12.出店
その後は地図を持ったアリスを戦闘に僕達3人は出店が出ている広間へとやってきた。
辺りには『知識』で知ってる祭りのようなデカデカと《サンドイッチ》と書かれた屋台や、何を売っているのか分からない怪しげなテントなど、面白そうなものがたくさんある。
「あそこ行ってみない?」
犬耳娘は返事も聞かずに看板すらないテントへ走って行った。
ちなみに名前はモモ、それとなく聞いてみたら電流が走ったように驚いて丁寧に自己紹介してくれた。
お父さんに仕込まれていたけど完全に忘れていたらしい。
涙目で口止めされた。背中が冷たかった。
そうして行くあてもない僕とアリスは一緒にモモの後を付いて、テントの外から顔を出して中をのぞいてみる。
中は案外綺麗で、一瞬本当に看板を出し忘れただけで出店なんじゃないかと疑うほどだった。
中央にドデカい鍋が、魔道具によって熱せられてブクブクと煮立っている。
その熱気は入口から覗いている僕たちの顔をむわっと通りすぎていく。
「ふふふ」
どうやら僕たちに背を向けて鍋に向かっているのは人のようだ。
含み笑いをしながら何かを鍋の中に入れている。
「……
僕とアリスは緑色の何かを見つけた瞬間にモモの目を塞いで即刻その場から離脱した。
あまりにも刺激的かつ不気味だ。教育にも悪い。
どうしてあのようなものがこの学園に存在しているのか不思議でならない。
きゃははとモモが喜んでいるうちにあのテントが見えない場所まで運んできた。
ふう、それにしても女の子とこんなに密着したのは久しぶりだ、いい匂いが……
どこまでも深く暗い目を見てしまった。SAN値チェックだ。
「アリス、あれって何だったの?」
モモが綺麗な目を取り戻したアリスに聞いてみると、どことなく顔を赤くしたアリスは困ったように口ごもる。
「あ、あれはねえ、たぶん私たちには早いわ。私はあれがなんだったのかを知るのは20年くらい先でもいいと思うの」
「ふうん」
出た! 大人の汚い手、『知るにはまだ早い』だ!
まあ、僕もなんだったのかを知らなくてもいいと思うんだけどね。
「あっ! 焼き鳥屋さんだ! アリス! リン! 一緒に食べよ!」
そうして僕たち三人はモモの好奇心の赴くままに出店を回っていった。
焼き鳥から始まり、チョコバナナや、なんかのスープ(おいしかった)、射的のような風を打ち出す魔道具を使った遊びやラジコンみたいにゴーレムを動かして景品を取る一風変わったクレーンゲームのようなものもやってみた。
「楽しかったね! またやりたい!」
モモがまだまだ遊び足りないようにゴーレムキャッチャー(リン命名)の感想を言う。
「楽しかったねー。それにしてもあのゴーレムのやつ、リン凄い上手かったよね。これも貰っちゃったし」
アリスがそう言って僕を持ち上げてくる。
アリスの腕の中にあるのはかわいいもの好きのアリスにお似合いのデフォルメされた”ライアン”というモンスターの人形が抱えられている。
成体になってもオオカミの子供の様な姿をしている配下を持つタイプのいわゆるリーダー系と呼ばれるタイプの魔物だ。
外見はどんなに強くなってもかわいいらしい。
「そんなことも、あるけどね~。そんなに褒めても何も出ないよ?」
そうそう、僕は今このゴーレムキャッチャーで取った景品のぬいぐるみくらいしかあげるものは無いよ。
「リンはすごいね! 虎徹も捕まえてるし!」
「はっはっは! そんなモモにはこのライアンの子供のぬいぐるみを上げよう!」
やっぱり僕はすごいのかもしれないな!
ちなみにライカンの子供は子犬の様な姿をしている。
つぶらな瞳が愛らしい。
「リンがすごいのは私がもっと昔から知ってるからね! 私の知ってるリンはもっともっと凄いんだから!」
「はっはっはっはっは! そんなアリスにはこのヴィーゼルのぬいぐるみを上げよう!」
ヴィーゼルのぬいぐるみは『知識』でいうところのイタチが球で遊んでいる様子を縫ったものだ。
野生を忘れてそうな呑気な顔が憎らしい。
それにしてもアリスの僕に対する評価は思いのほか高かったみたいだ。
僕はもっともっと凄いらしい。
僕もまだ発見してない長所があったりして?
うわー僕困っちゃうな、初対面のモモにこんなに言われるってことはもしかして僕はモテモテ?
えーーそんなにモテモテになると僕は困っちゃうよ~。
「おい! そこの平民! その女を置いてどっかに行け!」
ははは、お母さんに報告するときに何て言えばいいのかな? 「僕がモテモテすぎて何人もお嫁さんができました」って? でへへ
「おい! 聞いてるのか!? その気持ち悪い顔をしてるちっこいのだ!」
「でへへ」
「リン、なんか呼ばれてるっぽいよ?」
「え? 何?」
呼ばれた気がしてアリスの方見てみると、なんか身なりのいいけど育ちが悪そうな少年に目を向けていた。
その少年は僕に用があるようで、僕を睨むように見ていたので僕から声をかける。
「なんか用?」
「耳が悪いのか平民は! その女共を置いてけって言ってるんだよ!」
こいつはいったい何を言っているんだろう?
それに僕の耳は悪くない。
いったいどんな環境で育てばこの少年の様な子が育つのか、親の顔が気になるよ。
僕はこんな時に役立つ人を知っているので早速頼ってみる。
「モモ、次はどこ行きたい?」
「ん-、このアイスクリームってやつ食べたいです!」
「じゃあ行ってみよっか」
「おい! 平民が無視するんじゃない! 俺の言うことを聞け! その女共を置いていくんだよ!」
アイスクリームか、僕の『知識』は魔法に関することが抜けるから魔法でできたアイスクリームには期待できそうだ。
それと僕はこの少年は無視することにした。
まともに対応してもまともじゃない対応をしても絶対に良くならなからね。
「あれ? あの人リンに叫んでない?」
「それはきっと気のせいだよ。なんかそんなアトラクションがあるって先生が言ってたからね。だよね? アリス」
「え? う、うーん。そんなこと言ってた気が、するかなー? 幻術の耐性を付けるためとかなんとか? だったかな?」
これでいい? とこちらを見るアリスに僕は頷いておいた。
「そうだったっけ? うーん、そうだったかも!」
「でしょ? できるだけ幻術に反応しないようにね?」
「はーい!」
なんかいい感じに少年を無視する言い訳ができた。
さすがはアリスと僕だ、こんなきれいにコンビネーションが決まるなんて一緒にいた年数が違うね。
「俺は幻術なんかじゃねぇ! 平民が! 俺の親は伯爵なんだぞ! さっさと俺の言うことを聞くんだよ!」
やっぱりこの少年は馬鹿なのかな? ここに居るってことはこれからこの学校で生活するっていうのに大声出して迷惑かけて、周りの人が迷惑そうに見てるのがわからないのかな?
そんなことしないでせっかくのお祭りなんだから楽しめばいいのに。
「俺は幻術じゃないって言ってるよ? やっぱり普通の人なんじゃないの?」
「いや、幻術を使う人も幻術だとわかるようにはしないでしょ? 多分そうやって油断するようにひたすら『自分は幻術じゃない』って言ってくると思うよ? モモも油断しないように気を付けて。」
「そっかー、油断しないようにしないといけないのか」
なんか僕のことをアリス含めた周りの人が引いたような視線を向けてくるけど、心外だな。
その視線は少年の方に向けるべきだと思う。
そのあとも少年は僕たちの行くとこについてきて、大声で「女共を置いていけ!」と要求を繰り返していた。
そんな中でも純粋にアトラクションとして楽しんでいたモモは大物だと思う。
そんな中、立ち寄ったのはテントの中ある看板を「召喚魔方陣」と書いてあったお店だ。
「おい! 聞けよ!」
未だに少年は僕たちに向かって怒鳴りつけている。
そしてそれを迷惑そうに見ている同級生、もしくは上級生は注意はしないものの、先生に被害を報告すれば大体の人が仲間になってくれることだろう。
アリスが睨めば大人しくなる程度なのによく周りの視線が気にならないとは大物……ではなくただの馬鹿だな。
「召喚魔方陣って何?」
怒鳴る少年の声をBGMを聞き流しながら、看板の内容を読み上げながらかわいく小首をかしげるモモにアリスが召喚魔方陣の説明をした。
「召喚魔方陣っていうのは、二種類あって特定のモンスターを呼び出せる召喚魔方陣と、人によって出てくるモンスターが違うランダムの召喚魔方陣があるの。そして特定のモンスターを呼び出す召喚魔方陣は何より高いし、ふつうは〇〇の魔方陣って言われるはずだから多分この召喚魔方陣はランダムでモンスターが出てくるやつだと思う。」
「へえーアリスって物知りだね」
僕も思った。
「それと、ランダムの方の召喚魔方陣は特定のモンスターを呼び出す魔方陣と違って何回でも使えるはずだからこうやって祭りとか、お祝い事で運試しにって使われることが多いの」
「そうなんだ。やっぱりアリスすごーい!」
モモの持ち上げに得意げに胸を張るアリスがかわいい。
僕も一緒になってアリスの胸がどこまで張れるのか試してみたいけど、なんとなくこの少年の前だと気に食わない。
僕たちは会話の流れで召喚魔方陣のテントの前に少し続いている列に並ぼうとしたその時、少年が動き出した。
「はっはっは! こうすればお前らも無視できないだろ、召喚魔法をやりたければ俺の後ろに並ぶんだな!!」
「帰るか。あの魔方陣僕も作れるし、今度一緒にやろうよ。今は今日しかできないこといっぱいあるしね。そうだ、あのゴーレムキャッチャーのコツを教えてあげようか?」
僕は踵を返してアリスとモモをゴーレムキャッチャーの屋台に誘導する。
「そういえば、確かに何時でもできるし、私も今にこだわる必要もない気がしてきた」
「え? あの幻術さんも無視して並べばいいんじゃないの?」
違うよモモ、僕とアリスは見えない設定だから。
愕然としている謎の少年は目に映らないんだよ。
「あれ? 幻術さんも並んでるの? ならここに置いて行った方がいいよ。幻術師の思い通りにしないためには幻術さんが見えない僕かアリスの言うとおりにした方がいいはずだし。」
「そっか、ならゴーレムキャッチャー行こう!」
そうして僕たちがゴーレムキャッチャーをやりに行くために歩き出すと、今度は少年は僕たちの方に肩を怒らせながら叫んできた。
「いい加減にしろー!!! いうことを聞けって言っているんだ! 平民風情が!」
無視無視。
「……」
あ、やっと静かになった。
少し振り返って様子を見てみると、少年は屋台の前で俯いて何やらぶつぶつ言っている。
奥に見える『召喚魔方陣』の屋台の店員が迷惑そうにしている。
まあ、やっと静かになったんだ。もう関わりたくない。
店員は僕たちよりも被害は圧倒的に少ないはずだし頑張って撃退してくれ。
僕たちは他愛のない話をしながらゴーレムキャッチャーの屋台を目指して歩いた。
僕がゴーレムキャッチャーの景品をとるコツを教えるとモモは大声を出して驚いてくれた。
「ええー、あれって持ち上げちゃダメなの?!」
「そう、モモは頑張って運ぼうとしてたけど、あれは片方のアームを使ってずらすのがポイント。」
「……私もそれは分かってたけどいまいち成功しなかった。」
アリスは僕が言うまでもなく取り方を見抜いていたらしい。
いや、もしかしてモモにカッコいいとこを見せようとしてる? ……あるかも。
歩いていると、ふと僕とすれ違う寸前の女子生徒が目に入った。
栗色の髪をボブ? にまとめたかわいい系の女子。
僕が気になったのはその顔が恐怖で染まっていた点。
手は震えていて、何やらお化けでも見たような表情だ。
その時、僕はきっとお祭り気分で浮かれていたと思う。
だから真後ろから聞こえた声に馬鹿みたいに驚きながら振り返ることしか出来なかった。
「――俺のことが見えないなら殺されても文句は言わないよなあ!!」
目の前に広がるのは巨大な火の玉。
その真っ赤な熱は僕を燃やし尽くそうと
僕は火の海に飲まれ、意識が遠のく中、アリスの表情を見てこう思った。
――やっぱり強くならなきゃな
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