10.学園道中


 学園に行く間の馬車の居心地は最悪だった。

 今年15歳になる村の子供達を一つの馬車に詰め込んで、途中の村でも何人かを拾って学園都市『エンリカン』に辿り着いた。

 道中には体調を崩した人がいたり、それを申告せずに唐突に吐いた人が居たり、本当に大変だった。

 何でも食べるスライムがいて本当に良かったと思う。


 そんな過酷な道中に、さらなる苦痛がもう一つ。


「ねぇねぇ! なんでそんなにウルフギャングたちが可愛いの? 私のお父さんでもこんな可愛くなかったのに!」


 サスペンションがないため、かなりダイナミックに揺れる馬車の中。頭頂部から犬耳を生やした少女に肩を揺すられていた。


 吐き気が……うっぷ


 さっきまではまだ子供の虎徹を振り回してご機嫌だったので、僕は生贄として虎徹を差し出したんだ。虎徹も楽しそうだったし。

 でも今は気持ち悪くなりボールから出てこなくなった虎徹を見て俺に標的を変えたらしい。


「多分君のお父さんが可愛いんじゃなくて君のお父さんが捕まえたモンスターじゃないかな?……うっぷ」


「ねぇ! 教えてよ〜! ボアちゃんの赤ちゃんもディアーの赤ちゃんも見たことあるのにウルフギャングの子供なんて初めてみたー!」


 野生の動物は赤ちゃんを他人に見せないものだよ。


「……うっぷ」


 だめだ、抗議の声も出せない。


 最初は無差別に標的を変えていたこの犬っころはその次の目的地まで僕専用になってしまった。

 吐いたかどうかまでは、僕の名誉のために黙っておこう。 



___



 その後更に人口密度の上がった馬車をヘロヘロになりながらロバ型のモンスター『ドンキー』に引っ張ってもらって、どうにか目の前に学園都市が見えるところまでやってきた。

 今はさすがの犬っころも自由に身動きが出来なくて、近くにいる人を揺さぶっている。


「見てーー!!! アリス! 綺麗!! デッカイ!!」


 被害者はアリスだ。

 

 ……そんな捨てられた犬のような目で見ないでほしい。僕が助けを求めた時には見て見ぬふりをしたくせに。

 助けられる状況じゃなかった? 僕も今、身動きが出来なくて困ってるところだ。


 アリスが悟ったような顔をして、僕にスライムを要求する中、僕はちょうどアリスの向かい側の窓際だったので、学園都市『エンリカン』を眺めてみる。

 ちなみにスライムは食べ物の好き嫌いがなく、野外のトイレとして利用する人もいるらしい。今は全く関係ない話だが。中には体の中に入れている猛者がいるらしい。『知識』そこまでの変態はいなかったはずだ。


 窓から顔を出して、前を見てみると最初に目についたのが大きな城壁だった。

 材質がなんなのかまではわからないものの、知識にある『レンガ』のように規則正しく『レンガ』のように四角い物が並んでいるように見える。


 それと何故か開いたままの門。

 そしてその前にある馬車を並べた長蛇の列。

 まだまだこの馬車からは降りられないらしい。うっぷ


 上に目を向けると城壁越しに見えるのは天を衝くような高い塔。

 知識にある『スカイツリー』や『東京タワー』などの塔には及ばないものの、かなり高い。

 歩いて登りたくはない。


 そのまま目を下に向けて、城壁の上の通路に目を向ける。

 城壁の上には見張り台に憲兵らしき人がこちらを伺っていた。


 とりあえず手を振ってみる。

 お! こちらが手を振っているのが見えたのか、見張り台にいる人が手を振り返してくれた。

 こちらからもわかるように大きく激しく手を振っている。

 

 あっ、上司っぽい人に頭を叩かれた。

 部下が上司に食って掛かるものの、上司は目を向けずに注意をしたあとに別の所に歩いていった。


 あ、部下さん可哀想に。


「リンー! スライム出して!」


 聞こえてくるのはアリスの声ではなく、犬耳娘の嫌そうな声だ。揺らしている相手が吐いたときによく聞こえる声だ。


 やべ、ギリギリで助けようと思ったのに思ったよりも景色を楽しんでしまっていた。

 これはアリスに怒られるのが確定かも。

 ……アリスに怒る気力はあるのだろうか?




☆★☆


 馬車が無事に学園都市『エンリカン』に到着して、やっすい宿で貸し切りにして男女別に雑魚寝した翌日。

 僕はアリスに怒られながら学園に向かっていた。


「なんであのときスライムを出してくれなかったの?」


 ただ静かに僕の過失を咎めてくる。


「他の人は吐きそうになってたらスライム貸してあげてたじゃない?」


 アリスは無表情。淡々と僕の行動に疑問を問うてくる。


「私も揺られて顔色悪くて、リンもそれを見てたよね?」


 周りにいる同じ馬車に乗ってきた他の子たちも他人のフリをしてやり過ごそうとしている。

 僕が馬車の中で助けてあげたっていうのに!

 助けたのはスライムだけど!


「なんでスライムを私に送ってくれなかったの?」


 顔を見たくない。でも、目を逸らしたらもっと酷い事になる予感がする。

 嫌な予感を避けようと、アリスの方を見る。

 すると、そこにはなにもなかった。虚無だ。

 表情も無ければ目のハイライトが消えている。

 ……体が震えてきた。


「わ、わたくしと致しましては、そのような事実は……「どうしてなの?」


 クッ、どうしてだ! この口調なら必ず安全に言い逃れが出来るはずなのに!


「まっ、誠に遺憾で、であります」


「ふ〜ん、いいんだ?」


 僕がふざけていると、今度はアリスが立ち止まって僕の目の前に迫ってくる。

 近すぎるアリスの顔にドキドキしていると、アリスは僕の背が小さいことをいいことに、僕の頬を抑えて逃げられないようにしたあとに上から覗き込んでくる。

 ……もしかして冗談じゃない?


「責任、取ってもらうから」


 今までに見たことのないアリスの表情に恐怖か恋か、わけも分からず胸の鼓動が早まる。

 アリスから目が離せない。

 じっと見つめる目から顔を背けられない。


 アリスの顔が近づいて――


「ふっ、じゃあ行こうか。リン」


 一体何が合図だったのか、アリスは僕の顔から手を離して、いつもの雰囲気に戻っていた。

 うぅ、心臓の負担が大きい。


「ほらリン、ちゃんと歩いてよ」


 そのまま余韻なのか驚きなのか、自分でも分からずに惚けている僕をアリスが手を引いて歩いている。


 歩きながら目に入るのは周りからの好奇の視線。

 ドクドクと自己主張をしてくる心臓は未だに暴走気味だ。

 まだ痛い。

 ついでに周りの視線も痛い。


 アリスはそんな視線も気にならないようで、先程とは打って変わって上機嫌な様子だ。

 ……いつか仕返しをしてやろう。


 胸を抑えている手を握りこぶしに変えて、僕はアリスへの仕返しを未来の僕へと託した。




☆★☆



 鼓動も収まり、同じ馬車に乗ってきた人たちに一通り茶化されたあと、僕達は一つの建物に圧倒されていた。


「すっげぇ、でっけぇ、かっけぇ」


 誰が言ったのか、それ以外出てこないとばかりに放った言葉だが、僕もこの建物をどう表すかといえばそうなると思う。


「ようこそ、エイブ村の皆さん。ここは学園都市『エンリカン』の中心であり、世界最高峰の教育機関。学園『エンリカン』へ」


 でかい塔の前で立ち尽くす僕達は、案内のお姉さんに引率されて建物の中に入っていく。

 出迎えの言葉は文面だけを見れば田舎からやってきた若者たちに元気ハツラツな綺麗なお姉さんが歓迎している言葉だ。

 だが、現実は厳しい。

 実際にセリフを言ったのは、綺麗なお姉さんではあるものの声は疲れ果て、今にも仕事を投げ出してどこかに行ってしまいそうな雰囲気のお姉さんだ。

 もしかして今日一日、いや、ここのところずっと毎日あの言葉を出迎えのタイミングに言っていたんだろうか?

 それにしても目も化粧じゃ隠しきれないクマや心做しか綺麗な緑色の髪もツヤが無く、とても大変そうだ。


 僕達は主にエイブ村―名前は初めて知った―周辺の村から集められた子供だが、当然この国のすべての15歳を集めているので学園であるでっかい塔の前には人混みが出来ている。


 その子供達を引率するお姉さんやお兄さんたちは誰もが疲れている様子。

 今もお姉さんはどこかに走り去っていこうとしている犬耳娘を見つけたものの、諦めたようにため息をついていた。

 僕が見る限りではこの案内のお姉さんが一番顔色が悪い。


 ううむ。

 どうにかできないものか。


「ねぇ、リン? そのお姉さんがどうかしたの?」


 アリスが笑顔で話しかけてくる。

 本来なら癒やされるはずの完全無欠のキューティースマイルだが、タイミングが悪かったのか僕の背中に汗が一筋流れるのを感じる。


「なんか、すっごく疲れてそうな感じしない? アリスはなにか元気付ける方法ある?」


 素直に今、考えていたことを伝える。

 嘘はいけない。

 ボク ハ ウソ ツカナイ。


「う〜ん、リンは優しいね。みんな学園に夢中で案内の人なんか見てないのに」


 苦笑いを作るアリスに言われて周りを見渡すと、たしかにみんな案内の人の指示は聞かずに自分勝手に動いてる感じだ。

 でも、僕はこの建物を知ってるし、『知識』でならこれ以上にすごいものを知ってる。


 『東京タワー』なんて人数が少ない中、一番上の責任者が二十代で、命綱なしであの高さを作ったらしい。

 魔物も機械もなしにあれを作るのは正気じゃない。


 それに比べれば魔法もあるし、魔物もいるし、何なら空飛べるんだからもっと高いものも作れると思うな。

 そう考えれば大したことに聞こえないのが面白い。


 それでもさっき初めて見たときは圧倒されたんだけど。


 でも、僕が優しい? 優しいのかな? 優しくなくても僕はあの顔色は放っておいたらだめなやつだと思う。


「でも、喜ばせる方法? 村の子供たちはスライムに揉まれて喜んでたけど。」


 アリスの言うことはイヤらしい意味じゃなくて、大量のスライムの中に入っていくアトラクション的な何かだ。

 多分前世で言うところの『ボールプール』みたいな感覚だと思う。


 前世なら子供用なのに何人か大人も参加してたからな。

 ……ちょっと楽しそうだから僕は誰もいないことを確認した後に一人でやってた。楽しかった。


「あれは元気なときにやるのが楽しいんじゃないのかな?」


「……そうかも、う〜ん、じゃあリンが励ましてきたら?」


「え? いやいや、そんなことで元気出るかな?」


「人から励まされたら嬉しいでしょ?」


「なるほど」


 それもそうだと思ったので僕は何体か出たままのスライムと虎徹をアリスに預けてお姉さんのところに行ってみる。


「お疲れですか?」


 忌々しくも声変わりもしていないソプラノボイスで話しかける。


「……? どうかしたの?」


 お姉さんは緩慢な動作で僕を振り返る。

 聞こえなかったのかな?


「すごく疲れてそうに見えたんですが、大丈夫ですか?」


 今度は聞こえたようで、お姉さんは疲れが取れたようにニコッと笑顔を見せる。


「大丈夫よ、私は元気」


 うん。確かに疲れが取れたように元気に見える。

 でも、前世の『知識』ではこのタイプの人間は疲れを隠すのが上手いのだ。疲れを隠しているようにしか見えない。

 とはいえ、僕に出来ることってあるのかな? やっぱり『知識』にあるモンスターかな?


「全然関係ないんですが、お姉さんのテイムしてるモンスターってなんですか?」


 この世界ではモンスター嫌いとかの人を除いて大抵の人がモンスターをテイムしている。


 無骨な鉄球の中にどんな凶器が入っているのか分からない世界だ。

 他人のボールの柄が見えない都合上、中身がない場合もあれば天候を変えるほどの力を持つのが入っている可能性も十分にある。

 前世とは違い、自分の身は自分で守らないといけないなら戦力は多い方が良いに決まってる。

 食費が賄える範囲でね。


「私がテイムしてるのはこの子だけね」


 そういいながらお姉さんが腰につけていたボールから出したのは、イタチのような肩に乗るサイズの魔物だった。


「《ヴィーゼル》って種類の魔法型ね。名前はキューちゃんよ」


 名前を呼ばれたキューちゃんは飼い主のお姉さんの頬に自分の鼻をこすり付けている。

 このキュートな姿を見れば後ろのアリスの顔が緩んでいるのが容易く想像できる。


 にしても《ヴィーゼル》か。進化が少し面倒な進化前の個体だな。でも条件は揃っていそうだ。

 丁度よく僕が何とかできそうなのが出てきてくれた。

 でも僕が勝手に決める前にお姉さんの話も聞かないと。


「どんな進化先を目指してるんですか?」


「え、そんな私が《ヴィーゼル》の進化なんて出来るわけないじゃない」


 ヴィーゼルの進化はそんなに難しかったかな?

 僕の『知識』では面倒だけど必ずできる初心者卒業用って感じだったけど。


「それでも、するとしたらどんな進化先ですか?」


「う~ん、そーね。戦いはさせたくないし、回復系かな? でもそんなことを聞いてどうするの?」


 なら結構。本当に都合がいいね。僕が進化させることができるものと一致している。

 こうも上手くいくとは運がいいね。


「じゃあ僕が《ヴィーゼル》の進化の手伝いをしましょうか?」


「あはは、大丈夫よ、この子が嫌がるから別のモンスターを捕まえてないけど、私はそれでもいいのよ

 あ、もしかして私を笑わせようとしてくれたの? 優しいわねー。」


 お姉さんは笑って気が抜けたのか、眠そうに目を擦りながら僕の頭を撫でる。

 ……ちょうどいい位置にあるからって。

 まあ、元気が出たならいいけど。


 じゃあさっさと《ヴィーゼル》の進化をさせてしまおう。


「はい、お姉さん手を出して?」


 僕は非常用の肉k……ごほんっ! 非常時にすぐに取り出せるようにスタックボールからあえて出していたスライムの入ったボールからスライムを出す。


「はーい」


 なんだかご機嫌なお姉さんは素直に手を差し出した。

 ……親戚の小さい子の相手をしている優しいお姉さんが脳裏に浮かんだけど無視無視。


 僕はスライムをお姉さんの手に乗せてスライムに指示をする。

 『ほんとにいいの?』とか、『大丈夫なの?』と不安そうに青い体をふるふるしているが、問題ないやってしまえ。


「きゃー! なんで私の手を溶かしてるの?!」


 手を溶かし始めたスライムを振り離そうと手をぶんぶん振り回すものの、スライムはその程度じゃ振りほどけない。


「リン!!」


 アリスはずっと見守っていたようで、近くに来て僕を問いたださそうとする。

 あー皆塔に気を取られてたから行けると思ったのに。


「何をやってるの! 励ますんじゃなかったの!」


 そんなに怒らないでほしい。僕は《ヴィーゼル》の進化をさせようとしているのだ。


 まだスライムを振りほどこうとしているお姉さんを見ると、皮膚が溶けて肉が見えていた。


「大丈夫だよ、僕には《ヒーラースライム》も居るんだから」


 それを聞いて怪我を直せるのを思い出したのか、アリスは焦らせやがってと恨めしそうにこっちを見てくる。


「そんなに心配しなくてもスライムも手加減してるんだから。それに傷を残すようにはしないよ」


「ちゃんとしてよね?」


 頷きながらお姉さんを見ていると、とうとうお姉さんの肩を右往左往していた《ヴィーゼル》に動きがあった。

 僕はスライムにお姉さんから離れるように指示をする。


 《ヴィーゼル》のキューちゃんは痛ましく肉が薄く見えてきた手を見て、何かを決意したような顔をすると《ヴィーゼル》の体が光る。


「え、まさか……」


 お姉さんは手の痛みを忘れたようにキューちゃんを見つめていた。


「リンって凄いんだね」


 ともすれば風に流されて聞こえなくなるくらいの小さな声が隣から聞こえてくる。

 ふふん、そう僕はすごいのだ。


 光が消えた後、そこに居たのは頭から尻尾にかけて白い何本かの模様が付いた回復型の《ヴィーゼル》の進化系ハイレンヴィーゼルだった。


「え、……キューちゃん?」

「きゅい」


 キューちゃんはお姉さんの手に向かって鳴き声と共に魔法を放つと、瞬く間にお姉さんの手は以前と同じ、綺麗な手になっていた。


 《ヴィーゼル》の進化条件は『主人のピンチ』だ。

 その判定基準は『知識』の中のゲームでは主人が所持しているモンスターの数によって必要なピンチの度合いが違っていた。

 僕がもし《ヴィーゼル》を捕まえて進化させようと思ったら、全身骨折に四肢切断をしてもまだ足りないだろう。

 代わりに《ヴィーゼル》一体だけテイムしているのならかなり緩い制限しかない。

 お姉さんはああやってあわてていたけど、あれも回復魔法を使わなくても一日すれば治る程度だ。ヒリヒリするけど。


 それが僕が丁度いいと言っていた理由だ。


 加えて、《ヴィーゼル》の進化先は魔法の属性ごとにあるが、僕はそれの指定する方法を知っている。

 主人のピンチが火によるものなのか、水によるものなのかによって進化先で使える魔法は変わようになるのだ。

 今回の例ではスキルでも魔法でもないけど、確かに他者からの攻撃を見た《ヴィーゼル》が相手の手段を問わず、主人を癒すために回復系に進化したのだ。


 なんて、無事に成功したことに安心していると、ボールにキューちゃんを戻したお姉さんが僕を見つけて歩いてくる。

 あ、目がちょっと怒ってる。

 あーあ、もともとこの方法をやるには怒られるのは覚悟してたけど、ちょっと怖い。


「ねぇ? お名前教えてくれる?」


「あ、リンです」


 マジで怒ってるかも……

 そう思っていると、目の前が真っ暗になった。


「わっ!」


 感じるのはお母さんやアリスから感じるやわらかい匂いだった。


「あのね、リンちゃん。キューちゃんを進化させてくれたのはうれしいんだけど、先に言ってくれればもっと嬉しかったなぁ」


 僕から体を離したお姉さんは怒っていたはずなのに僕のやったことをうれしいと言っている。

 そっか、お姉さんは怒っててもちゃんとありがとうって言ってくれてるんだ。


「あの、ごめんなさい」


 うん、アリスもあわててたし、先にやることを伝えていればもっと良かったんだ。

 はやく僕の『知識』を使ってみたかったけど、ちゃんと説明すればきっと信じてくれたはず。

 あ、でも本当に信じてくれたかな? でも《ヒーラースライム》を見せれば半信半疑でもやってくれていたのも。

 というか、実際に教えたとしても《ヴィーゼル》が進化するための条件の『主人のピンチ』が満たされるのか分からない。本当に慌ててたから成功したかもしれない。事前に知らせて成功する自信は流石に無かった。

 まあでも、普通は先に知らせた方がいいに決まってるよね。


「怒ってないから大丈夫よ。あと、お姉さんの名前はアマンダ。今度お礼するからその時また会いましょうね?」


 安心させる笑みを浮かべたアマンダさんに僕は頷いて答えた。


「ちっ、私にも胸があれば」


 ……何か後ろから聞こえた気がするけど、たぶん幻聴だな。馬車で僕、ちょっと疲れたのかも知れない。

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