぱりそもそもの個体が変わっていたりするのだろうか?
なりふり構わず全力で逃げようとする《デルモル》だが、そんなことは《ウルフギャング》たちが許さない。
ステータスでは《ウルフギャング》に攻撃以外が若干上回っている《デルモル》だが、圧倒的な数の差には勝つことが出来ず、魔法を打ちまくりMPが無くなる頃に捕まった。
こんな手のひらサイズのくせしてタイマンなら《ウルフギャング》に勝てるってのは本当にこの世界ってファンタジーだよな。さっきまでMPが無くなるまで年長組の男の子チームを翻弄するほどだったんだから戦力としても期待できる。
完全に生きることを諦め、ぐたっとしたモグラをヴォルフが咥えて僕の目の前に置いた。
傍から見ると獲物の献上だな。
諦めたように見えたけどやっぱり死ぬのは怖いようで、プルプル震えている。
手のひらで掬って乗せてみるとプルプルがブルンブルンに変わってきた。
可愛く映るけど、小の方を僕の手にぶちまけているせいで全然可愛くなくなった。
汚い。
水魔法で綺麗にしつつ、これまた学園の購買で買ってきた餌を口の近くに寄せてやる。
モグラは視力が絶望的なので見せるだけでは反応しないのだ。
最後の晩餐という単語が頭に浮かぶほどのパクパク食べている。
やがて僕が背中を撫でて落ち着かせると、安心したのか別の方も漏らしながらテイム完了を知らせる安堵の感情と共に寝てしまった。
クッソ、なんで僕の手の上で……
そうして僕が水魔法の使い方を何度も練習しながら《デルモル》のテイムに成功した。
今日は目標だった10体のテイムに成功して、僕も20回の水魔法を発動をすることになった。
種族で漏らし癖でもあるのか……
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